今回は今世界が注視しているジャーナリストのジャマル・カショギ氏に対するサウジアラビアの殺害容疑について記すことにする。
カショギ氏はサウジアラビア政府に批判的な記事を書いて来たジャーナリストであるが、彼は今月2日、トルコのイスタンブールにあるサウジアラビア総領事館を訪れた後、行方不明となっており、真相究明を求めてトルコ政府だけでなくイギリス、フランス、ドイツ、米国
などからサウジアラビア政府に対して強い抗議の声が上がっている。
ジャマル・カショギ氏は離婚に必要な書類を提出するため総領事館を訪れたのだが、そのまま外に出てくることがなかったため、同行した女性がマスコミにカショギ氏が総領事館に閉じ込められてしまった
、として支援を求めるところとなったのだ。
しかし、その後1週間、10日たっても所在が明らかにならないため、館内で暗殺されたのではないかと言う
サウジアラビアに対する殺害疑惑が広まり、トルコを始めとする各国からジャマル・カショギ氏の所在をはっきりするようサウジアラビア政府に抗議の声が上がり出したのである。
実は、カショギ氏が総領事館を訪ねたその日、サウジアラビの工作員と思われる15人がトルコに入国し、総領事館に入ったことがビデオ映像で明らかとなっているのだ。
そして、マスコミは彼らがサウジアラビア政府の指示に従って、館内でカショギ氏を殺害したのではないかとする報道を、伝え始める事態となったのだ。
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トルコのエルドアン大統領も米国のトランプ大統領も事を穏便に
収めたいのが本音であろうが、事はそんなにうまくいくかどうか疑問だ。
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トルコのエルドアン大統領はサウジアラビアのサルマン国王と電話会談し、総領事館での調査を要請。 また米国のトランプ大統領も電話会談で真相究明を求めたが、国王からは「私は何も知らない」「政治的圧力や誤った告発などによる脅しを完全に拒否する」と
一貫して疑惑を否定し、真相究明に役立つ発言は為されなかったようである。
トランプ大統領は、イスラエルとの友好的な関係を進めるサウジアラビア政府に対して好感を持っており、大統領就任後の中東歴訪に際して最初の訪問国とするなど友好関係を深めて来ている。
しかし、米議会からのサウジアラビアに対する制裁発動を求める声に抗しきれず、表面上は厳しい態度で臨む姿勢を見せているのだ。
そんな状況の中、15日、トルコとサウジアラビアの共同の調査団が総領事館内の調査に入るという、異例の措置が取られることとなった。 トルコの調査団がサウジアラビアに対して、総領事館の下水排水図の提出を強く求めていることからすると、どうやらトルコはジャマル・カショギ氏の遺体が下水排水路に遺棄されているのではないかと考えているようである。
こうした流れを見る限り、カショギ氏は総領事館内で政府系の人間によって殺害されのはほぼ間違いないようである。 そして、それを命じたのはムハンマド皇太子で、その事実を知ったサルマン国王が表に出て、
事態のもみ消しに動き出していたと言うのが真相のようである。 しかし、世界からの追及が殊の外厳しくなって来たため、トルコ政府による領事館への立ち入り調査を認めるところとなった
と言うわけだ。
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総領事館に調査に入るトルコの調査員
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サウジアラビア、米国とイスラエルとの友好関係を断つか
調査結果がどう出るか不明だが、
16日夜にも予定していた2回目の調査をトルコが中止したところをみると、15日の調査ではサウジアラビアの十分な協力が得られなかったようである。 今後のトルコの調査結果の発表が待たれるところであるが、米国のウォール・ストリート・ジャーナル紙は次のような驚くべき記事を書いている。
「サウジアラビア政府は、ならず者の工作員らが誤って殺害したとの発表を検討している」。 どうやら、サウジアラビア政府としては落とし所を工作員のミスとして決着を図ろうとしているようである。
しかし、カタールのアルジャジーラはカショギ氏が総領事館の部屋に入ってからの音声の録音を入手しているようなので、そう簡単には事は収まらないかもしれない。
録音内容によると、部屋に入って2分後に
(工作員だと思われる)数人が入って来て、激しい口論と殴る音が聞こえ、やがてカショギ氏が「自分を針で刺そうとしている」という意味のことを話し、静かになったようである。
それは4分間の出来事であったという。
カショギ氏はこうした事態になることを予期し、マイクを洋服に隠し外にいる女性に録音させていたのかもしれない。 いずれにしろ、工作員の行為は最高権力者・ムハンマド皇太子の了解を得て行ったことは間違いないと思われるが、皇太子はカショギ氏の逮捕とサウジアラビアへの送還を命じただけだということで決着しようとしているのではないかと思われる。
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今回の事件の裏にいるのがムハンマド皇太子であることは間違いない。
米国・共和党のグラム上院議員は「サウジでは皇太子が関知することなく
何かが起きることはない」と語っており、また、彼は「破壊的」で「毒をまき散らす」
人物だとも語っている。 そうした考えは欧米には多いようである。
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これから先の動きは、サウジアラビアへの武器輸出で膨大な利益を得ている米国(サウジアラビアの武器輸入額の60%を占めている)と、英国
(20%)の対応である。 昨日、ムハンマド皇太子と電話会談したトランプ大統領は「皇太子は総領事館で何があったか全く知らなかったようだ」とツイッターしている所を見ると、
大統領の事を穏便に抑えたいという心の内が見え見えである。
問題は真相が明らかとなり、世界の世論がムハンマド皇太子に向かった時、彼がどう対応するかである。 実はサウジアラビア政府は、今回の諸外国からの政治的圧力に対して、もしも、制裁など何らかの攻撃的措置を受けた時には、大きな反発行動に出ることになるとする声明を発表しているからである。
この「大きな行動」に関して、サウジアラビ政府系のマスコミは「大きな行動とは石油の産出を大幅に減少することなどを意味しており、その際には石油の値段は現在の3倍、つまり、1バーレル当たり200ドル位に高騰するかもしれない」
とする、脅しともとれる記事を掲載しているのだ。
昨年、ムハンマド皇太子が王位継承者となり、政治の実権を握ってから以降の彼の行動を見ていると、そうした措置をとる可能性は十分にあり得る。サウジアラビアが世界の石油備蓄量の5分の1を握る最大輸出国であることを考えると、この記事は見逃せない。
もしもそうなったら、ロシアやイランなどの石油産出国は喜ぶだろうが、世界経済は大混乱である。 そして、サウジアラビアと欧米諸国との関係は一気に悪化することは必至。 その結果、サウジアラビアはロシア、中国と手を結び、イスラエルとの友好関係は終わることになる。 それはまた、ハルマゲドンへの新たな一歩となりかねないだけに要注意だ。
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事態の推移いかんによってはサウジアラビアは米国やイスラエル
から離れて、ロシアとの友好関係を増すことになるかもしれない。
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