アメリカ政府系住宅金融機関2社政府の管理下に
7日(日)、アメリカ政府が政府系住宅金融機関ファニーとフレディ(GSE)2社を公的管理下に置いたと発表。
政府出資のシナリオについては既に何度も触れてきた通りであるが。タイミング的には少々驚きであった。なにしろ突然であるばかりか、土日を返上しての作業によって、日曜日に発表
するという異常な処置が行われたからである。なぜこの週末に徹夜に近い形で資金投入の調整を行わなくてはいけなかったのかというと、どうやらそれには
切羽詰まった幾つかの理由があってのことのようである。
その一つが、この週末に巨大金融機関(私が先のレポートで述べた金融機関の一つ)の破たんが想定されていたためであり、これを避けるために何としても早急に救済を行い、2社が発行している債券の価格を引き上げる必要があったからのようだ。
二点目は、ゼネラル・モーターズ(GM)社の持ち株金融会社が発行している債券の価格が額面の半分程度になってきており、このままいけばGM社本体の破たんが視野に入ってきたため、その債券である「ジャンク債」を急いで救済する必要があったことである。
今一つが、隣国・韓国のデフォルト問題である。韓国政府が67億ドルと400億ドルの国債の償還期限がこの週末に迫っていることは先のレポートでお伝えした通りであるが、外貨準備金の換金先であるファニーとフレディの2社がスムーズに支払いが出来ない
状況では、韓国政府がデフォルト宣言を出さねばならないところまで立ち至っていることも理由の一つであったようだ。もしかすると、韓国政府から
アメリカ政府への強い要請があったのかもしれない。
どうやら、私がこれまで一連の経済危機レポートでお伝えした内容が次々と現実の物となりかかったために、急遽、休日返上で作業にとりかかり、GSE2社を公的管理下に置くことを発表したようである。
それだけに、今回の緊急処置は、アメリカがいかに危機的状況に置かれているかを物語っていると言えよう。
株価上昇に惑わされるな
この救済策で、日本を始め世界の株式が一気に反騰した。8日の日本株は412円、香港のハンセン指数も860ポイントと大幅上昇している。今夜から明日に掛けヨーロッパやニューヨークも大幅な上昇相場が展開されるに違いない。(9日深夜12時過ぎ時点で、英国市場で200ポイント、ニューヨークで230ドルほど上げている)
しかし、それもそう長くは続かないはずだ。せいぜい2週間か3週間が良いところだろう。なぜなら、市場参加者は遅かれ早かれ、この救済策で、米住宅市場が底入れ
したわけではないことに気づくはずだからである。
それどころか、経理調査に入った監査機関筋からは、粉飾決算まがいの経理操作が行われていたという情報が流れているくらいであるから、これから先、ファニーとフレディ2社の資産内容の詳細が明らかになるに連れ、巨大な債務超過額や自己資本不足が公(おおやけ)になってくる可能性が大である。
現に、昨日のNYタイムズで、Gretchen Morgenson と Charles Duhigg'
両氏はフレディーとファニーは粉飾していると述べている。
それより問題は、2社の債券を肩代わりすることになったアメリカ政府そのものがどうなるかという点である。現在、アメリカの発行している米国債残高はおよそ490兆円、これに対して2社が発行している債権残高はおよそ550兆円、つまり、2社の債権残高はアメリカ政府の米国債を上回っているというわけである。
その上この債権は、サブプライムローン開始2年で金利軽減期間が終わり、それ以降、金利が一気にハネ上がるのと同じように、発売開始の5年後から金利が切り上がる仕組みになっているというから始末が悪い。つまり、債券を発行してから5年以上経つと、投資家に政府系住宅公社の債券とは思えないほどの高い金利を払わねばならない約束になっているというわけである。
まるで、サブプライムローンの借り入れをしている、低所得の債務者と同じ状態に置かれるというわけである。そして、その低利から高利へ大量の切り替えが始まるのが、来年、2009年からなのだ。
こうした要因で、ゴールマン・サックスのアナリストは「ファニーの損失は320億ドル、フレディの損失は210億ドルに拡大する
」ものと見ている。もしも、この推測が正しければ、両社は先のレポートで私が書いたように、大幅な債務超過に転落することは間違いない。つまりアメリカ政府は大変なお荷物を抱え込んだことになるわけだ。
その結果、ファニーとフレディ両社の高金利の債券を保有したアメリカ政府
の債務は、490兆円から1040兆円に2倍になるだけでなく、実質的な金利の支払いは高金利債券を抱え込んだことによって、これまでの2倍以上に膨れ上がってしまう
可能性があるのだ。
それよりも、ファニーとフレディー金利が相対的に低下して、アメリカ国債の利回りとのスプレッド(差)が縮小するなら、緊急援助の目的が達成されることになるが、もしも、その逆に、国債との金利差縮小が国債の利回り上昇によってもたらされるようなことになるなら、政府の金利支払いは、大変なことになってしまう。
これでは、2社の持つ債券市場は救われても、政府債務と金利支払い額が膨張して、国の信用である米国債そのものが失墜することになってしまう。もちろんその時には
、ドルの暴落は免れようがない。
ポールソン財務長官は、2社の救済に必死であるが、それは彼が財務長官に就任する前に、サブプライムローンに対するデフォルト保険を購入しその何倍もの大金を儲けているからである。ジョージ・ソロス氏が著書の中で、「ある時、彼と夕食を共にして、その手法を聞いたことがあるが、唖然とするものであった」と述べている。
唖然とする手法で儲けてきているソロス氏自身が唖然としたというのだから、さぞかし凄い「いかさま商法」でぼろ儲けをしてきたに違いない。今回の強引な救済措置はその罪隠しと、ブッシュ退任の後、再びその世界に
戻ろうとしている彼の手みやげ代わりかも知れない。
後は、アメリカ議会やFRB(アメリカ連邦準備理事会)がどう対処するかということである。いずれにしろ、今回の処置は、金融危機到来を先送りするための時間稼ぎ以外の何物でもないが、そのほころびがいつ露呈するのか、しばらく様子を見ることにしよう。