6月に行われた米朝首脳会談。 そこでは、核兵器と弾道ミサイルの「完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄」が話し合いがされたことになっていたが、あれから1ヶ月が経過した今になっても、一向にそうした兆候が見えてこない。 それどころか、それとは真逆的な北朝鮮による「核とミサイルの開発」が
今もなお進められているという情報が次々と伝えられて来ている。
首脳会談後には、北朝鮮のテレビで核実験場の爆破の映像が流され、また1週間ほど前には、ミサイル発射実権場施設の解体の様子が伝えられていた。 しかし、7月31日付のワシントンポスト紙は、米国の情報機関が衛星写真を分析したところ、北朝鮮のピョンヤン市郊外にある兵器工場で、ICBM
(大陸間弾道ミサイル)を製造している動きが新たに見つかったと報道。
また、25日に行われた米国議会上院の公聴会でポンペイオ国務長官は
、ミサイルに積載する核弾頭に必要な核物質を今もなお製造し続けていることを認める証言を行っている。 そして、韓国に駐留する米軍のブルックス司令官もまた、「北朝鮮の核製造能力はまだ完全なままの状態である」と語っている。 つまり、核兵器もミサイルも開発と製造は止むことなく、今もなお秘密裏に進められているというわけである。
これでは首脳会談後にトランプ大統領が得意げに語っていたその成果は一体どうなってしまったのか、と言わざるを得なくなってくる。 大統領がこれまでに自慢していた成果は、北朝鮮が拘束してい
た3人の抑留米国人を釈放したことと、朝鮮戦争で亡くなられた米軍兵士の遺骨の一部を米国に返還したこと位である。 それらは、大見栄を切った核とミサイルの
廃絶に比べたら、些細(ささい)な事項と言わざるを得ない。
そして現在は、核とミサイルの製造の中止に関して、期限にこだわらないかのような発言をするようになり、側近に対して「完全かつ継続的で不可逆的な中止」という言葉自体を使わないように指示を出しているようである。 そうなる、彼はどこまで真剣に自身の語った事柄を実行する気があるのか、疑わざるを得なくなって来ている。
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ポンペイオ国務長官(上)は北朝鮮が今も核物質を製造し続けていることを認め、
在韓米軍のブルックス司令官(下)は、北朝鮮の核製造能力は完全なまま
だと発言
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かねてから私は、そもそも初めからキム・ジョンウン主席には、トランプ大統領が唱える「完全な非核化」を受け入れる気などないという事を何度も申し上げてきた。 GDP(国内総生産)比で、米国の1100分の1しかなく、アフリカの小さな国・ガボン国程度の北朝鮮が、三代にわたって膨大な経費をつぎ込んで開発
して来た核とミサイル開発を放棄するはずがないからである。
これから先、時間をかければ多少の進展はあるかもしれないが、トランプ大統領が求めていた「完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄」を前提にした「完全な非核化」が実行されることはあり得ない。 なぜならキム・ジョンウン自身とその家族を守る上で、「核とミサイル」がかけがえのない防御策であることには、今もなお変わりはないからである。
今、彼の頭の中にあるのは、中国とロシアを味方につけて制裁を1日も早く解除させ、米国を射程圏内に収めるICBMと、それに搭載出来る核弾頭を完成させることである。 そして彼にはそれを成し遂げるだけの才能があるのだ。 2017年5月に記した「北朝鮮と金正恩の実体
@」と「北朝鮮と金正恩の実体 A」を読み直して頂ければ、彼の並はずれた才覚と行動力、それに残酷で無慈悲な心根が分かるはずだ。 トランプはおろか、習近平やプーチンさえも手玉に取るだけの才能を、彼は持っているのだ。
一方、トランプ大統領自身にとっても、「完全な非核化」は実現してくれるに越したことはないが、今はもう100%完璧な非核化でなくても良し、という考え
に切り替えているに違いない。 なぜなら、北朝鮮の完全な非核化への取り組みは、トランプ大統領にとって、11月に行われる中間選挙で勝利する
ための手段の一つに過ぎなかったからである。
今もなお不動産屋的発想から抜け出せない彼には、「世界の平和」や「核の廃絶」などに政治生命をかける考えなど、もともと持ち合わせていなかったのだ。 就任後に、実戦に使える小型核爆弾の製造を命じたことを考えればお分かりだろう。
今は二人とも、良いとこ取りして笑みを浮かべているが、最後にほくそ笑むのはどちらになるだろうか。 それは1年後、ないし2年後にははっきりすることになるであろう。 時間に余裕がお有りの方は、「北朝鮮突然の変貌の真相」、「北朝鮮、加速度を増す核・ミサイル実験」、「北朝鮮情勢の真相」、などを読まれたら、行く先が見えてくるかもしれない。
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核兵器用のウラン濃縮が今もなお続けられているピョンヤン近郊の工場
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