改革路線の審判を国民にあおぐものとして注目されたイタリア総選挙。モンティ政権が推し進めてきた、痛みを伴う改革路線を継続する中道左派連合が勝利すると予想されていたが、いざふたを開けてみれば、反緊縮の中道右派が予想以上に票を伸ばすところとなった。
その結果、下院ではモンティ首相と連立を組んでいた与党の中道左派連合がわずかな票差で過半数を確保したものの、上院では政権を樹立するのに十分な得票数をどの勢力も得ることが出来ず、政治的な空白に直面することが必至となった。
何と言っても驚いたのは、解散直前まで首相を務めていたモンティ氏の率いる中道連合はわずか22議席と惨敗に終わったことと、コメディアンのグリッロ氏の「五つ星運動」が54議席と単独の勢力としては最大政党になったことである。
ボローニャ大学のステファノ・ザマグニ教授(経済学)は、こうした選挙結果を分析し、イタリア人の大部分が「ドイツと北部欧州の緊縮路線への追随にうんざりしている」ことを示したと指摘。「こうした人々がメルケル独首相や緊縮策に抵抗した結果だ」と述べている。
私はこれまで、ユーロ危機はギリシャやスペイン、イタリアなど財政再建が緊急課題となっている国々において、政府が財政削減に真剣に取り組んだ時、さらなる失業者数の増加や賃金、年金の削減に耐えられなくなった国民の暴動が心配だと述べてきた。
今回の選挙結果は、政府がこのままさらなる緊縮財政を続ければ、国民が大がかりなデモやストライキといった実力行使に出る可能性を暗に示している
ように思われる。いずれにしろ、今後の政局は、中道左派連合がいずれかの勢力と手を組んで、政局の運営に当たることになるものと思われるが、これまでモンティ首相が行ってきたような緊縮路線を歩むことは
、もはや無理だと思われる。
それゆえ、世界の市場は今回の選挙結果を受けて債務危機の再燃を懸念し、世界的な株安、ユーロ安に動き出したのである。現に、26日行われたイタリアの短期国債の入札では、政局への懸念が浮上し、利回りが直前の0.85%から一気に1.237%へと急上昇するところとなった。
こうしたユーロ危機の再発の可能性や米国の予算の強制削減問題の行方次第では、順調なスタートを切ったかに見える「アベノミクス」もいつ頓挫することになるか分からなくなってくる。ユーロやドルが信頼を失う事態になったら、円安は続かないからである。
しかし、あの手この手で、欧州も米国も危機引き延ばし戦略を打ち出してくることだろうから、しばらくは円安、株高は維持され、見せかけの景気回復ムードは続くことになると思われるが、世界の経済は「一寸先が闇」であることを、今回のイタリア選挙が知らしめたことは確かである
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