差別と人権侵害、それが、
世界の先住・少数民族の近代史であった
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鼻を突けて挨拶をするニュージーランドのマオリ族 |
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国連の推計では、世界70ヶ国以上に3億人の先住民たちが暮らしている。その代表的な民族が、ホピ族をはじめとした北米インディアン、北極圏のイヌイット、中米のマヤ族、南米のインカ族、オーストラリアのアポロジニー、ニュージーランドのマオリ族やワイタハ族、そして我が国のアイヌ族である。
彼らは皆、その文化や環境には大きな違いがあるものの、どれもが、数千年にわたる長大な歴史を持っているという点では一緒である。そしてその近代史は、コロンブス到達以後のアメリカ大陸の状況に象徴されるように、虐殺と弾圧、差別と搾取の歴史であ
った。
マヤ族の最高神官ドン・アレハンドロ長老の話をお聞きすると、彼らが受けてきた人権侵害や大規模開発による生活環境の破壊、強制移住、貧困などがいかにひどいものであったかに驚かされる。
彼ら先住民たちは、数千年の長きにわたって営々と続けてきた伝統的な生活様式や神事や祭祀、さらには、言語までもが、侵略者たちの思惑によって消されて、今日に至っているのだ。
ホピにしろマヤにしろ、今彼ら先住民の若者の多くは自分たちの言語を忘れてしまい、話せるのは英語であり、スペイン語と化してしまっているのである。このように、言語が失われてしまった民族にとって、自分たちの伝統や文化を保持することが、いかに至難の技かは想像に難くない。大和
(シャモ)の言葉を使うことを命じられ母族語を失ってしまったアイヌ人の世界から、多くの伝統や文化が消失してしまったのが、その実例である。
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オーストラリアの「アポリジニー」
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わずか百年前後の歴史しかない、新参者の英国やスペインからの渡来人たちが、1万年余の歴史を持つホピ族やマヤ族やアポリジニーを足下においているのだから、おかしな話である。しかし
、未だアイヌ人を先住民として認めずにいる我々日本人とて、彼らを批判できる立場ではないことは明らかだ。我々の豊かな生活や安定した暮らしが、彼らの血の出るような苦しみや悲しみの上に成り立って来ていることには変わりはないからである。
根中治氏が『九州の先住民はアイヌ』の中で述べている次の一文が、征服者の非道な歴史をズバリ言い表している。
過去、何十冊かの本で、アメリカの開拓史、現代史、インディアンの歴史を読んで感じたことは、侵入者の白人たちが先住民インディアンに対してとった目にあまる行動である。アメリカの開拓史は一言にしていえば暴虐と非道の歴史であったとの一語に尽きる。
彼らの欺瞞と残虐な行動に対して激しい怒りを感じ、敗残のインディアンの生活に涙したことを今も忘れない。その同じ思いを私はアイヌの上に感じる。日本人が先住民族であるアイヌ人にとった行動はまさにアメリカの白人達がとった行動と全く同じである。シャモはアイヌの土地を一方的に奪い、その生活と歴史と文化を押し潰してしまったのだ。
ここ数年、国連機構を中心とした国際社会が彼らの失われた自決権や土地獲得権、貧困と差別の実態を真剣に議論するようになったのは、征服者の心に己の非を自覚する気持ちが湧いて来たからに他ならない。日本の社会においても、遅ればせながらが、そういった情勢の変化に気づき始めたこととは救いである。
先ず我々が為さねばならないことは急いで今回の法案を通し、今もなお依然として根強く残っている格差と差別を破棄し、日本列島の先住民として暮らして来られたアイヌの人々に誇りをもって生きて頂けるよう努力することである。
もしに今回、それを成し遂げられなかったら、我々は先住民族アイヌの人々に対する大きなカルマを背負って旅立つことになるのは必至である。
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中国の少数民族「モンゴル族」
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政府は、前回の法案の成立に当たって、土地・資源の保証や財政支援を受ける権利の過大な要求を懸念していたようであるが、私はそんなことをあまり心配する必要はないのではないかと思っていた。なぜならば、彼らアイヌ人たちは先祖代々、必要以上の所有欲を持たない民族であるからだ。
彼らは、人間の暮らしは神々からの贈り物で成り立っており、住む土地は勿論のこと、海の幸も山の幸もみな天(神々)の所有物だという考えを持っている。それゆえ、土地や自然の産物を自分の所有物として独り占めするという考え方は彼らにはない。ここが今日の我々が当たり前と思って保持している所有権や所有欲と大きく異なる点である。
勿論、彼らとて、物質文明の今の時代を生きていく限り、必要な土地や住まい、最低限の収入は求めざるを得まい。しかし、彼らが今一番求めているのは、自分たちの先住民族としての誇りある歴史を認めてもらい、同じ同胞として差別をなくし、民族としての尊厳を回復してもらうことではないだろうか。
北海道が2006年に実施した生活実態調査では、道内に2万3782人のアイヌ人が居住しており、生活保護を受けている人の率は全国平均の約3倍、短大・大学の進学率は3分の1という結果が出ている。
アイヌやホピ、アポリジニーたちに比べればまだましのほうであるが、大きな差別や格差が広がっていることは間違いない。
一日も早く、偏見から生じている差別や極度の生活苦から解放され、若者たちが進みたい学校へ進み、望む職に就
くことが出来るようになることを、願わずにはいられない。同じウタリ(同胞)として共に手を携え、やがて到来する「新生地球」の誕生を迎えたいものである。
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ゴマアザラシをしとめた「イヌイット」
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次回は北海道の地に住み着いたアイヌの人々が、各地に残した「アイヌの言語」を見ながら、彼らがどのような生活を送って来られたのかを学ぶことにする。
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