中国では3月以降、降水量が異常に多い状況が続いており、南部や沿岸部など長江流域各地では大規模な洪水が発生し、死者と行方不明者の数が222人に達していることは、「拡大し続ける中国の洪水」で記した通りである。
異常な大雨はその後も続いており、今度は北部の北京市や河北省、山西省、甘粛省、陝西省、甘粛省など6つの省と市で豪雨による
大規模洪水が発生。 北京市では20日から21日にかけ、7月の平均雨量の15倍もの大雨が1日で降り、史上最高雨量を記録。 市内の多くの地域では、道路が成人の胸元まで冠水し川のようになっており、一部の地域では土砂崩れも発生、160万人が被災し、80人を超す死者が出ている。
河北省の被害はさらに甚大だ。 邢台市周辺では12時間に460ミリという過去最高の降雨量を記録。 同省民政庁の発表した数字では、2
4日までに114人が死亡、111人が行方不明になったほか、約750万人が家を流されるなどの被害が出ている。
しかし、通信網、電力網、交通網全てが寸断され、未だ連絡が取れない村が10ヶ所以上もあることから、実際の被害状況は発表数字より遙かにひどく、死者や行方不明者の数は、この数字の数十倍に達している
可能性が大きいようだ。
今回の洪水で問題となっているのは、被害の大きさだけではない。 ダムの放流を下流の住民に知らせず行ったことから、多くの死者の発生は「天災ではなく、人災だ!」という声が沸き上がっていることと、地方政府がその事実を隠すために、被災者の数を抑えていることだ。
25人が死亡、13人が不明となっている河北省の邢台市・大賢村の洪水について、地元政府は近くの河川の決壊が原因だと発表しているが、村人たちは、川の上流にあるダムの放流を邢台市が決定したにもかかわらず、それを十分に市民に知らせなかった
ことが要因で、そのために多数の死者が出たのだと、怒りの声を上げている。
洪水発生直後、事前通知が徹底できなかった手落ちに対する反発を恐れた地元政府は「被災者の救出を進めており、死傷者はいない」と発表していた
というから、恐れ入る。 それを怒った人々による「これは天災ではなく人災だ」といった書き込みがインターネット上に殺到し、子供を含む多数の遺体の写真が掲載された。
その後、ようやく地元当局が犠牲者の情報を公表したものの、村民らが北京に抗議と陳情に行くことを恐れた市当局は、多くの警察官を動員し、周辺の高速道路も閉鎖する処置を行っている。
なんとも情けない話であるが、これが今の中国という国の実体である。
実はこうした人災は河北省だけのことではなかったのだ。 7月上旬、長江
周辺の洪水の被害が広がっている最中に台風1号が上陸した福建省でも、下流の村に住む住民に知らせずにダムの放水が行われていたようなのだ。
わずか1時間で水位が建物の一階まで上昇し、多くの人が逃げ遅れてしまったことを考えれば、大量の死者・行方不明者を出した洪水が、たんなる河の増水によるものでないことは明らかだ。 何も知らされぬまま、いつも通りの1日を送っていて、逃げ遅れて亡くなった人々はなんとも気の毒なこと
である。
最も甚大な被害を受けた福建省・閩清県の坂東鎮村の死者・行方不明者の数は、数百人に達しているにもかかわらず、福建省政府は
自己責任を逃れるために河北省同様、死者10人、行方不明者11人とまったくの虚偽の数値を発表。
在米国営放送ボイス・オブ・アメリカは、洪水被害について閩清県の住民に対して取材を行ったところ、坂東鎮村では橋桁や樹木の枝などあちこちに、洪水で流された人の遺体が架かっており、実際の死者は数百人に達しているようだ、と伝えている。
また、あるネットユーザーは「私の彼は今、災害ボランティアに出ている。 実際の死亡者数は数百人どころではないようだ。 火葬場職員が彼にこっそりと語ったところでは、この2日間、火葬場には大型トラックに乗せられた相当数の遺体が、ひっきりなしに運び込まれており、
すでに700〜800人の身元不明の遺体を焼いたと教えてくれた」
また、「運び込まれた遺体は、死亡者ではなく全て行方不明者として処理されており、遺体の身元確認作業に入ることは許されていない。
とにかく休むことなく焼き続けている」と、現地の様子を明らかにしている。 もしも、このネットユーザーの情報が正しいなら、福建省の死者の数は
1000人を遙かに超えていることは明らかで、政府発表の数値とは桁違いである。
そのため、坂東鎮村でも死者や行方不明者の実体は北京の中央政府に漏れないよう、村は全面封鎖され人々は村の外に出られず、救助隊員も村に入る前に携帯電話を没収されている。 このように
河北省や福建省の地方政府が災害時に死者や行方不明者の数を少なくしようとしているのは、政府幹部がダムの放水連絡の不徹底や、洪水対策が十分に出来ていなかったことを、中央政府に知られたくないからである
ことは明らかだ。
こうした地方政治のまやかしの実体は、洪水問題に限ったことではない。「理財商品」と呼ばれるサブプライム・ローンと同様な高金利商品をシャドウバンキング(幽霊銀行)を通して販売し、
その巨大な資金で幽霊都市を作ってきたのもその一つ。 それについてはこれまでにHPで記載してきたとおりである。
一方、中央政府もその実体を知りながら目をつぶり、実体の伴わない高度成長を世界に発信し続けて来たのである。 これが
中央政府と地方政府を治める共産党政権の実際の姿なのだ。
そんな国が今や米国に代わって世界の覇権国家になろうとしているのだから、恐ろしいことだ。
衰退する米国と、覇権国家を目指す中国を襲っている自然災害の大きさが何を意味するか、私の読者ならお分かりのことだろう。 これがカルマの恐ろしさなのである。