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海洋大循環に忍び寄る危機
 

2007年3月29日に掲載した「隠された不都合な真実」で、太平洋や大西洋を循環している「海洋大循環」と呼ばれる大きな海の流れについて次のように記した。
 

 

上の図で分かるように、強い太陽熱によって暖められた南太平洋の海水が、赤道を越えて北の海に流れ込み、欧州や北米の海外沿いを暖かくしている。また、この温暖流の上空で暖められた卓越風(高緯度地方を吹く季節風)は、ヨーロッパ大陸や北米大陸の内陸部を暖かくしているのだ。

その後、グリーンランドや北極海へと進んだ海水は寒気で冷やされ、高密度となって海底に沈んだあと、海底沿いに南に向かって流れていく。極北での沈み込みに引張られるように、さらにそこに南からの温かい海水が流れ込む。このように海洋大循環は高緯度の寒冷地に暖かさを運ぶベルト・コンベヤーの役目を果たしているのである。

ところが温暖化が進み、北極の氷やグリーンランドの氷床などが溶けて北太平洋に流れ込むと、これらの溶解水は淡水であるため、高濃度の塩分を含んだ南からの海水の濃度を薄め、その密度を下げることになる。

その結果、表層水は水温が下がっても海底に沈み込まなくなり、海洋大循環の速度が遅くなったり、停止したりする事態が生じることになるのだ。

 

昨夜(7月1日)は、NHKテレビ「砕氷船スバルバル号北極海を行く」(22:00〜23:30)で北極海の「海氷域」が異常に後退している様子が放映された。ご覧になられた方もおられたと思うが、どうやら北極海の海水温度は予想以上の早さで上昇しているようである。その結果、冬の間に氷結した北極海の氷は、春から夏場にかけて一気に溶け、海水の塩分濃度を低くする。海に浮く氷は塩分を含んでいないからである。

こうして、淡水化した海水が北極海からグリーンランドの東海岸沖へ流れ出ることによって、大西洋をのぼってきた表層水は温度を下がるものの、塩分濃度が低下しないため、海底に向かって沈む流れが発生しにくくなってしまっている。

こうして深層海流の流れが弱まる過程で、温暖化がさらに進み、北極海の水温は一段と上昇することになる。その結果、世界の各地で乾燥化と豪雨、ハリケーン、竜巻などの異常気象が多発する。今世界で起きている異変がそれを示している。

ところが、深層海への沈み込みが完全に止まってしまうと、「海洋大循環」も止まってしまい、暖かい表層水が低緯度のヨーロッパやアメリカ大陸の空気を暖める ことが出来なくなってしまう。その結果、突如として寒冷化が始まり出し、地球は一転して氷河期に向かうことになるのだ。(詳細はHP「隠された不都合な真実」(2)を参照)

私は、テレビに映し出されるノールウエー海軍の砕氷船スバルバル号が北極海を進む様子を、6年前に自分の目で眺めた北極海の景観と比較しながら見ていた。1時間半の番組が終わって感じた のは、ロシアの原子力砕氷船で北極点を目指していた6年前に比べて、はるかに海氷域が後退し、氷の厚さが薄くなっているということであった。どうやら、北極海の温暖化は想像以上の早さで進んでいるようである。

温暖化の様子が特に顕著に現れていたのが、スバルバル号が停泊した北緯80度付近では、私が目撃したような氷河や氷山の姿が全く映されていなかったという事実だ。またセイウチの姿が一度しか見られず、それも一頭だけであった。

テレビでは映し出されなかった、6年前の氷河とセイウチの姿をご覧に入れよう。(詳細はHP「北緯90度・北極点に立つ」参照)
 

 


高さが50メートルを超す氷河の先端
 

 

氷の上で休むセイウチの群れ

海氷の縮小によってホッキョクグマの絶滅が危惧されているが、こうしてみてみると北極海に生息する他の動物たち、オットセイもセイウチもホッキョクキツネも皆同じ運命をたどろうとしているようである。

南極のペンギンもアマゾンの野鳥もアフリカ大地のゾウやライオンもまた一緒である。こうした生き物たちが姿を消したあとにやってくるのは人類の絶滅の危機である。それもそんなに遠い先のことではないはずだ。

誰もがそうだが、身の回りの世界だけを見ていると、地球異変など「どこ吹く風」と他人事で見過ごしてしまう。そして、食べ物や衣料品が満ちあふれた今の 社会がいつまでも続くものと考えてしまう。しかし、現実には、地球の様々な地でこうした一大異変が発生し始めているのだ。

そして、北極海の一角で起きた異変は遠からずして、世界の隅々に影響を及ぼしていく。当然のことながら、我が国とてそれから免れることなど出来はしない。春にはサクラが咲き、秋には稲穂が 実る。そんなことがいつまで続くかは保証の限りではないのだ。

そう遠くない将来、我が国にも、あの巨大な氷河が崩れるように、地が揺れ、海が盛り上がり、山が動く大激変 がやって来てもおかしくない。昨夜のテレビはそんな近未来の壮絶な姿を垣間見せてくれた1時間半であった。
 

 

 

                                            
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