輪廻転生
日本では、古くから「生まれ変わり」があると信じられてきた。お尻に大きな痣(あざ)があったり、背中に傷痕があったりすると、この赤ん坊はきっと誰々の生まれ変わりに違いないなどと、家族や親戚の者の間でうわさにのぼることがあった。
その中でももっとも有名で信頼度の高いのが、江戸時代に起きた勝五郎の生まれ変わり話である、拙著『人間死んだらどうなるの?』から、勝五郎再生譚(さいせいたん)の一端をご紹介しよう。
勝五郎の再生譚
この話は、今から190年ほど昔、江戸時代の終わり頃に武蔵の国で発生したものであるが、当時の役人や村の長(おさ)の調べ書きが残された大変信用度の高い再生譚である。また、その内容はインドやスリランカにおける事例にも酷似している。
勝五郎は文化12(1815)年10月10日、武蔵国多摩郡中野村(現在の中野区)に父源蔵の子として生まれた。8歳のとき兄や姉に「もとはどこの誰の子か」と問うた。二人が生れる前のことなど知らないというと、勝五郎は、自分はよく知っている、もとは程窪(ほどくぼ)村の久兵衛の子で藤蔵というんだ、と言った。
姉があやしんで両親に話そうとすると、泣いていやがった。しかし遂に両親の知るところとなり、前世の生れ在所、父母の名、父の死後に来た継父のこと、6歳の時ホウソウで死んだこと、棺桶に入れられるときは魂は外に抜けだしていて、その後しばらくの間、家の中にいたこと、やがて白髪の翁(おきな)に連れられて霊界と思われる処に行った後、中野村の現在の家に生まれ変わったこと等をちくいち話した。
翌文政6年、母親は勝五郎を伴って前世の在所である程窪村を訪れた。勝五郎は母を案内して生家に着いたが、家のたたずまい、樹木の様子など全く勝五郎の話の通りで、養父、半四郎に会ってみると、藤蔵の生前の話の全てが事実と符合していた。
こうしたことは何も日本だけに限ったことではなく、世界の多くに国においても見られることである。中でもインドやタイ、セイロンなど輪廻転生を宗教の根本思想に持つ東南アジアの仏教国おいては、その傾向が強く、現代に至るも
なお多くの再生譚が発生している。
その中でも、ビルマ(現在のミャンマー)北部のナツル村で生まれたマ・ティン・アウン・ミヨと呼ばれる女の子の生まれ変わりは、前世(男性)の性格を持ち越
した大変興味深い再生譚である。
アウン・ミヨの事例
アウン・ミヨが前世の記憶に由来するらしき行動を初めて示したのは、3、4歳の頃であった。ある日飛行機が一機、ナツル村上空に飛来したのを見たアウン・ミヨは、ひどく怖がって泣き叫んだ。その後それは飛行機恐怖症にまで発展し、数年間続いた。またそれとは別に、やはり4歳頃、めそめそしていたことがあったので母親が本人にその理由を尋ねたところ、日本に行きたいからだと答えた。
彼女は、次第に自分は第二次大戦中、ナツル村に進駐していた日本兵だったという「前世譚」を語るようになった。彼女の語る前世は、ビルマを占領していた日本軍の炊事兵で、ある時、村に飛来した連合軍の飛行機の機銃掃射(きじゅうそうしゃ)を受けて死亡したということであった。
アウン・ミヨは、一家から見ると変わった行動を示したが、日本兵の行動としてみると納得のいくことが多かった。食物の好みなどもそうであったが、自分の前で英米人の話が出ると、彼らに対する怒りの気持ちを露(あらわ)にする点などその最たるものであった。
ところで、アウン・ミヨの行動の中で最も顕著な点は、際立って男性的であったことである。
そのため、彼女は幼い頃から男児の服を着用し、男児のような髪型にしたいと言い張った。その結果、女子生徒にふさわしい服装の着用を迫る学校に逆らい続け、11歳の時、学校を中退せざるを得なくなるほどであった。
さらに成長後も、男性的な特徴は消えず、男物の衣服を身に纏(まとい)女性として見られることを強く嫌い続けた。そして、先に述べたように、男性との結婚には全く関心を示さず、逆に、女性を妻に迎えたいとすら言い張るほどであった。
アウン・ミヨの家族は、彼女が男っぼいのは、前世で男だったためだという本人の説明を受け入れ、それ以外の変わった行動についても、その多くは、日本兵だった前世時代から持ち越された性格や資質が、色濃く反映したものと理解していた。
最近の世界的傾向である同性愛者の急増や、女性的な男性や男性的女性の激増傾向は、アウン・ミヨと同じ要因ではないかと思われる。
宇宙飛行士カルパラ・チャウラの生まれ変わり
その事故から4年ほど経過した今、インドで、その宇宙飛行士カルパラ・チャウラの生まれ変わりではないかとして注目を浴びている4才の
子供がいる。ウパサナと呼ばるその女の子は、物心ついた頃から、親がつけてくれた名前を名乗らず、「私はカルパラ・チャウラよ」と言い続けているのだという。アウン・ミヨが私は男だと言って譲らなかったのと同じケースである。さらに彼女は
、「私は4年前にお空で、墜落事故で死んだの」と話しているというから驚きである。
彼女の父親ラージ・クマールさんの言を聞いてみよう。
「ウパサナは口がきけるようになって以来、ずっと私の名前はカルパラ・チャウラで、私のお父さんの名前はバナルシ・ダス・チャウラ(宇宙飛行士の実父の名前と同じ)だと言い続けています。けど、私ら、カルパラなんて名前、聞いた事も無かったし、(誰のことを言っているのか)皆目見当がつかなかったんです」
「けれど、ウパサナの言う事を聞いているうちに、娘は自分の前世について語っているんだと信じるようになりました。娘は(乗っていた)宇宙船に大きな氷の塊が当った後、墜落して自分は死んだのだと言っています」
コロンビア号の事故については、コロンビア事故調査委員会(CAIB)が断熱材の破損によるものとする調査結果を出しているが、搭乗していた飛行士カルパラ・チャウラ自らが伝える真相は、それとは異なり、どうやら氷塊の衝突によるものだったようである。
近いうちに、ウパサナちゃんとカルパラさん一家との対面が実現するかもしれないというから楽しみだ。恐らく彼女はカルパラさんの住む町に近づけば、
誰の助けも借りずに両親を前世の我が家であるカルパラ家に案内するに違いない。拙著で紹介した
、インドの生まれ変わり少女・スワルンラタがそうであったように。
通常の形での輪廻転生は、200年前後のサイクルで行われているといわれている。死者の魂はいったん霊的世界に帰還し、今生での癒しと反省を終えた後、
地上生活の数倍の歳月を霊的世界で過ごした後、再び転生のサイクルに入るのだ。
こうした一般的なサイクルで生まれ変わる場合は、再生する直前に、前世までの記憶を潜在意識の中にしまい込む仕組みになっているため、前世の記憶を思い出すことはない。しかし、ここで取り上げた子供たちのように、通常の輪廻のサイクルから外れた特殊のサイクルで転生する子供たちは、この限りではない。
特殊なサイクルとはいかなるものか? それは、死後に本来なら戻るべき霊的世界(幽界とか霊界)に帰還せずに、地上界もしくはそこにごく近い階層に留まってい
る間に、何らかの力が働いて転生を果たすケースである。
このようなイレギュラーな転生のケースの特徴は、死後から再生までの期間が極端に短く、数ヶ月から数年の場合がほとんどである。それだけになおさら前世の記憶が鮮明でもあるのだ。
ただ、こうした形で再生する場合は、地上界で
負った心の傷を癒したり、己の人生を反省して再生のための勉強を済ませてきていないために、転生した新たな人生では、行き当たりばったりの波乱万丈の人生を送ることが多いようだ。
ウパサナちゃんも、
事故日と誕生日を調べてみると、コロンビア号の墜落事故から2ヶ月も経たないうちに
転生している計算になる。
これでは、生まれ変わるための準備は何も出来なかったはずだ。さらに前世の記憶が強いために、日々の生活を送る際に、自分の思いと現実世界との乖離(かいり)があまりに大きく感じられ、前世記憶が消えるまでは、心の満たされない人生を余儀なくされるかもしれない。