オリンピック後の中国の行方
パラリンピックも終了し一山超した中国ではあるが、これから先には暗雲が立ちこめているようである。
洪水、干ばつ、巨大地震などの天変地異だけでなく、中産階級から低所得者の間にくすぶり続けてきた政府に対する強い不信や不満が顕在化し、暴動やテロ
に発生する可能性が強いからである。私が見るところでは、それらは同時多発的に発生し、社会秩序が乱れて始めて政治的混乱に拍車がかかってきそうである。
その前兆となるのが経済危機であるが、それは株価や不動産価格の暴落となって既に始まっており、いつ社会問題として爆発してもおかしくない状況にある。これについては次回の「中国の激変シナリオ
A」で述べることにする。
7月以来、すでに2万キロを超す祈りの旅を続けている比嘉良丸氏がこれまでに見せられている中国に関するヴィジョンは、
自然災害や経済崩壊によって生じた暴動やテロを政府が力で阻止しようとして武力衝突が発生する場面である。
四川省や新疆ウイグル自治区で発生する新たな暴動は、野火の如く各地に広がりるにつれ暴動やテロに対する民衆との武力衝突は次第に拡大し、やがて、遠からずのうちに、共産党の一党支配体制の崩壊が始まる
ようである。
それでは、暴動やテロ発生の要因となる問題を見てみることにしよう。
暴動発生の要因、
@ 格差社会への不満
A 社会生活に対する不安と不満
B 天災や異常気象
C インフレによる食糧・生活用品の高騰
D 株式崩壊による生活苦
格差社会への不満
中国社会の格差があれほどひどいとは想像外であった。それを知るきっかけとなったのが、他ならぬ北京オリンピックであった。北京とその近郊に住む少数の富裕層と
、貴州、雲南、四川、チベット、新疆ウイグル自治区、内モンゴル区などに住むたくさんの貧困層の生活状況を見ていると、到底同じ国に住む人間とは思えない程である。
北京オリンピックが知らしめたのはそれだけではない。中国共産党員とその一族による権益乱用と、それを不満とする人々に対する容赦ない締め付け行為である。中国社会が賄賂(ワイロ)や収賄を日常化していることは
、これまでも聞かされていたが、中央政府や地方政府に群がる党員の権益乱用は想像を絶するほどのひどさであるようだ。
一般国民の陳情や要望が、地方や中央政府にほとんど受け入れられない状況が長い間続いてきていることは、北京の一角に、陳情村が出来ており、そこで暮らしながら何ヶ月も、何年もかけて陳情を繰り返している姿
が示している。陳情受付の窓口の周辺には、陳情に来る人間の数より、それを追い払うための秘密警察の姿の方が多かったのには驚かされた。
現に、オリンピック期間中にデモ活動が正式に許可され、3カ所のデモ会場が用意されたにもかかわらず、一つのデモも行われなかったことは記憶に新しいところである。これを見ただけでも、中国で
は自由、平等政策が進み、自由主義国家に近づいているなどということは、妄想に過ぎないことが分かる。
こうして見てみると、中国は共産党政権になって以来、本質的な体質は何も変わっていなかったのである。自由や平等の権利は、あくまでも共産党政府が認めた社会と人間の間にだけ存在しているのであって、全ての国民に等しく与えられたものではないのだ。私たちの年代の人間は、かって中国やソ連は人権を無視した恐ろしい国だと思ったものであるが、それは、今でも何ら変わりはなかったというわけである。
こうした格差社会に対する不満が暴動という形で現れた代表例が、チベット自治区での暴動である。その後に発生した湖南省の女子暴行殺人事件に対する暴動、貴州の不動産企業による違法な資金集めに対する暴動
、新疆ウイグル自治区で発生した警察に対するテロ、・・・・・ これらもみなその一例である。
新華社は共産党の宣伝機関としての役割を担っているマスメディアであるが、その新華社でさえ、近年の暴動や抗議活動が異常であることを認め、このままでは共産党一党独裁の社会基盤が崩壊する危険性があるとする記事を、次のように伝えている。
貧困層は爆発寸前!暴動・抗議行動、年9万件上回る―中国
9月9日新華社
2008年9月8日、雑誌・瞭望は「貴州暴動が示すもの
貧困層の不満は限界に」との記事を掲載、住民暴動が相次ぐ中国の現状に警鐘を鳴らした。新華社が伝えた。
今月4日、湖南省吉首市で不動産企業による違法な資金集めの被害を受けた市民が暴動を起こした。道路、線路に市民が入り込み交通が完全にストップするなどの混乱を招いたが、今や中国ではこうした事件は珍しいものではない。ある統計によると、暴動・抗議運動は1993年時点では年8700件だったが、2005年には8万7000件と10倍に急増、06年には9万件を突破しその後も上昇傾向にあるという。
事件の中でも最も大きな衝撃を与えたのは今年6月28日の貴州暴動だろう。地方政府官僚の息子が中学生少女を暴行殺害したが、その権力を利用して事件がもみ消されたとの風聞が広がり、数万人が参加する騒ぎが発生した。市民が政府に根強い不満感と疑惑を抱いていることがはっきりした事件だった。
瞭望は、現在の中国では地方経済の発展モデル、または社会全体の発展モデルが一部市民の利益を無視する形で行われており、社会矛盾が激化していると指摘。この問題は決して看過できるものではなく、科学的発展観のもとで政治モデルの改革を進め社会の公平性を高めることが必要だと主張している。
社会生活に対する不安と不満
先の四川省大地震で国民が感じた不安と不満の一つが、安全と思われていた公的建造物の崩壊であった。その最たるものが学校の校舎が倒壊し、たくさんの子供たちが犠牲になったことである。また、今問題になっている粉ミルクや牛乳への化学物質メラニンの混入事件も同じである。
そうした事故や事件はどこの国でも発生してきていることであるが、問題なのは、中国ではその規模が大きいと言うことと、対処が遅すぎるという点である。汚染粉ミルク事件について政府は、管理が行き届いている大手の会社の製品にはまったく問題がないと発表していたのに、今朝のニュースでは大手の会社の製品からもメラニンが検出されたと報じている。
そうなってくると、もはや国民は乳児や幼い子供たちにどこの会社のミルクや牛乳を飲ませたらよいか分からなくなってしまう。日本の食品偽装事件のように限定されたものでない点が、なんとも恐ろしいことである。これは国民にとって、大きな不安であると同時に、行政に対する強い不満や憤りとなってくる。
更に恐ろしいのは、メラニンの混入が判明し市当局に報告をしたのが8月2日のことだというのに、市が省政府に報告したのは9月9日だという点である。その裏には、収賄や癒着の蔓延と利己利益優先の社会的責任感の欠如と同時に、人命軽視の風潮があることは明らかである。
これでは、日本のギョウザ事件が一向に解決しないわけである。かっての中国ならいざ知らず、国民の意識が大きく変化してきている現在では、こうした社会生活に対する不安と不満は遠からず爆発し、その矛先はいつか必ず、省や中央政府に向けられ大きな暴動やテロにつながることになるに違いない。
次々と発生する天災や異常気象による被災
一方、自然災害による被害も後を絶たない状況が続いている。
今年に入ってからの天災と異常気象による災害は、1月に中国南部を襲った記録的な大雪、5月の四川省大地震だけではない。
伝えられる地震災害だけでも数多く、北部の干ばつと南部の豪雨・大洪水の被害数は、数えればきりがないほどである。
オリンピック以前のものは既にHPでお知らせした通りであるが、8月以降もその流れは少しも変わっていない。雲南省、四川省、甘粛省、陝西省、チベット自治区では、マグニチュード5〜6.8の地震が相次ぎ、雲南省では大洪水、新疆ウイグル自治区では大干ばつが続いている。 Record
China社と大紀元社が伝える主立ったものだけでも次のようになる。
連日の豪雨により125万人に被害=雲南省
【大紀元日本8月12日】
8月7日から11日までの間、中国雲南省の一部地区で暴雨が続いた。強い雨は文山、紅河、昭通、版納、楚雄、麗江、臨滄などで洪水、地滑りや土石流災害を引き起こし、死者20人、行方不明10人、81万8千300人が被害を受けた。直接的な経済損失は3億元に近いという。(追記 : その後、死者の数は40人に達し、被災者は125人を上回った)
雲南省民政庁のデータによると、8月10日午後4時に至るまでに同省7州市で81万8千300人が被害を受け、20人が死亡、10人が行方不明、倒壊した家屋470軒1千600戸以上、損壊7千600戸。
農作物の被害4万ヘクタール以上、収穫が出来なくなった農地7千ヘクタール以上。交通、電力、通信、水利などのインフラも様々な被害を受けた。災害による直接的な経済損失は3億元に近く、そのうち農業直接経済損失は2億元に近い。
9日には、雲南省文山壮族苗族自治州馬関県都龍鎮の石頭村漂水岩路で、連日の暴雨により地滑りが起こり4人死亡、5人が負傷し7人が行方不明となる災害が発生している。
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