いよいよ北京オリンピック開幕
iいよいよ今夜の開会式から北京オリンピックの開幕である。
長い間、世界中からその開催が疑問視され、不安視され、直前までテロや暴動が続発した北京オリンピックも、なんとか開催にこぎつけられそうである。とはいうものの、アフガニスタン侵攻を理由に多くの国々が参加をボイコットしたモスクワオリンピックは別にして、開催そのものがこれだけ
問題視されたオリンピックは近来まれである。
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メーン会場となるオリンピック・スタジアム。通称「鳥の巣」
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まるでオリンピック開催を呪うが如く、今年に入ってから自然災害や暴動が次々と発生してきた。1月の大雪、3月のチベット暴動、5月の四川大地震、7月の新疆ウイグル自治区のテロ、さらには前代未聞の開幕日まで続くヨットレース会場の閉鎖
。
それにもましてスポーツの祭典会場地として各国の参加選手から疑問視され、その改善が強く求められ
てきた大気汚染問題は、結局のところほとんど改善の兆しが見えないまま今日に至っている。その何よりの証拠が、開会式直前まで、各国選手が合宿を張ったのが、日本と韓国であった
ことである。
現に、5日に北京入りした日本選手団は、500個の防塵マスクを用意し、北京で実地練習時に着用することにしており、オーストラリアの多くの選手は開会式への参加さえボイコットしている。
環境保護団体の「グリーンピース」は7月28日、「北京五輪環境評価報告」を発表し、7月の最初の27日間
の内、北京の大気は世界保健機関の基準に達したのはただの2日しかないことを明らかにした。「グリーンピース」は、五輪開催期間中に大気がまだ基準に達していなければ、競技を延期するよう呼びかけている。
聞くところでは、北京に住む中国人が、「マラソンは煙突の中を走るようなものでしょう」と申し訳なさそうに話していたと言うから、汚染のほどが知れるというものである。
マラソンをはじめ、50キロ競歩や自転車競技、サッカーなども、屋外で体力を消耗する率が非常に高い競技で、不祥事が起きなければよいがと、気になるところである。
もう一点、確か開催承認の条件として国際オリンピック組織委員会が出したのが、人権問題の改善であったはずである。しかし、その点は一向に改善されるどころか、その実体のひどさが赤裸々になってきている
ままでの開催強行である。8月4日、北京市の前門(北京の中心部)地区に住居を構えていて強制立ち退きを余儀なくされた人々が、天安門広場で行った抗議活動が、その一例である。
端(はた)から見ていて何よりおかしく感じるのは、地方からの出稼ぎ労働者300万人に対する人権無視も甚だしい帰郷命令である。正式な北京入りの許可証を持っていない労働者を、軍や警察は有無を言わせず帰郷させて
いる。許可証があろうがなかろうが、彼らがいてこそ、オリンピックの開催にこぎつけ
られたのではないか。共産中国の裏の顔を垣間(かいま)見たようで、嫌悪感が走る。
許可書の所持に問題があるなら、そもそも、彼らを北京入りさせて就業させたこと自体を問われるべきではないか。警察から非情な追求と追い立てを受け、憤懣やるかたない顔で北京を去る貧しい身なりの労働者の姿を見るにつけ、これでは、人権無視どころか虫けら同然の扱いではないか
と思えてくる。
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北京や上海、南京などを旅行した観光客からは、
咳が出て仕方がなかったという話もある
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五輪目前、北京市周辺の省や市で大停電が始まった
人権問題や大気汚染とは別に、本当に今の中国でオリンピックが開催出来るだけの力があるのかと点も大いに気になるところである。その代表例が主要開催地の北京市における水の供給不足と電力の不足である。
今回の北京オリンピックのテーマは、水をふんだんに使った「グリーン・オリンピック(緑色五輪)」である。そのために、北京市の主要な道路には何百万本の街路樹が植樹がされ、そこには毎日膨大な水が散水されている。また、オリンピック会場周辺に作られた水をテーマにした公園でも
、あふれるほどに大量の水が使われている。
街路樹の植樹や水公園の設置は結構のことであるが、問題は1500万北京市の住民の生活用水にも事欠いているのが実情であるという点である。それでは、それらの大量の水はどこから供給されているのかというと、北京近郊の村々に作られた、官庁ダムや密雲ダムといった貯水ダムからである。
しかし、それらのダムが建設されている村々はここ10年間ほど続く干ばつで水量が激減してきている地域である。かって河北省の米所といわれたカンペイ市ではこうした状況の中で、北京に水を送り続ける
ているために、稲作からトウモロコシ栽培に転作を余儀なくされ、6700ヘクタールの水田が姿を消してしまっているほどである。
また他のダム地でも、水不足が続き野菜栽培や家畜への水はおろか、飲み水さえ困窮しているの現状である。国土の67%が森林で、世界でも有数の水に恵まれた日本では想像すら出来ない
かもしれないが、こうした人々の犠牲と引き替えに、北京への水は供給されているのである。
それだけに、北京オリンピックの終わった後が心配である。オリンピックの大儀が消えた後は、近郊農民の我慢の糸が切れる可能性があるからである。
農民一揆の現代版勃発はテロリストたちの暴動とはわけが違う。その数は桁(けた)が違うからだ。
電力不足も大きな悩みの一つである。それゆえ、近郊の河北省や山東省などにおいては、大分以前から電気使用量を制限されており、北京で大型会議が開かれたとき
などには停電となることが常であったという。
きくところでは、周辺の各省や市で電気使用量制限が適応する順序は、まず農村で、最も長い時間電気の供給が断たれ、次に都市の貧困区 ・ ・ ・ ・ これらの後に高級住宅地区と政府機関と続くのだというから、
格差社会もいいところだ。
今年は、五輪がまだ開幕されていないにもかかわらず
、北京市周辺の都市ではすでに停電が始まっており、山東省の都市では隔日10時間を超える停電となっているいるという。そのため、楽しみにしていたオリンピックが見れない地域が出てくるようで、住民から不満の声が出始めているようである。
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今夜の開催式、こんな天気にならなければよいが
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気になる開会式の天候
東京オリンピックのように、統計的に一番晴れの確率の高い日を選ぶのと違って、縁起を担いだ8月8日は、酷暑の真っ最中であるばかりか、夕立の最も多い時期である。夜の開催式
自体が珍しいこことであるが、それだけに開会式当夜は、3万4000発の打ち上げ花火が売り物となっている。しかし、しとしと雨ならいざ知らず、集中豪雨ともなれば、花火の打ち上げはままならな
くなってくる。それだけに、今夜の天気が気になるところである。
私が一番気が滅入っているのは、晴れ空を作るために、開会式の前に人工降雨を実施しようとしていることである。
スポーツは本来自然と一体となったものであるはずだ。それが、その代表的な祭典であるはずのオリンピックの開会式に、人為的な気候操作が行われるのかと思うと、興ざめである。
そんなに当日の天候が気になるのなら、何も、天候不順な8月8日など選ばず、東京オリンピックの開催日のように、春なり秋の晴天の確率の高い日を選べばよいものをと思うのだが
、開催日の決定には別の事情があったようだ。08年8月8日、夜8時開幕という「8」並びにこだわったのは、中国では「8」が特別に縁起の良い数字であるため
だそうだ。
しかし、古代中国ならいざ知らず、今日の中国にとっては、どうやら「8」はあまり縁起の良い数字ではなくなってきているように思われる。というのは、オリンピック
イヤーの今年、大寒波が襲来した1月25日、チベット騒乱が発生した3月14日、四川大地震が起きた5月12日、いずれも発生月日の合計が「8」になるからである。
ところで、7月30日午後8時、開催式のリハーサル
が初めてメーンスタジアムの「鳥の巣」で観客付きで行われたが、進行中突然大雨に遭遇、観客と出演者が一時間も大雨を耐えびっしょりでリハーサルの終了を向かえている。
聞くところでは、大雨は局部的であり、鳥の巣を中心に、北京市区南部のみに集中したようで、別の区ではまったく降らなかったところもあったというから、
天の啓示だったのではないかと不安が募る
ところである。
しかし、五輪が誕生以来、雨の中の開催式はいままで一回もなかったというから、何とか天候に恵まれ3万4000発の花火が見られるのではなかろうか。
国外観光客最低のオリンピック
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オリンピック開催を前に、異常なまでの警備体制に入った軍と警察 |
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どうやら今回の北京オリンピックは、海外からのオリンピック見学客数が近年では最低になりそうな雲行きである。十億を超す国民がいる中国であるから、外人客など必要ないのかもしれないが、大量の観光客を当てにしたホテル業界や観光
旅行業界は大変なようである。
空港はもとより、各競技場周辺で行われている過剰防衛とも思われる警戒態勢は、オリンピック気分や観光気分を台無しにしている。地対空ミサイルが配備されているだけでも気分が悪いのに、街のあちこちで、X線検査やボディチェックが行われ、ライター、液体、横断幕などが回収されているというから
観光客はたまらない。
また、瀋陽ではタクシー運転手に「重要治安情報を提供すれば、最高50万元(約750万円)の報奨金」制度が通告され
ているようだが、これもまたいやな気分にさせられる。北京では多くのタクシーに録音機が内蔵されているとの情報もある。さらに頂けないのが、北京市内に新設された防犯カメラである。実に22万台が新設され、合計30万台のカメラが絶えず監視しているというから、おちおち街も歩けない。
それに、北京のみならず上海も青島も公共の路線バスにはすべて制服警官のほかに私服警官が乗り込む措置が取られているようなので、まるで戒厳令下の国へ旅行に出掛けるよう
なものである。
これでは、日本からの観光客も減るだろうと思っていたところ、昨日(7日)のJALのオリンピックチャーター便の第一便の乗客は、定員234人に対したったの78人、
しかもそのうちの70人はビジネスクラスの利用客だと言うから、マスコミ関係者やオリンピック関係者の役員クラスがほとんどだったに違いない。ということは、一般の観光客は10人にも満たな
かったということになってしまう。
それも道理で、最近、北京や上海、南京などを旅行した観光客からは、咳が出て仕方がなかったという苦情が旅行業社に寄せられているようだから、テロの不安やあまりにも厳しい警備体制
がそれに加わることを考えると、高い旅費を払うより、テレビ観戦ですまそうと考えるのは必然かも知れない。
このように、不安と不満、そして多くの問題を抱えた北京オリンピックであるが、長い間、開催を楽しみにしてきた多くの中国人や、血の出るような試練を乗り越えて参加することになった世界中の選手諸君のことを考えると、何はともあれ、無事に全競技が行われ、滞(とどこお)りなく24日の閉会式を迎えることを願わずにはいられない。
オリンピック期間中、暴動やテロに限らず何らかのトラブルが発生する可能性は小さくはなさそうであるが、中国政府の体質を考えれば、何が何でも閉会式まで持っていくことになるように思われる。心配なのは、もしも、こうしたトラブルが発生し、それを強引に強行突破した時のオリンピック終了後の反動である。
それにしても、あのブッシュ一人のために、自動小銃を携帯した300人近い警護が配備される開会式は、あまりに異常であり、異様でもある。
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