複雑な「スンニ派」対「シーア派」対立
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ティクリット攻略はイラクにとってイスラム国に占拠された
モスルの奪回に向けての最重要な作戦となっている。
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イスラム教における「シーア派」 対 「スンニ派」という宗派間対立が、中東情勢を一段とややこしくしてきている。現在、イラク軍が国の命運をかけて攻撃をかけているのがイスラム国に侵略されたイラク北部の町ティクリットである。イスラム国最大の拠点となっているモスルの町を奪還するのに重要な作戦と言われる今回の攻撃に加わっているのは
、およそ2万5000人の軍隊。その中には、政府軍の他にシーア派の民兵組織や同じシーア派の隣国・イランの革命防衛隊が加わっている。
ところが、ティクリットはかってのイラクの大統領であったフセインの生まれた故郷であり、3分の2の住民はスンニ派に属している。そのため、フセイン政権崩壊後に誕生したシーア派政権とは相容れない関係にあり、スンニ派の過激組織・イスラム国がティクリットを征服した後も、住民はイスラム
国支配の下で比較的穏やかに暮らしていた。
そこに、シーア派の兵士が3分の2を占める連合軍が攻撃をかけてきているのだから、住民の心境は複雑である。元の生活に戻れるという喜びがある反面、イスラム国と手を組んでいたのではないかと疑われ
、報復される可能性もあるからである。
そのため、住民の多くは砲撃と報復を恐れて近隣の町へ避難。 しかし、イスラム国側は住民を「人間の盾」としようとしているため、避難したくても出来ない人々もいるようだ。彼らは自国の軍が打ち込む砲弾にさらされながら、1日1日を恐怖の中で過ごしている。逃げ延びた人々も、いつスンニ派のイラク軍兵士によって報復されるか分からないだけに恐怖心は一緒である。
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イラク軍はイスラム国が占拠するティクリットの中心部を包囲、
物資の補給を断ち空と陸から大規模な攻撃を仕掛けている。
しかし、そこには「人間の盾」となったイラク人が住んでいるのだ。
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一方、宗派間対立はイラク国内だけでなく、中東諸国間でも複雑な様相を呈し始めてきている。中東の大国・サウジアラビアはスンニ派の国である。そのサウジから見れば核開発問題で欧米諸国から経済制裁を受け、活発な動きが封じられてきたイラン(シーア派)が、今回のティクリット攻撃でスンニ派組織であるイスラム国との戦に参加してきたことは、
手放しで喜べることではなかった。
サウジアラビアのサウード外相が、「イランはイラクを手中に収めようとしている」と述べてイランの参戦に強く反対しているのはそれ故である。 どうやら
、今回のシーア派民兵が主力となったティクリット奪回作戦は、中東諸国間の宗派間対立を再燃させ、今後のイラク情勢や対イスラム国作戦、果てはイスラエル対パレスティナなどの問題に複雑な影響を与えて、中東全体を泥沼化することになりそうである。
中東情勢をさらに複雑にしているのは、米国が中心となって推し進めているイランの核協議に「スンニ派対シー派」の宗派間対立が絡んできていることである。核協議の合意にイスラエルが反対していることは既に「ネタニヤフ首相・米議会で演説」でお伝えした通りであるが、同じイスラム教のサウジアラビアも同じ立場に立つことになるのだから複雑だ。
確かに核協議が合意するとイランの影響力が増し、同じシーア派同士のイランとイラク政権、シリアのアサド政権、イエメンのシーア派武装組織などとの連携が強まることは間違いない。その結果、スンニ派の盟主を自任するサウジアラビアとシーア派の大国イランとの対立が深まるこ
とは避けられそうもない。それはイスラエルにとっては願ってもないことだ。
まさに中東という古い歴史の地が持つカルマと、イスラム教の宗派間対立が産む新たなカルマが複雑に絡み合って、憎しみが憎しみを産み、争いが争いを産んで
、旧約聖書のマタイ伝が伝えるハルマゲドンへと向かおうとしているようである。米国や欧州各国はそこにどのように絡んでいくことになるのだろうか。そして、ロシアと中国は。
追記
3月5日掲載の「中国で大ヒット・大気汚染ドキュメンタリー」で中国の経済成長率目標値を10%と記してしまいましたが、正しくは7%ですので訂正させて頂きます。
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