先月、トランプ大統領が発表したシリアからの米軍部隊の撤退については、「世界を混乱に導くトランプ大統領政権」でお伝えした通り、イギリスやフランなどヨーロッパ諸国からだけでなく、与党共和党の有力議員からも反発の声が挙がっていたが、その後、マティス国防長官の突然の辞任によって、国防省が強く反発していることが鮮明になった。
反発の主な要点は次の2点
@ 過激派組織IS(イスラム国)の撲滅を中途半端で終わせることになり、
ISの復活が懸念される。
A IS(イスラム国)撲滅を目指して共に戦ってきたクルド人民防衛隊を、
見放すことになる。
こうした事態を受けてトランプ大統領はボルトン大統領補佐官を急遽イスラエルとトルコに派遣。トルコへの訪問は、米軍が撤退した後、トルコがシリア北東部のクルド人民防衛隊に対する攻撃を行わないことを要請しようとしたものである。 しかし、トルコのエルドアン大統領からは面会を拒否されたため、直接大統領に要請することは出来なかったようである。
これで、米軍が撤退した後、トルコ軍が長年の宿敵であるクルド人民防衛隊の壊滅に向けて戦闘に入ることは避けられなくなってしまったのだ。
それにもかかわらず、シリア駐留の米軍部隊の装備の撤収が始められるところとなってしまったというわけである。
これから先、兵士たちの帰国が行われることは明らかである。装備を持たない兵士が残ったところで何も出来にないからである。
ボルトン補佐官は記者会見で「シリアからの撤退はクルド人の安全を守ることが条件だ」と語っていたが、トルコ政府との話し合いが十分にできないまま帰国し、その直後に装備の撤退を始めたのでは、言動の不一致は明らかである。
全てはトランプ大統領の場当たり的判断のなせる結果である。
トルコのエルドアン大統領はかねてから、「クルド人民防衛隊はトルコ国内で反エルドアンを掲げるクルド人勢力と同じテロ組織である」と言及して
来ていることからして、米軍部隊がシリア北東部から撤去すれば時を置かず、クルド人民防衛隊に対する攻撃を始めることは明らかである。
その結果、軍事力から見てクルドの人々が悲惨な状況に見舞われることは間違いない。その時、トランプ政権はどう対処するつもりなのか?
一歩間違ったら米国とトルコとの関係が取り返しのつかない状況となり、トルコは米国やEUから離れ、ロシア、イラン、シリア、イラクとの連帯感を強めることになるかもしれない。私はその可能性がかなり大きいのではないかと思っている。
世界の覇権国家ともあろう国が、自国の生み出したIS(イスラム国)を壊滅するために、自国部隊の被害を少なくするためにクルド人民防衛隊の力を借りて来たことは紛れもない事実である。 それにもかかわらず、ISの指導的地位にあったバグダディーやその補佐官、さらには彼の兄弟たちの部隊がシリア北東部に残っているというのに、自国の都合で部隊をさっさと退き上げてしまうというのだから、あきれてものが言えない。
フランスのF2テレビのインタビューに答えたクルド人民防衛隊の指揮官の
「米国は我々をさんざん利用して捨てるのか」という発言が胸に響く。
28年前の湾岸戦争をはじめイラク戦争、アフガン戦争、さらにはシリア内戦に至るまで、中東やアラブにおける全ての戦争は、ブッシュ親子大統領の命令で行われたものである。
その後、戦費がかさみ国家財政が厳しい状況と化したため、トランプ政権が行っていることは、アフガンやシリアなどからの軍隊の撤退である。
自国の利益のために起こした戦争の後始末もつかないのに、自身の都合で撤退してしまっては残された国や共に戦ってきた部隊はたまったものではない。
今アフガンやイラク、シリアで発生している難民もその元をただせばブッシュ親子の命じた中東での戦争である。 何十万人の死者や何百万人の難民を発生させたその罪は尋常ではないはずだ。 武器を与えて戦わせ、都合が悪くなるとさっさと引き上げる。こんな国を世界の覇権国家と呼べるだろうか。
こうした大義なき戦争に投入されてきた多くの兵士たちも、気の毒なことであった。
EU(欧州連合)からの合意なき離脱に追い込まれているかっての覇権国家イギリスと共に、米国もまた今や派遣国家としての名誉と尊厳を失い、滅亡へと向かい始めたようである。時の流れがスピードを増して来ているだけに、そんなに遠くない内に我々はその悲惨な姿を目にすることになりそうである。