失業が産んだ社会現象
アメリカでは今、「ブーメラン世代」現象と呼ばれる社会現象が起きている。
大学は卒業したものの就職先が見つからず、生活が出来ないため親元に戻る若者が激増してきており、彼らは、一旦親元から飛び立ったのに再びUターンして戻ってくることから、「ブーメラン世代」と呼ばれているのだ。親と同居している若者は25歳〜34歳で全体の20%に達し、30年前の2倍になっているというから、かなりの数である。
日本でも先月時点での大卒者の就職内定率は57.6%と過去最低で、就職氷河期と呼ばれた平成15年の同じ時期よりも更に低く
なっているが、就職浪人が溢れ出ているアメリカではそれより遙かにひどい状況で、米国労働省の発表では2007年に50%台だった就職率は今年は19・7%にまで落ち込んでいる。
日本ではまだ、フルタイムの仕事には就けなくても、臨時雇用やパートタイマーの仕事があるので、親元に帰るという最終手段には至っていないようであるが、
アメリカでブーメラン現象が発生していることには、就職難だけでなく今一つの側面があるようだ。
それは、学生時代に抱えた学生ローンの返済をしなければならないため、家賃を払う必要のない実家
に戻って、親の世話になりながら勤めをしようというわけである。米紙ワシントン・ポストによると、卒業生が抱えた学生ローンの平均残高は2万5760ドル(約200万円)に達し、返済に8年を要する額であるという。
この数値を見て驚くのは私だけではないはずだ。どうやら、借金で消費を謳歌(おうか)するアメリカ人の風潮が若者にも行き渡っていたようで
、アルバイトで学費をかせぎながら学校に通う日本人学生とは考え方が大分違うようである。まさに、
「この大人にしてこの子あり」である。その結果、25−34歳のクレジットカードの負債残高は平均4358ドル(35万円)に上るという数値が出ている。
こうした現象とはまた別に、働き盛りの男女が突然会社を首にされて再就職が出来ないために、職を求めて大都市近郊に引っ越してくるという現象も起きているようである。アメリカ中西部のインディアナ州のある街で開かれた求人説明会の会場で、失業保険が切れて6ヶ月になるのに未だ就職が出来ないという女性や、1週間に75社もの会社に応募したが、どこからも返事がもらえていないと嘆く男性の姿が映されていたが、
失業者の再就職は相当厳しい状況のようである。
地方都市では臨時雇用もパートタイマーの仕事も見つからないので、夫婦で大都市周辺に引っ越し、その日の食扶持(くいぶち)をかせごうとする人々が増えてきたということのようである。これではまるで、職を求めて都市へと流れ込んでくる中国の出稼ぎ労働者
と変わらなくなってくる。
10%台に向かう失業率
「努力すれば成功できるなんてとても思えない。もはやアメリカは夢を持てる国ではなくなってしまった!」、テレビから流れるそんな発言を聞いていると、どうやら、かっての「アメリカン・ドリーム」は完全に消え失せてしまったようである。それを裏づけるようなデーターが発表された。11月の失業率が先月より0.2%上昇し、4月以来の高水準を付け、9.8%まで拡大し
てきた。
求職者のうち1500万人以上が職に就いていない状況を示しており、さらに6カ月以上の長期失業者が占める割合は41.9%で、その数は630万人に達しているという
内容だ。とくに最も失業率が高いミシガン州のデトロイト市は完全失業率は30%まで達しており、まさに
“死の街”と化しつつあるようである。
このため、デトロイト市は、人口そのものも減ってきており、かつて200万人いたのが、今では80万人まで減少している。悪化しているのは失業率だけではないようで、治安や市民の心までも悪化してきており、殺人以外の事件が起きても、翌日にならなければ警察は駆けつけないというから恐ろしくなってくる。
テレビや新聞では、GMやクライスラーの復活劇が大々的に報じられているが、従業員を大量解雇し(55%)、何兆円という膨大な借金を国や株主に引き取ってもらっての再建であることを考えると、首を切られた本体や関連企業、下請け企業の従業員は再建の恩恵は被(こうむ)っていないことがわかる。だからこそ、ミシガン州自体の失業率も23%に達しているのだ。
前回の記事で、年末から年初にかけてアメリカの失業率は10%の大台に乗ることになるだろうと記しておいたが、その通りの動きになってきており、来年の今頃には、’83年の10.8%を大きく上回り、ミシガン州並みの数値が紙面を賑わすことになっているかもしれない。
FRBのバーナキン議長の「2008年当時の失業率が金融危機以前の状態に戻るには、4〜5年はかかるかもしれない」と言う発言は、
そういった可能性を考えての、大変控え目な発言であると考えておいた方がよさそうである。
株価維持のための奇策
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ブル相場(株価上昇相場)を象徴する牛の像
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こんな状況下であるにも関わらず、ニューヨークの株式は1万1530ドルとリーマンショック以来の高値を抜いてきて
おり、更に上値を取りに行きそうな勢いである。しかし、これは完全に政府の意図的介入によるもので、こんな株価を基準にアメリカの景気回復論を信じたらとんでもないことになる。
あからさまな政府の介入は、不動産資産が激減し一向に回復の兆しが見えない現状で、さらに株価が暴落したら中間層の唯一の頼みの持ち株資産が激減し、社会不安を巻き起こすことを恐れているためである。
先日、FRB(米連邦準備制度理事会)が発表した数兆円規模の債券の買い取り策も株価の維持のため以外の何者でもない。FRB自身が株式を購入するわけにはいかないので、銀行が所有している不良債券を買い取り、そこで産まれた資金を使って銀行に株式を購入させようとする
ための施策である。
ゼロ金利施策の下での不況に対して、もはや他に打つ手がなくなった上での最後の荒療法である。さらに、先日下院を通過した減税法案では、8580億ドル(72兆円)
達する巨額の景気対策、(@勤労者の給与税の2%減税、A失業保険の13ヶ月延長 B子育て世帯向けの控除)
を打ち出しており、09年の7870億ドルと合わせるとその額は150兆円に達する規模となる。
こうした財政出動でアメリカの財政赤字はさらに拡大し、JPモルガン銀行の予測では、2011年度の財政赤字は従来の1・2兆ドルから1・5兆ドル(125兆円)へと引き上げられている。先のG20の合意に沿って、現在、各国が市民や学生によるデモが起きる中、財政再建に必至に取り組んでいる最中であることを考えると、違和感を感ぜずにはおれない。
こうしたなりふり構わぬ手段によって、しばらくは株価は高値を維持し、更に上値を追うことになるかもしれないが、いつまでもそうした作り物相場が続くことはあり得ない。ヨーロッパの金融危機の再来や中国のバブル崩壊による経済破綻、あるいはウィキリークスによる暴露によって引き起こされる大手金融機関の倒産劇 ・・・・・ それらがきっかけとなって
管理相場が維持出来なくなった時にはその反動は大きく
、一気に下落に向かうと考えておいた方がよさそうだ。
株価には手心を加えられるが、金額が大きすぎてそれが出来ないのが為替と国債である。折から、ファイナンシャルタイムズ紙は一面トップで「アメリカ国債がリーマンショック後、最大の売りに見舞われ、資本コストが急上昇」と報じている。
売られると言うことは金利が上昇するということである。
10月8日から約2ヶ月間の上昇率は、アメリカが2.55%から3.525%へ38%上昇、日本が0.95%から1.255%へ
32%上昇、ドイツもまた2.392%から3.032%へ27%上昇。
どうやらFRBや日銀等の「資金ばらまき」のツケが回ってきたようである。金利の上昇は各国政府に利払いの高騰を余儀なくさせるだけでなく、インフレや株価の暴落へもつながるだけに要注意である。