ニューヨークのダウ平均9000ドル割れ
9日のニューヨークの650ドルの下げを受けて、今朝の兜町はパニック状態に陥っていた。市場が開かれて間もなく、日経平均の先物は1000円安をつけたところでサーキット・ブレーカーが働き、取引が一時中断される状況におかれた。それに合わせるかのように現物の日経平均も900円を超す下げに転じ、為替は97円台まで円高が進んだ。
終値も881円安となり、バブル崩壊後の最安値の7400円が視野に入ってきてしまった。香港のハンセン指数も10%近く下げており、、ヨーロッパ市場にもアジアの高波が押し寄せそうである。
問題は、その後に開かれるニューヨーク市場である。朝方(日本時間の夜11:00)に、ブッシュ大統領のテレビ演説が行われるようであるが、よい意味でのサプライズの内容は出ないのではないかと思われる。既に公的資金による不良資産の買い取りや、金利引き下げが決定しているのにもかかわらず、市場の混乱が続いていることを考えると、あと残された手段は、金融機関への公的資金の投入だけである。
しかし、それは「言うに易く、行うに難し」である。全米の金融機関の総資産は13兆3000億ドルで、自己資本は1兆3000億ドル。仮に市場を安定させるために自己資本の30%を公的資金から投入するとなると、約4000億ドル(40兆円)が必要となってくる。この額は、先の安定化法案の7000億ドルの半分以上となる。
自己資金への投入は無担保、無期限の融資となるため公的資金の損出リスクは一段と高くなってくる。それだけに、アメリカ国民を納得させることは難しそうである。となると、結局市場の混乱を押さえようとすると、市場閉鎖しかなくなってくる。
もしも、今夜の大統領の演説をもってしても、株価下落が続くようだと、あとは市場閉鎖の発動しかなくなってくる。それは、ブッシュ一派の目論むところでもあるが、
実はそれに向けての策がG7で動き出すのではないかと思われる。
G7(主要7ヶ国財務相・中央銀行総裁会議)からG20へ
注目のG7は日本時間の11日未明、ワシントンで開かれるが、既に異例とも言える各国の協調利下げや多額の公的資金の資本注入などの方針が打ち出された後だけに、ここでもまた、サプライズするような有効な手段が打ち出されることは難しそうである。
出席する中川財務・金融相は「日本の外貨準備金を世界に提供する用意がある」となどという馬鹿げたことを発表しようとしているようであるが、こんなことを発表したら、貴重な外貨準備金はあっという間に底をついてしまい、韓国の二の舞になってしまう。何を考えているのか、財務省や財務相の頭を疑いたくなってくる。
私の得ている情報では、G7では具体的で実効性のある大胆な対策は打ち出せずに終わり、その後に、アメリカの要望に沿った形で、「G8首脳会議」か中国やロシア、ブラジル、東南アジアの国々を含めた「G20」(20ヶ国の財務相会議)が開かれ、改めて市場安定化策が論議されることになりそうである。
このG8首脳会議やG20の行方はについては、次の機会に述べることにするが、アメリカはこの場で改めて各国同時の市場閉鎖を求めるものの、ことは思惑通りに進まず、かえってアメリカ非難やドル離れが進み、その結果、ドル本位制の崩壊を恐れたアメリカは最後の手段に出ることになるようだ。
銀行の資金繰りの悪化
今身近の問題として一番不安なのは、世界中で金融収縮が起きており、銀行をはじめとする金融機関同士が資金を貸し借りできない状況に陥っていることである。一般の方は、銀行の金庫には何兆円、何十兆円の資金が蓄えられているものと錯覚しているが、銀行は顧客から預かった資金を高金利で回して成り立っている会社である。
したがって、金利のつかない金を金庫に寝かしておくわけにはいかないのである。いうならば、手元の流動資金(自由に動かせる資金)は出来るだけ少なくすることが銀行の目標でもあるわけだ。そんな銀行間で、貸し借りがストップしてしまったら、顧客への融資だけでなく、顧客の引き下ろしそのものにも、影響が出てきてしまうことになる。
実は、それが現実となってきている状況が報告され始めている。先日、ある大手の銀行に認証カードをもって50万円ほどをおろしにいった人から、今日はカードでは20万円しかおろせませんといわれて、大変困りましたというメールを頂いた。お話をお聞きしてみると、そのカードでは通常200万円までは問題なく引き出せるということなので、その日には流動資金に問題が発生していたのではないかと思われる。
また別の方は、昨日、他の大手銀行で数百万円を引き下ろしたところ、普通大金を引き落とすときには、百万円単位で封印されたピカピカの1万円札で渡されるものだが、この時渡されたのは、よれよれの1万円札の束であったという。このケースも、用意された流動資金が不足してしまったために、その日に入金された紙幣を使用せざるを得なかったのではないかと思われる。
また今日は、又聞き情報であるが、ある地方銀行の口座から預金を引き出そうと、コンビニに行ったところ、3カ所とも引き出しが出来なかったという話が伝わってきた。
日本銀行は、九月の半ば頃から、金融機関が資金のやりとりをする短期金融市場に毎日1兆円を注入し続けてきている。ところが、昨日は4兆円、今日もまた4兆5000億円の資金注入が行われたようである。なにゆえこんなに円資金が必要になっているのかというと、銀行や証券会社、保険会社は自社が発行したり販売した投資信託の解約発生や、顧客からの預金引き出しによって、多額の資金流失が発生しているためではないかと思われる。
それに、欧米の金融機関が自分たちの保有しているドルやユーロが値下がりしているので、円キャリー・トレードという方法で、比較的安定な日本円買いをしているのも大きな要因のようである。
こうした中、国内の中堅生保である「大和生命」が本日破綻に追い込まれたというニュースが伝わってきた。投資していた債券が値下がりし、資金繰りに窮したためと思われるが、いよいよ日本にも金融機関倒産の波が押し寄せてきたのかと、危機感が募(つの)ってきた。
ニューヨークの異変
ニューヨークに滞在している人の話では、街の様子が先月から一変し、街が汚れ、人々の表情が暗くなってきているようである。現に、高級店が立ち並ぶ「マジソン街
」や「サックス5番通り」でも空き店舗が目立つようになってきており、開いている店でも、店員ばかりが目立ち、ショッピングバックをもっているお客
の姿はまばらのようである。
また、「セントラルパーク」には観光案内をしてくれる馬車
がいて、私も以前ニューヨークを訪ねた際に、この馬車に乗ったことがあるのだが、この観光スポットには、意外に人気があって雪が舞うような寒い日でも長い行列ができる程であ
った。ところが、今はここもまた、閑古鳥が鳴いている有様で、馬主は頭を抱えているというから、観光客まで財布のヒモが堅くなってしまったようである。
驚いたことに、世界的に「銀行間」の金融市場がマヒしてきている話は先述した通りであるが、ニューヨークの街の中で、バンク・オブ・アメリカの小切手が通用しなくなっているようである。バンカメといえばシティー・バンクと並ぶ、アメリカ金融機関のトップに位置する銀行である。そこの発行する小切手が通用しないということは尋常ではない。
バンカメの株価が連日急落し、昨日の段階で、20ドルを切ってきていることを考えると、やんぬるかなとも思えるが、ニューヨークの市民からいかにバンカメが信用を失っているかを物語る話である。
それにしても、バンカメと言えば、メリル・リンチを救済しようとしている銀行であることを考えると、国民は何を信じたらいいのか分からなくなってきているのではないだろうか。
これを一つ見ただけでも、既に、アメリカが金融恐慌状態に陥りはじめている
ことは明らかである。