11月30日、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで行われたG20首脳会合、世界が注目したのはこの会合より、その後に予定されていた米国とロシア、米国と中国との首脳会談であった。 その一つの米ロ首脳会議は先般、クリミア半島沿岸でウクライナ海軍の艦船がロシア側に拿捕されたことで中止となり、もう一つの米中の首脳会談における貿易摩擦問題の行方に注目が集まっていた。
今年の夏から始まった米中間の貿易摩擦問題については、すでに何回にもわたってお伝えしてきているので、10月から始まった中国から米国への輸出品2000億ドル(23兆円)分に対する追加関税10%が、来年1月から25%にアップされるかもしれないことは、ご承知のことと思う。
今回の米中首脳会談はこの点に関する協議が主要の議題となった。 会談の結果、中国がこれから先、米国から農産物や工業製品を相当量買い入れることを条件に、25%への追加関税は90日間先送りされることとなった。
問題は追加関税が中止されたのではなく、あくまで日数限定の先送りであった点である。 これから先90日間に、米国が問題だとしている中国による知的財産権の侵犯や技術移転、サイバー攻撃に対して、中国政府の歩み寄りが為されない限り、25%の関税は予定通り実施されることになるというわけである。
実は、知的財産権などの3つの事項は、米国にとって中国のテクノロジー大国化への重要な懸念点であり、米国が強い警戒感を持って来ていることだけに、今回のような妥協案で簡単に合意できる事ではないことは事実である。
むしろ、今回の会談合意は米中間の隔たりの大きさを、改めて浮き彫りにしたと受け止めたほうがよさそうである。 したがって、今回の合意でとりあえず厳しい状況に向かっていた世界経済は一息つくことになったが、90日後の3月には再び世界はその成り行きに一喜一憂することになりそうである。
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会談終了直後に行われた王
毅(おうき)外相の異例な記者会見
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私が今回の首脳会談で改めて思い知らされたことは、7月から実施されている米国の対中制裁関税による悪影響が、予想以上に米中両国で大きくなっているという点であった。 まず中国においては、米国への輸出の激減によって中小企業の業績が急激に悪化して来ており、一歩間違えば、習近平政権に対する不満が爆発する可能性があったことである。
中国が会談相手国より先に記者会見を行うことなどあまり前例のないことであるが、会談直後に米国に先立って王
毅(おうき)外相が行った異例な記者会見は、中国国民の間に広がっている不安や不満がいかに大きくなっているかを物語っていた。 どうやら中国政府はその実体を厳しく受け止めて
いるようである。
さらに驚かされたのは発表された会談の内容であった。
外相は追加関税がなくなったことのみを伝え、知的財産権などの重要な案件の交渉が残されたことについては、全く触れていなかったのだ。
今回の記者会見は、国民に対する安心感を一刻も早く伝えるために行われた異例の措置であったため、国民に不安を持たせる内容は控えたものと思われる。 どうやら、習近平政権は伝えられるほど盤石ではなさそうである。
また一方、これまで大きく取り上げられていなかったが、実はトランプ政権にとっても問題点が発生していたのである。 それは大豆などを生産している米国の農家が関税発動で輸出量が激減し、トランプ大統領に対する不満が発生して来ていた事であった。
いずれにしろ、これから先しばらくは、今回の米中首脳会談の結果を好感し、米国をはじめ世界の株式市場は高値に向かうことになりそうである。 しかし、今回の会談結果が難問先送りの曖昧(あいまい)な合意であったことは間違い
なく、これから先に待ち受けているのが巨大なカルマを背負った米国と中国の交渉ごとであるだけに、春先以降の状況の変化は、しっかり見守っていく必要がありそうである。