低賃金・中国の魅力が失せ始めた
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広東省佛山市のホンダ部品工場で5月に発生したストライキ (大紀元資料)
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たった1%の家庭に富の半分近くが集中、世界でも貧富の格差が最も激しい国の1つの中国。こうした所得配分の不平等が要因となる撩官民間の対立や群衆事件が頻繁に発生し、ここに来て社会の不安定さが一段と増してきている。
5月に従業員の相次ぐ自殺がきっかけとなって発生した台湾資本の電子部品メーカー「富士康」のストライキは、やがてホンダやトヨタの部品工場へと波及し、出稼ぎ労働者によるストライキ風潮の幕を開けるところとなった。その後、製造業労働者の賃上げ要求は、燎原(りょうげん)の火のように、中国沿岸地区の製造業密集地域へと広がり、現在も各地でストライキが続いている。
ストライキを起こしたのは、いわゆる「新世代農民工」たち。
農業がほとんどできないことから「新世代」と定義されている彼らは、16歳から30歳の世代で、1.5億人の出稼ぎ農民工の60%を占めている。前代の農民工とは違い、新世代は労働者の権利意識を持ち、「その訴求は高いレベルに向かっている。就業の条件を給料のみではなく、働く環境や福利厚生、将来性にも重点を置いている」といわれている。
中国政府はこうした農民工たちの要求が労働争議やストライキとして蔓延することを極度に恐れている。それは、低価格によって世界市場に進出している香港などの中国企業のみならず、安い賃金を目当てに中国に進出してきている外国資本に大打撃となるからである。
現に、これまで北京や広州市では最低賃金が月額800元〜900元(1万年〜1万2000円)であったが、富士康グループでは、ストライキを押さえるために1週間で2度の賃金アップが発表され、一般従業員の給与は2千元(2万6000円)にアップしている。同様な状況はホンダやトヨタなどの部品メーカーでも発生している。
こうした状況が全土の広がっていくと、すべての企業の人件費の高騰は避けられなくなってくる。その結果が招く外資離れを懸念し、中国当局はすでに労働争議の報道禁止などスト回避の措置を取り始めている。現に、中国メディアを統括する共産党中央宣伝部の報道官が、先月30日の記者会見で「報道規制は中国の世論を正しい方向に誘導するために、必要な措置である」と、述べている。
しかし、農民工たちは携帯電話によって他の地域や仲間の職場の状況を把握しているため、報道規制によって賃上げと労働条件改善の要求が収束する可能性はゼロに近い。我々外国人が状況を把握するのに時間がかかるだけのことである。
安価な農民工を基盤にする「中国製造」の経済モデルは、過去30年、中国経済の発展をもたらしてきたが、その基盤にいる彼らは、もっとも厳しい生存状況に置かれたままであった。その結果が「富士康」の自殺やストライキ風潮に至っていることを考えると、世界の工場として脚光を浴びてきた中国の優勢は、しだいに失われていくことになりそうである。
問題は、こうした現実に中国当局がどう対処していくかである。労働賃金のコストアップを恐れて、これから一段と勢いを増してくると思われる労働争議やストライキを力ずくで押さえようとすると、それは暴動へと進む可能性が強いだけに、これから先中国に於ける労働問題からは目が離せない状況が続きそうである。
表面化し始めた無国籍国民問題
もう一つ賃上げ闘争の裏にあるのは、無国籍人問題である。
一人っ子政策が打ち出されてきてからすでに30年が経過。この政策は1組の夫婦が生涯に産むことが許される子どもの数を1人に制限し、2人目が産まれると高額の罰金が課されたり、税金などの面で不利になるようになっている。ただし、両親がともに一人っ子だった場合や1人目が障害児だった場合などは、特例として2人目を罰則なしに産めるケースもある。
こうした特例はあるとはいうものの、現実的には、特別な富裕層でない限り、高額の罰金を払うことなど出来ないため、予定外に産まれてきた子供たちは非合法的存在として、無国籍者となって中国社会の裏社会で生きているのが実体である。中国政府もマスコミもこの無国籍者の存在については一切触れようとしないが、ここ数年間の「富士康」の100人を超す自殺者の中に多くの無国籍者がおり、それが今回のストライキの発端になったのではないかと言われている。
中国の国家統計局の報告によると、一人っ子政策を30年間続けてきた結果、中国の人口は4億人抑制することが出来たようである。ということは、農村部などで誕生した2人目以降の子供たちの中で、やむを得ず裏の社会に売られた子供たちの数は、1億人以上に達している可能性が大である。
実は中国の低賃金社会の裏には、こうした無国籍者のただ同然の賃金コストが隠されていたわけである。しかし、無国籍者の数がこれだけ多数になってくると、政府当局もいつまでもこの問題を放置しておくわけにはいかなくなってくるはずである。
なぜなら、事件や事故が起きるたびに、住所も名前も特定できない犯人や自殺者が登場することになるからである。言うならば、中国社会には1億人を超す幽霊人間が存在していることになるのである。
今中国では、都市戸籍と農村戸籍の2つの戸籍制度があり、国の対応の仕方が別々である。都市部の住宅が余っていたとしても、農村戸籍の人間がそこに住むことが許されないのはそのためである。政府は優遇制度を厳しくし、賃金などもかなり低く抑えた第3戸籍制度を設定し、無国籍者をそこに押し込むことを考えているのではないかと思われる。
いずれにしろ、無国籍問題はそう遠くない将来、表舞台に登場して来るものと思われる。この問題に対する対応を一歩間違うと、暴動から騒乱へと進む可能性が強いだけに、隣国に住む我々としても「対岸の火事」と呑気に構えているわけにはいかないようである。