ドルの洪水、通貨戦争に拍車
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ばらまかれるドル札
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米連邦準備制度理事会(FRB)が大規模な金融緩和に踏み切った。中間選挙で大敗したオバマ政権に代わり、景気対策を推し進めようと来年6月までに6000億ドル(50兆円)の資金を投入し、市場から米国債を購入しようというわけである。
2008年のリーマンショック以来3度目の大規模な国債購入である。これでまた、1兆ドル(80兆円)近いドルが市場にばらまかれることになる
のである。景気をよくしようとしても、すでに公定歩合は2008年12月以来、0.00〜0.25と事実上ゼロとなってしまっていて、金利の引き下げ
ようがない。
そのために、市場に出回っている自国の国債を購入するという手段で大量のドル札を市場にばらまき、企業や個人の投資意欲をかき立てようというわけである。
世界で流通するドル資金は米国債を含めると、リーマン・ショック前の2倍に当たる4兆4千億ドル(350兆円)にも膨らんでいる。その上にさらなる1兆ドル(80兆円)である。
これだけのドルをばらまかれては、世界中の国でドルを売って他の通貨を買う動きが強まることは必至である。
なぜなら、あまったドル札の価値は日に日に値下がりしてしまうので、手に入れたドルを自国の通貨に換えた方が徳であるからだ。その結果、自国の通貨が一段高となった国は輸出が伸びなくなり、
企業は痛手を被ることになる。現在の日本がそのよい例である。
これから先、インドや中国、ブラジルといった新興国は、日本以上にそのとばっちりを受けることになりそうである。また、外国からの資本流入は
通貨高だけにとどまらず、株の上昇や不動産などのバブルを誘発し、その結果、「インフレ」を起こすなどの副作用が懸念される。
すでに、ブラジルの通貨・レアルは対ドルで2年前に比べて3割も上昇しているが、さらなる上昇を見込んで「ドル」から「レアル」に交換されたマネーは株や不動産に流れ込み、株価の上昇だけでなく、サンパウロの家賃はこの1年で80%近く上昇している。
ブラジルのマンテガ財務相が、「FRBのやることは、ヘリコプターからお金をばらまくようなもので、何の役にも立たない。ドルの価値を下げるだけだ」と、FRBの「追い打ち」に怒りを露わにしているのはそれゆえである。
さらに、ブラジル以上に副作用が懸念されるのが中国である。中国では、すでにHPで何度も報告しているように、不動産バブルは危険水域に達して
いる上に、自然災害の多発によって、野菜や食用油などの食料品から作物までが急騰し、綿花に至ってはこの2ヶ月で60%も値上がりしている。
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中国中部、高騰する綿花の刈りいれ風景
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独立経済評論家の謝国忠氏は、政府公表の統計データは実際のインフレ水準を極めて過小評価しており、物価の上昇ペースは恐らく2ケタに達している、と警告している。また、謝氏は、現在多くの商品の値段がほぼ倍に値上がりしており、実際の物価上昇ペースは政府公表のデータよりもはるかに高いと指摘している。
先日のテレビでは、投資目的で「ニンニク」を買いだめする人が急増し、信じられない値段で売られている状況が流れていたが、それは、まるで、17世紀にオランダで起きた歴史に残る「チューリップ
球根・バブル」の再来を見ているようであった。
「チューリップ・バブル」というのは、1634年頃からチューリップの球根に投資資金が集まり、ピーク時には、球根1個で馬車24台分の小麦、豚
8頭、牛4頭、ビール大樽4樽、数トンのチーズ、バター2トンが買えたほどの、途方もない価格にまで上昇し
、1637年には、100分の1に暴落するという人類史上最も劇的な暴落を演じたバブル劇である。
インフレを抑えようと、物価の高騰やバブルを抑えようと金利を高くすると、あらたに海外から儲けを狙うマネーが流れ込んで一層の通貨高を引き起こ
す。こうした悪循環は中国共産党政権の崩壊さえ招きかねない。雀天凱外務次官が記者会見で、「通貨の乱発という為替操作を続ければ、最終的には通貨の洪水になってしまう」と警戒感を露わにしているのはそのためである。
いよいよ、これからは経済崩壊の瀬戸際に立った先進国と、バブル化とインフレの懸念が高まる新興国との「通貨戦争」が一段と激しくなってきそうである。
そんな中、
一人ほくそ笑んでいるのが、ただ同然の資金をウォール街をはじめ世界の金融市場に投入して、荒稼ぎをしている連中である。史上最高値を更新しているインドやブラジルの株価、さらなる一段高を演じ始めた中国やアメリカの株価。
最後の一儲けをしようと博打(ばくちうち)たちが集まった世界中の鉄火場には、いま残り火の炎が赤く燃え上がっている。我々は今、最後の狂気の時代を乗り越えようとしているのだ。
明るく輝いた未来に向かって。