人命被害が1万人に迫る
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有害物質を含んだ濃霧が広がる1月31日の北京市内 (産経ニュースより)
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先週テレビや新聞で大きく取り上げられたのが、過去最悪といわれる大気汚染が続く中国で、市民生活に大きな被害が出ているというニュースであった。
大気汚染については、これまでもたびたび本HPで取り上げてきたが、今回の汚染はその度合いが大きく、また汚染期間が1月の初から3週間近く続いている
ことが特徴的である。そのため、咳き込む子供など体調を崩したたくさんの子供や老人たちが病院に詰めかけるなど、かってない混乱が発生しているようである。
さらに汚染の被害が北京市や河北省、山東省、天津市など日本の総面積の3.5倍にあたる広範囲に広がっている点も被害を深刻にしている。被害面積は中国全土のおよそ7分の1であるが人口密集地域であるため、被害人口はおよそ8億人に及
ぶというから大変である。
中国の大気汚染問題の記事を読むとき頻繁に登場するのが、PM2.5という言葉である。これは直径2.5マイクロメートル
(髪の毛の40分の1)以下の粒子状の汚染物質のことである。つまりこのPM2.5が1立方メートル当たり
どの位あるかによって汚染度が決まるわけである。
その量が250マイクログラムに達すると「重度の汚染」として危険とされているが、1月にはそれを超えた「深刻な汚染」日が15日以上になっており、29日は一時、500マイクログラムという想定外の深刻な量に達している。この数値は世界保健機関が示す環境基準のなんと20倍という信じられないほど高レベルである。
汚染物質PM2.5が1立方メートル当たり10マイクログラム増えると呼吸器系統の入院患者が3.1%増え、さらに25〜200マイクログラムに達すると入院患者の死亡率が11%に増加するという結果が出ている。それを裏付けるように、
北京市の肺がん患者数は過去10年間で60%増加し、北京、上海、広州、西安の4つの都市で亡くなった人の数は、昨年1年間だけで8500人に達している。
こうした数値を見ると、スモッグの被害は短期的には、咽頭炎や鼻炎、目の症状などが発生する程度だが、長期的に見ると肺がんやぜんそくなどを引き起こし、人体にとって大き
な脅威であることが分かる。中国行程院の鐘南山(ジョン・ナンシャン)教授は「大気汚染はサーズ(新型肺炎)より遙かに恐ろしい。サーズは隔離などの方法があるが、大気汚染や室内汚染からは誰も逃れられないからである」と語っている。
香港や欧米のメディアはこうした深刻な脅威に対して対策が不十分だという、市民の怒りや不満の声を伝えているが、中国の国営メディアはまったく伝えていない。大気汚染による健康への深刻な被害が政府への批判につながり、社会の不安化を増すことを避けたいからである。
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病院は呼吸器系の患者で満員となっている 〈香港RTSテレビ)
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さらに増す深刻化は日本へも影響
しかし、いかに政府がマスメディアを統制しても、大気汚染の深刻化を防げるわけではない。
大気汚染の原因である暖房のための石炭は最近の寒波でその使用量が増え、フィルターのないストーブで燃やされ続けている。また、安上がりを優先して硫黄分の高い質の低いガソリンで走る自動車の排気ガスからは
、粒子状物質が大量に排出したままである。工場からの煤煙も北京オリンピックで工場を市外に移したものの、移転先から北京市内に流れ込んで来ている。
心配なのは、北京の病院で咳き込む子供を心配そうに見守っている両親たちから、政府に対する不満の声が上がり始めている点である。そうした声は不況による失業者の増加や極端な格差問題などと一緒になって
、より大きな暴動に発展する可能性を秘めているだけに不安である。
また、東シナ海や日本海で隔離されているとはいえ、わずかな距離しか離れていない日本への影響も心配である。現に九州各地や
山口県でも被害が出始めているようで、住民から自治体への問い合わせが相次いでいる。
長崎県の佐世保市や諫早市、福岡県の福岡市、山口県の宇部市や山陽小野田市などで、環境基準法で定められた基準値を超える数値が出て来ている。
現に私の下にも福岡の読者から、子供たちの喉や鼻に異常な症状が出ており心配だ、というメールも何通か寄せられている。
中国政府の汚染防止対策の現状を考えると、現在は日本への影響度が低くてもこれから先、数値が上がってくる可能性が大きいだけに
、日本海に面した九州や西日本、近畿など各県は黄砂だけでなく、汚染物質の飛来にも十分に注意を払う必要がありそうだ。
それにしても、中国ではまだ数億の人が初めての車、初めてのエアコン、初めての冷蔵庫をほしがっているというのに、その車や電気製品が発する汚染物質の濃度が
、すでに危険域を超えて来ているというのだから、なんとも空恐ろしい国である。
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九州大学応用力学研究所発表の2月1日の大気汚染粒子の飛来予測図を
見ると、九州・中国地方だけでなく北海道西岸への影響もはっきりと読み取れる |
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