アイルランド議会は救済を受け入れるか?
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アイルランド救済案が議決されたEU・外務相会議
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EU・ヨーロッパ連合は7日にブリュッセルで開かれた外務相会議で経済危機に陥っているアイルランドに対して、850億ユーロ(9兆4000億円)にのぼる
巨額の救済策を正式に決定した。
しかし、アイルランドがこの支援を受けるためには、大幅な増税や社会保障費の削減などを含む厳しい財政再建策を議会が承認する必要がある。問題は国民の中にわき起こっている怒りの声を無視して、議会で承認案が通過するかどうかという点である。
なにゆえ国民の中に怒りの声があるかというと、
今回の危機は、銀行と不動産デベロッパーが引き起こした問題であって、政府や国民に直接の責任はないという気持ちがあるからである。つまり、「
儲けに目がくらんで立ち行かなくなった銀行の再建のために、何で我々が痛い思いをしなければならないのか!」と国民は怒っているのである。
日本でもかって「もうけ主義」に走って経営がおかしくなった銀行に政府が何兆円もの資金を貸し出して救済したとき、多くの国民から不満の声があがったことがあった
。しかし、救済の反動が直接国民の痛みに繋がらなかったので大問題にならずに済んだ。今回のアイルランドの場合は増税や社会保障の削減に直結するだけに、国民もすんなり受け入れるわけにはいかない
というわけである。
もしも、アイルランド議会で財政再建策が否決された際には支援はストップとなる。その時は「バック・オブ・アイルランド」銀行を始めとする
幾つかの大手銀行が破綻に追い込まれることになるので、融資をしていたイギリスやドイツの金融機関が痛手を被ることになる。そうなると、ユーロの崩壊にもつながりかねないだけに、
問題は深刻である。
それにしても不可思議なのは、つい4ヶ月ほど前に鳴り物入りで実施されたEU全体のストレステストの結果である。ストレステスト
というのは問題のありそうな銀行の財務内容を審査し、問題のある銀行は公表して早急に資本の増強などの改善を促すものであったはずだ。
しかしその時、不合格銀行となったのはスペインの貯蓄銀行5行、ギリシャの農業銀行1行、ドイツの法人向け不動産会社ヒポ・リアルエステートの計7行だけであった。
破綻同然の状況に追い込まれ、今回のEUのアイルランド救済の要因となっている「バック・オブ・アイルランド」と、「アライド・アイリッシュ・バンク」銀行は
その時、問題のある銀行の中に入らず、追加資本の必要がないとして合格しているのである。また、「アングロ・アイリッシュ・バンク」に至っては、ストレステストの対象行にすら入っていなかったのだ。
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アイルランドの街には、笛を吹く物乞いの姿があった
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国家や公的機関のやる事なす事がいかに欺瞞に満ちたものであるかが分かろうというものである。その結果、いつも泣きを見るのは一般大衆である。権力と連なったごく一部の人間が甘い汁を吸って富を得ては、
自己責任や法の手から逃げ延びている。だからこそ今、ウィキリークスのような民間告発サイトが世間の共感を呼んでいるのである。
2009年5月初旬に実施された米国のストレステストもまたいい加減なものであったことを忘れてはならない。すでに実施から1年半が過ぎたが、昨年は140行、今年もすでに139行が倒産
し18年ぶりの倒産数を記録しようとしている。ここでもまた、ストレステストが何の役にも立たなかった事がよく分かる。
ヨーロッパでもアメリカでも、表面に出ないところでこんなごまかしが続いているのに、なんとか金融崩壊に至っていないのは、
こうした国民の血税という公的資本の注入と数字のごまかしによって生き延びているからである。ただそんなことはいつまでも続くわけがないのだ。