だまされ続ける国民は悲劇
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8月11日、巨大な土石流に見舞われた舟曲県で、子供の遺体を抱えて泣き崩れる母親
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中国の土石流被害の実態
中国甘粛省の甘南チベット族自治州舟曲県で今月8日に起きた土石流災害で、現地当局は11日夜、死者は1117人に上り、627人が行方不明となっていると発表。9日に発表された死者の数は一気に3倍となった。
しかし、香港や海外メディアの報道では、死者と行方不明者の数は政府発表の数倍もあり、死者は8000人以上との見方を示している。ほぼ全滅した三眼村と羅家峪村の被害状況を考えたら、実際の数はその数字をさらに上回る可能性さえありそうだ。
現地入りした香港「明報」の記者の現場からの報道によると、県政府のある街では、すぐ目に付くところに死体がころがっており、悪臭が漂い、目を覆いたくなるような光景がいたるところに見られるという。マスクなどの医療品の不足は深刻で、救援現場でも、多数の人がマスクなしで遺体の発掘を行っていたという。
テレビでは、舟曲県の市街地の一部のみを放映しつづけているが、被災にあったエリアが舟曲県の3分の2に地域に達し、2分の1が土砂に埋まっているというから、被災地によっては救援隊も来ずに放置されたままの状況が続いている可能性は十分にある。現地入りした香港「明報」の記者の証言がそれを如実に物語っている。
今回の災害は乱開発による人災であるという考えが広がり始めている。もともと舟曲県一帯は森林や水資源が豊富な土地で山紫水明で名高く、「甘粛の桃源郷」と呼ばれていた。しかし、50年代から大量の森林が破壊された上に、90年代から、付近を流れる白竜江上流でダムの建設が
7カ所以上にわたって行われたために、土砂崩れや山崩れの危険性が高まっていた。
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被災地・舟曲県一帯はかっては緑に囲まれ、甘粛省の「桃源郷」と呼ばれていた。
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こうしたことから、今回の災害の責任が共産党政府にあるとする意見の広がりを恐れた政府は、素早い対応を見せた。温家宝首相が災害発生当日に現地入りしたのもその一環である。被災地での温首相の言動を詳細に伝えるテレビの映像を見ていると、
自身のパフォーマンスを誇示するロシアのプーチン首相の姿と重なりあう。
被害状況の報道を許されているのは、政府お抱えの新華社通信と中国中央テレビだけで、あとのメディアは両社の情報に準じる旨の政府通達が流れていることもまた、政府の危機意識を露(あら)わにしている。政府首脳は政府批判が暴動へと進むことを何より恐れているのである。
2003年に完成された中国地質環境観測院の専門家による調査報告は、「落差千メートル以上の巨大な地質災害が発生するリスク地点は140カ所に達している」と述べており、今回の被災地、舟曲県もその中に入っている。
政府がこうした災害発生の可能性の高い場所の予防策を講じないばかりか、自己保身のために、発生した事故の実体を知らせまいとするなら、それは国民にとって大きな悲劇である。彼らは「明日は我が身」となることを知らずにいることになるからだ。
8月11日夜の大雨により、12日には、舟曲県では再び土石流が発生し、被災地から近隣都市に通じる唯一の道路「両舟公路」が完全に通行不能になっている。このため、救援活動が難航することは必至で、避難生活を強いられている2万人(実際はその数倍に達するようだ)の被害者の窮状が一段と増すことになりそうである。
新年早々からの「寒波」や「大雪」、「地震」に「干ばつ」に「洪水」・・・・・、これだけ大災害が続いたら、さすがの中国も、上海万博どころではなくなってくる。これから先
の中国の国情が心配だ。とても「対岸の火事」などと、呑気なことは言ってはおれなくなってきそうである。
泥炭火災のロシア
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火災現場に立ち焼失した我が家を眺める子供たち
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ロシア西部を襲っている泥炭火災は今もなお被災地域を拡大しつづけている。発生したのが7月の20日過ぎだから、すでに20日が過ぎている。ロイター通信は、
126人が家を焼失した首都モスクワから南東180キロにあるKRIUSHA村で、火災が発生したのは7月29日だったが、非常事態省の航空機が現地に到着したのは発生から2週間以上経過した8月10日だったことを伝えている。
中国同様、ロシアでも政府はこうした消火活動や被災者支援の遅れや、消火設備の不備の実体を国民に知らせまいと、厳しい報道規制を行っている。報道規制で一番心配なのが、核施設やチェルノブイリ周辺への延焼の状況を国民に知らせずにいることである。
政府はチェルノブイリ(現ウクライナ)の西側に位置するロシア領には、火災は及んでいないと発表していたが、自然保護団体が、火災発生地域を地図に重ね合わせてみると、チェリノブイリに隣接するエリアで、実に200カ所にわたって森林火災が発生していた。
こうした指摘を受けて政府はチェルノブイリ一帯の火災事故をようやく認めたものの、今度は、火災によって汚染物質が飛散してもその量はごくわずかで、人体に与える影響は非常に小さいという科学者の見解を示し、心配のないことをアピールしている。
本当に心配がないなら、政府はなにゆえチェルノブイリ一帯の火災発生を隠し続けてきたのだろうか? アメリカや欧州各国がロシア渡航の警告を出したり、大使館
員家族の帰国を促したことの裏には、スモックだけでなく放射性汚染の心配もあったからではないだろうか。
1986年4月、チェルノブイリ原発の4号炉がメルトダウン(炉心溶融)を起こして爆発し、放射性降下物が周辺一帯を汚染するという史上最悪の原子力事故を起こしたとき、当時のソ連政府が、国民に放射能の危険性や被害の実態を知らせ
ず悲惨な状態を招いたことは、いまだに記憶に新しいところである。
党や我が身の保全を最優先し、国民の安全は2の次にする、こうした政府首脳や官僚たちの考えは、決して今も変わっていないようである。
マスコミに対して現地の撮影を固く禁じる一方、テレビカメラの前でヘリコプターを操縦し、消火活動に協力するパフォーマンスを誇示するプーチン首相の行動が、それを裏づけている。
ロシア国民もまた中国人同様、これから先、インターネットなどで正しい情報をいち早く得て、対処しないと大変なことになりそうである。
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チェルノブイリ原発事故の専門家である英ポーツマス大学のジム・スミス氏は、「汚染地域に残留する放射能のうち、再び拡散されるのは全体の1%よりはるかに少ない」と指摘。また、「放射能の大半は土壌にあり、火災の影響は受けない」とし、草木に残っている少量の放射能についても、火災で飛散するのは非常にわずかだと語っている。しかし、放射能の大半が存在する土壌が焼けこげているこの写真を見て、スミス氏の意見を真(ま)に受ける人がいるだろうか。
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