拡大する「ブーメラン現象」
原稿書きのため、このところの世界経済の動きなどについては触れることが出来ずに来たが、ロイター伝のニュースを見て、改めて感じるところがあったので記すことにした。
2008年秋のリーマンショック後、世界は未曾有の経済危機に陥り、不況の波に襲われた。その結果、世界の株価も暴落し先行きが不安視されたが、2009年の春を底に急回復を遂げ、今日に至っている。株価の動向だけを見ると、世界の経済は完全復活を遂げたかのように見える。
中でもアメリカのダウ平均値はリーマンショック直前の13、000ドル近くを回復し、史上高値の14、000ドルを伺おうとする勢いである。しかし、こうした株価が正常なものでないことは、HPで何度も述べてきたことであるが、その根拠として私が述べてきたのは、経済状況を把握する上で重要な指標となる、失業率や民間の住宅着工件数、大卒者の就職率が最悪の状況からほとんど改善していない点であった。
@ 失業率は10.1%まで達した後、現在は9.0% 。これでは回復したとは到底言えないことは明らかである。それもこの数値はかなりの手が加えられたもので、実体を把握したものでない点については、何度も述べてきた通りである。
A 民間の住宅着工件数は2006年に220万台だったのが、48万台に急落し、現在も52万台で低迷したままである。
B 大卒者の就職率は2007年に56%近かったものがのが、現在は、20%を割っている。
こうしてみると、アメリカの経済状況がいかにひどい状況のままであるかが分かるはずだ。それなのに、株価は完全に元の状況に戻り、新高値に迫ろうとしているのである。長い間、株価指数は経済状況を反映した数値として考えられてきたが、今やまったくそれとは別の物となり、市場は単なる金儲けのための「賭博の場」と化してしまったというわけである。
失業率の9.0%という数字がいかに嘘事であり、事実上20%を上回っている可能性が高いことを裏付ける一つの有力な証拠として、昨年12月22日に「ブーメラン世代現象」と呼ばれる社会現象を紹介した。読者は記憶しておられるだろうか? ポイントを記すと以下の通りである。
米国労働省の発表では2007年に50%台だった就職率は今年は19・7%にまで落ち込んでいる。そのため、新卒者は学生時代に抱えた学生ローンの返済をしなければならないため、家賃を払う必要のない実家
に戻って、親の世話になりながら就職先を探している。これがブーメラン現象の要因である。
その後、6ヶ月間でアメリカ経済が株価が示すように本当に回復しているなら、こうした社会現象は改善されていなければおかしい。ところが、ブーメラン現象はますますひどくなってきているようで、卒業後も、子供の世話を見続けている親の比率は60%に達しているというから驚きである。
リーマンショック後に大震災で追い打ちをかけられ、経済成長率(GDP)がマイナスに転じている日本でさえ、これほどひどい状況にはなっていない。
今回のロイター伝は、こうした異常な状況が長く続いているため、親が財政負担で破綻する可能性が大きくなってきていると、警告を発している。このニュースを読めばいかにアメリカ経済の実体がひどいままで、政府の100兆円に及ぶばらまきによって作られた景気回復が、決して本物となっていないことが分かる。
一方、大金をばらまいた政府の国家財政は、破綻寸前、というより既に破綻に至っているのが現実である。この点については、後日、時間がとれたら改めて書くことにする。
[ニューヨーク 27日 ロイター] 米国では親の約60%が、失業と賃金低迷に苦しむ成人した子どもに何らかの援助を行っていることが、米経済誌フォーブス電子版などの調査で明らかになった。
同誌と非営利団体「全国金融教育基金(NEFE)」が親400人と18―39歳の成人した子ども700人を対象に行ったオンライン調査によると、約60%の親が就学を終えた子どもに対して経済的援助を行っているという。そのうち半数が住居を提供しており、半数近くが子どもの生活費を援助していることが分かった。
調査では、現在の経済状況が青年世代の独立を難しくさせ、実家を出た後に再び戻ってくる「ブーメランキッズ」と呼ばれる若者を生み出していることも明らかになった。子どもの2/3が、自分たちはこれまでの世代よりも厳しい経済的プレッシャーに直面していると答えている。
NEFEのテッド・ベック氏は、子どもたちの経済的状況がより厳しくなっているという見方が一般的とした上で、援助を行う親は自身の経済状況に慎重になるべきだと指摘。「もし親が援助のために借金をしたり、定年を延ばしたりしているなら、自分の将来をも危うくしかねない」と警告している。