3月3日、イスラエルのネタニヤフ首相が米国の野党共和党の招待に応じて議会で演説、その発言内容が米国とイスラエルで波紋を呼んでいる。演説はイランの核開発を巡って欧州各国と共に交渉を続けているオバマ政権を強く批判するもので、強固な同盟国であり、長い間の支援国であった国の議会での演説としては、かってない異例の内容であった。
今回の議会での演説については、演説前から民主党議員から反対する声が高まっており、60人が欠席している。またイスラエル国内でも、米国とイスラエルの分裂につながるものだと、議会選挙を前に、批判の声が上がっており国内を2分する論議が起きている。
オバマ批判のポイントは、欧米各国とイランとの核開発を巡る交渉がたとえ合意に達しても、イランは事実上の核開発を続け、核兵器を作るのに十分な濃縮ウランを持つことになる、というものであった。つまり、交渉の合意はイスラエルにとっては、何らプラスになるものはなく、自らの存続を脅かす脅威以外の何物でもないというわけである。
ネタヤニフ首相は、これ以上イランとの交渉が進み、合意に達することをなんとしても阻止したいと考えているようである。
交渉が大詰めを迎え、一部がここ数週間後に合意に達する可能性が大きくなっている時だけに、米国だけでなく交渉を続けてきたドイツや国連の常任理事国にとっても、さぞかし衝撃的であったことだろう。
それにしても交渉を進めている米国に乗り込んで、議会で自国の主張、それも米国政権批判の演説をするというのはあまりに常軌を逸している。
なぜそのような演説が可能となったのか? 米国には巨大な資金を持ったユダヤ系の圧力団体があり、そこから支援をしてもらっている国会議員がたくさんいることは、誰もが知っていることである。
また、米国には600万人を越すユダヤ人が住んでおり、その多くがみな富裕層で様々な形で議員に支援をしている。そうした議員たちが中心となってネタニヤフ首相の要望をかなえることとなったというわけである。今回に限らず親イスラエルの議員の圧力によって、これまで米国がイスラエルに対して行ってきた支援活動は大変なものである。
軍事支援だけでも今でも年間30億ドル(3600億円)を超えており、第一次中東戦争以来、続けられてきた支援金は驚くほどの額に達している。
なんと言ってもイスラエルに対する一番の支援は、核開発のノウハウの提供であった。それがあったからこそ今イスラエルは数十発の核弾頭を所持しているのだ。
正式な形では、核保有国の中にイスラエルは入っていないが、かの国が核を保有していることを知らない国はない。
もしも、今回のイランとの核開発交渉の行方がイランに核の保有をもたらす可能性があるとしても、自国が既に保有している核は、隣国アラブ諸国やイランにとって脅威ではないというのか! おのれの核保有は棚に上げての今回のネタニヤフ首相の演説は、あまりに身勝手過ぎると感じた人は多いはずだ。アシュケナージユダヤ人(欧州系ユダヤ人)の本性が出たとしか言いようがない演説であった。
今回の演説で一番ショックを受けたのは、もしもオバマ大統領がこのままイランとの交渉を推し進めるなら「イスラエルはイランに対して制裁強化の道を選ぶことになるだろう」という発言であった。かってイランの軍事施設に行った予告なしの大規模空爆を今回も実施するというわけだ。それも核施設に向けてである。
この発言は日本のマスコミは聞き流してしまっているようだが大変な発言である。イスラエルはこれから先、交渉の進捗状況を見て、イランの核開発施設への空爆をいつでも実施する用意があると宣言したことになるからだ。これはまさに宣戦布告である。
既に何回かお伝えしてきているように、ブラッドムーン(血の月)がユダヤの重要な神事と重なる日が今年は2回ある。4月と9月だ。首相自身が他国の議会演説で先制攻撃を示唆したことを考えると、夏から秋にかけて中東情勢は大きく動くことになりそうである。それだけに今回のネタニヤフ首相の先制攻撃示唆の演説は、決して見過ごすことの出来ない重要な演説である。読者はしっかり頭に入れておいて頂きたい。
追記
クウェートのアラブ語新聞「アル・ジャリーダ(al-Jarida)」が、オバマが「イランを空爆するなら、イスラエルの戦闘機の撃墜命令を出す」とイスラエルにくぎを刺したと報じている。2014年に、イスラエルのネタニヤフはイランの核開発施設を空爆する寸前だったという。
どうやら、今回の議会演説はオバマが何を言おうが、今度は空爆をするぞと言う狼煙であり、念押しであったようだ。