ここ数日、世界のマスメディアはかっての大英帝国、自由主義国の代表的国家・イギリスが、共産党政権の周近平夫妻を国賓として招き、他にあまり例のないほどの最大級のもてなしをした様子を
トップニュースで伝えている。 金で装飾された英王室の馬車にエリザベス女王と共に乗車した習近平は満面笑みを浮かべ、バッキンガムでの女王主催の晩餐会に向かう。
沿道は在英中国人による旗の波。
翌日、首相官邸では滅多に敷かれることのない特別の赤い絨毯が敷かれ、キャメロン首相が笑顔で出迎え。 議会では上下両院で演説。 さらに世界の金融市場のメッカであるシティーでは世界通貨としての「元」をアッピール。 その
光景はまるで世界の覇権国家が、米国から中国に移り変わろうとしているかのようであった。
なにゆえイギリスがここまでして、周近平夫妻を
丁重にもてなす必要があったのか? それは全てカネ(マネー)のため、数兆円という巨額のマネーが中国から流れ込んで来ようとしているからだ。 今回の訪問で調印された契約金額は、なんと7兆4000億円、小さな国の年間予算額である。
契約の中で最も大きなものは、英国が進めようとしている幾つかの原子力発電計画への参入である。 今、イギリスがフランスの電力公社(EDF)と建設を進めている原発への中国の出資比率は33・5%で1兆円を超える額、他の原発では70%の株式を取得するものもある。
その他、大手石油会社BPとは1兆円を超える液化天然ガスの契約、その他、製造業や病院建設など様々な分野で契約が結ばれたようだ。 参入資金が7兆円を超えていることと同時に、世界が驚愕したのは、中国が自主開発し
たとされている原子炉(華竜1号)が採用されることになったことである。
これは先進国では初めてのこと。 「欧米対ロシア・中国」の対立が深まる中で、国家の安全保障につながる原発という分野を中国に委ねると云うことは信じ難いことである
が、それが国策として実行されようとしているのだ。
新たな黄金時代の誕生を声高らかに宣言した周近平主席とキャメロン首相。 その姿を見ているとまさにカネ、カネ、カネの拝金主義
に覆われた今の世の中を象徴する一幕を見ているようで、悲しくなってくる。 カネのためなら「主義主張」も「自尊心」もかなぐり捨てて手を握り合う、なんとも情けないことである。
こうした動きをイギリス国民が両手を挙げて歓迎しているわけでないことは明らか。 皇太子はバッキンガム宮殿で面会はしたものの、その夜の晩餐会は出席を拒否している。 中国政府が行ったチベットへの侵略と虐殺に対する
皇太子の強い憤りが、今もなお消えていない何よりの証拠である。
世界のマスコミも、人権を無視し反政府を主張する人々や人権団体、弁護士らを次々と拘束、連行、処刑し続けている中国政府への反発はどこへ行ったのかと疑問を投げつけている。
それは両首脳の記者会見で周近平主席に対する女性記者の次の質問によく現れている。
「なぜイギリス国民は、民主的でもなく透明性もなく、人権について問題ある態度をとり続けている国と、ビジネスを拡大することを喜ぶはずだと、あなたは考え
ているのですか?」 イギリスもイギリスだが、あなたの国も身勝手過ぎはしませんか、と言うわけだ。