奇っ怪な株式市場
5日ほど日時ををさかのぼることになるが、アメリカ上院でビックスリー救済法案が否決され、その後、上院議長の「明朝のウオール街の反応を考えると恐ろしい」というコメントが世界中を駆けめぐった。その暗いニュースが日本に伝わったのは12日の昼の1時過ぎ、法案採決に楽観的な見方が広がっていた
株式市場は一気に暗転、一時600円を超す下げとなり、終値も450円ほど急落して引けた。
アジア市場では香港のハンセン指数が5%、850ポイント下げ、欧米の株式もみな4〜5%の下げを演じていた。それは皆翌朝のアメリカ市場の暴落を恐れたからに他ならない。ところが、
実際にニューヨーク市場が始まってみると、世界中の投資家が恐れていた暴落はまったく見られず、終値はなんと60ドル高の上げ相場で終わったのだ。
一家の大黒柱であるご主人の会社が倒産間近と聞かされ、近所の人々や親戚が心配して固唾を飲んで見守っていたところ、帰宅した主人は家族を交えて和気藹々
(わきあいあい)と談笑し、なんとビールで乾杯をしていたようなものである。
講演会で東京に向かっていた私は、その情報に驚きブッシュ政権からの特別な救済策でも発表されたのではないかとインターネットを調べまくったが、それらしい情報はまったく見当たらず、「政府が年越しのための暫定的な救済策を検討か?」程度のニュース
しかなく、法案否決を覆すには、到底力不足の情報しか流れていなかった。
私が再三申し上げてきた管理相場もここまでくれば極まりである。今相場を崩すと都合の悪い勢力が存在し、膨大な資金を投入して株価を支えようとしていることは、もはや誰の目にも明らかである。彼らが必至に株価維持を図っている背景には2つの理由が考えられる。地球をワンワールドに持っていくのにもう少し時間稼ぎがしたいか、株価崩壊を次期オバマ政権つぶしの手段として使いたいかのいずれかと思われる。本当の目的が何であったかは、早晩、明らかになることだろう。
年金資金
そうこうしている内に今度は15日、日本の大企業製造業の景況感を示す業績判断指数が発表された。その数値はなんとマイナス24となり、9月の前回調査結果から21ポイント低下し石油危機だった1975年2月に並ぶ過去2番目の悪化幅となった。
それは、金融危機によって企業の資金繰りが悪化し、雇用や設備にも過剰感が広がっていることを示す大変危険なシグナルだけに、株式市場にとっては、足下をぐらつかせるに十分な強烈なパンチであったはずである。
ところが、その日の日経平均はなんと428円高で引けているのだ。これもまた、アメリカ同様、信じられない展開であった。公的資金が大量に投入され朝から買いまくって上げ相場を作ったことは、火を見るより明らかである。その原資は言うまでもなく年金資金である。今月に入ってからだけでも
、年金資金の買越額はすでに1兆円を軽く突破しているはずで、その規模は空前の規模になっている。
景気の悪化を国民に知らせないためには、株を買い上げるのが一番という誤った認識が政府にあるらしく、必至に株価維持を続けているようだが、こ
うした年金資金投入
は非常に危険な賭(かけ)でもある。株価の支えの大黒柱的存在の年金資金が底をついたら、後は坂道を転げ落ちて行くのは間違いないからである。その結果、もしも株価の低迷が1930年当時のように長期化したら、年金資金は枯渇し、その月ごとの支払いそのものが困難な状態に追い込まれることになる
今、半導体製造装置の受注額が前年対比で60%を割り込んできており、関連メーカーは壊滅的状況に追い込まれてきている。既に業界大手の「アドバンテスト」が赤字に転落しており、早晩「東京エレクトロン」も赤字に転落することになると思われるが、こういった会社には、我々の年金資金が大量に投入されているのだ。
したがって、経営の悪化で株価が暴落すれば大変なマイナスになるばかりか、万一経営破綻にでも追い込まれたら、膨大な年金資金が紙くずと化してしまうことになる。いずれにしろ、このままでは、ますます年金資金は激減を続けることになり、定年退職者の頼みの綱である年金支給額の2〜3割カットは、遅かれ早かれ、現実となるかも知れない。
デリバティブでカモにされた
地方自治体と大学
1ヶ月ほど前に東京の駒沢大学が手持ちの資金をデリバティブ商品で運用し150億円を上回るの損出を出したニュースが伝わった。なぜ大学当局がこんな危険な商品に手を出すのかと疑問に思われる読者も多いことかと思われるが、学校法人といえども組織の経営者であることには変わりはないのであるから、大きな運用益が出ると勧められれば、
つい手を出したくなってくることには変わりはないのである。
そうしたところに目をつけたのが、禿げたか集団の一員であったリーマン・ブラザーズやシティー銀行をはじめとするアメリカの証券会社や銀行の日本支社であった。意味の分からぬ横文字の言葉を駆使して、いかにも安全でありながら、儲けが大きい商品だと売りつけてくるわけである。
私が現職当時も、この手の商品の売り込みがあったので、その手口は手を取るように分かるのだ。時には運用担当者やその上司を香港辺りまで誘い出し、女ぐるみの接待で陥落させる手口まで使うことがあるのだからたまったものではない。
デリバティブ商品は金融市場に大きな変動が起きない限り、確かに配当は大きいのでうまみがあることは間違いない。しかし、株価や為替に大きな動きが発生したときには、それこそ底なし沼に飲み込まれたように、元本が日に日に消えていってしまうことになる。
駒沢大学の150億円の損出も未だ確定した額ではないはずだ。金融市場がこのまま悪化を続けるようなら、恐らく半年後か1年後には、更に巨大な損出が発生することになるに違いない。
それがこうした商品の恐ろしさである。
実は、この駒沢大学の損出を数倍上回る損出を出しているのが名門早稲田大学である。なんとその額は現在判明しているだけでも、すでに400億円を超しているというから大変な損失である。これもまた外資系会社の勧める同じ手口のカモになった一例である。損失額もこの後更に巨大になっていく可能性が大である。
外資系金融機関の餌食になっているのは、大学法人だけではない。地方自治体もまたその一つであるようだ。餌食の第1号となったのが岩手県である。2007年に岩手県が発行した10年満期の50億円の仕組み債は、当初の金利は1.37%であったものの、円相場が98.50円を超える円高になると、この1.37%の金利が一気に5%に跳ね上がる「仕組み」になっているのである。
つまり、円高がこれからも続き1ドル98円以上の状態が続くようなら、岩手県は自ら発行した仕組み債券を買ってもらった顧客に毎月5%もの利息を払い続けていかなければならいことになるというわけである。購入先の
会社は喜ぶが岩手県は大変である。
このように、金融工学の専門家でも完璧に理解できないような「仕組み債」を発行している地方自治体
は岩手県に留まらず、他の府県でも次々と表面化してきており、大きな損失が発生する可能性が出てきているようである。
今後の損失拡大を止めようと思えば、一時に膨大な損出を計上する必要に迫られことになるわけだが、一体誰がどのような判断をしてこのような「仕組み債
」を買ったのかが問題になってくるものと思われる。売りこんだ金融機関は今頃はしめしめと思っているはずだが、買い手は大変である。
「岩手県」の事例では最悪の場合、億単位の損失が出るかも知れず、知事の責任問題にも発展する可能性もあるようだ。