世界が注目する中、昨日、常設仲裁裁判所が下した「南シナ海の仲裁裁判」の判決は、ほぼ全面的にフィリピンの主張が認められ、中国にとっては全面敗訴的な結果となった。フィリピン政府は15項目からなる裁定を申請していたが、その中でも最も重要な点は次の2点
である。
@ 中国が設定した9段線は国際法(国連海洋法条約)から認められる領海線であるかどうか。
A 9段線内の海域に人工的に造られた7つの島は、中国の領土で排他的経済水域(他国が
利益を得ることを排除できる海域)に該当するかどうか。
先ず@については、中国政府が歴史的経緯を経て形作られた権利だと主張したのに対して、裁判所はその法的根拠はないと判定。 つまり、「900年前までの資料を調べた結果、中国の歴代王朝は海南島以南の主権を主張したことがなかった」という
、フィリピン政府の主張が認められたというわけである。
次のAについては、南沙諸島について中国の主張する権限は一切認められないとした上で、一部の海域はフィリピンの排他的経済水域に属するとし、そのエリアで中国は漁業活動の妨害などでフィリピンの権利を侵害したと、厳しい判断を下した。
これはフィリピンが自国の海域・スカボロー礁で漁をしていた中国漁船を排除しようとした際、中国海軍の艦船が衝突するなど邪魔をしたことを指している。
また、南沙諸島の珊瑚礁に回復不可能な被害をもたらしたことも指摘している。
仲裁裁判所がこれだけ厳しい判断を下したのには次のような理由があった。 海に浮かぶ島は大きく分けて次の3つに分類される。
@ 島 A 岩 B 低潮高地(満潮時には海面下に沈む島や岩)
中国が建造してきた7つの人工島の内、ガンベ礁など4つの島は「岩」に、またスビ礁など3つの島は「低潮高地」と判断され、排他的経済水域に属しないと見なされたのだ。 これによって、
これから先中国政府は建造した全ての島の周囲320キロを「排他的経済水域」と主張することが出来なくなった。 つまり、全ての国の船舶は公海と同様に自由に航行出来るというわけである。
中国外務省は仲裁裁判所の判決に対して「判断は無効で拘束力はない。中国政府は判決を一切受け入れず、承認しない」とする声明を発表し、自らの立場を一歩も譲らない構えを見せた。 仲裁裁判所の判決は上訴出来ないことになっているので、これが最終判決となるわけだが、判決に従わなくても罰則が下されることはない。
しかし、そうした行為に出た時には国際社会からの非難が高まることは避けられず、中国政府の立場が大きく損なわれることは間違いない。 もう一点、政府は国民に対して島の建造には大義名分があると主張してきただけに、今回の判決を広く国民が知るところとなった際には、判決に対する反発が強まり、批判の矛先が政府に向けられる可能性が大きく、習近平指導部は苦境に立たされることになりそうである。
一方、フィリピン政府は国際社会から自国の主張が認められたことになるだけに、嬉しいところであるが、新しく就任したドゥテル大統領は親中国的な考えを持っているようなので、どれだけ厳しく中国政府と交渉することが出来るか心配である。
中国政府の経済的支援を引き出すために、今回の国際法廷の判断を中途半端な形で終わらせてしまっては、習近平政権はますます増長してくるだけに、厳しい交渉を期待したいところである。
中国からの大量投資や大型プロジェクトを条件に今回の裁定をないがしろにしたら、禍根を残すことになる。