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世界的な経済危機の影響を受けて、一段と雇用状況が悪化してきている。そうした厳しい状況の中で真っ先にその犠牲となっているのが非正規社員であり、派遣社員である。新聞やテレビが伝える報道を見ると、リストラ会社の地域では、想像以上に悲惨な状況が発生しているようである。

何の事前通知もないままに突然の解雇と社員寮からの撤去を言い渡されるのであるから、本人にしてみればたまったものではない。住む家さえあれば、何とか生きつなぐことができても、雨露を凌(しの)ぐ住処がなくなってしまっては生死にかかわってくる。ましてやこの寒空の中である。

そうした人々が救いを求める先は、公的機関ということになってくるのは必然である。国や市町村もそれなりの対応はしているようであるが、到底十分な対応ができているわけではない。そこで自分たちの窮状を聞いてほしいと駆け込むもう一つの先が、自民党や民主党といった政党である。

本日の朝日新聞を読むと、そんな状況下で今最も頼りにされ、駆け込み寺的存在となりつつあるのが、共産党であるという。なぜか、派遣社員の解雇が進む地区では、「相談はどんなことでも共産党へ、相談は無料」と書かれたビラが配られ、そこには相談所の電話番号が記載されているからだという。

支援を求めて相談所を訪ねると、そこには、専従の相談員がいて相談に乗ってくれるのだそうだ。新聞の報道では、そうしたことから今まで政治に関心がなかった人や、共産党の存在を快く思っていなかった人も、訪ねることになるようで、中には、「党利党略の一端とは知りつつも、助けてくれるのはもうここしかない」と思い、入党するする人もいるようだ。

それではなぜ、「駆け込み寺」が天下の自民党やそれに取って代わろうとしている民主党でなかったのかという点であるが、離職者たちが自民党や民主党に電話して救済を求めても、「一般市民の相談には応じない」とか、仮にどこかを紹介されたにしても、訪ねてみると、土日は閉まっていて電話も通じないという現実があるからだという。

ポケットに千円札1枚や100円硬貨数枚しか入っていない困窮者にとっては、土日祭日など関係ない。このへんの気配りが欠けているようでは、国会で大義名分を唱えても、二大政党は到底駆け込み寺とはなりえないはずである。つまり、痒いとことに手が届く救済策でなければ、人は救えないということである。
 

 水木鈴子先生の話

そこで思い出したのが、私のホームページで一度ご紹介した「水木鈴子花の美術館」の水木先生の話である。先生は名のある画家も真似が出来ないほどの心のこもった素晴らしい花の絵を描かれる方であるが、一方で、ボランティア活動により苦しんでおられる人の救済にも尽力しておられる方である。

 

 
 


水木鈴子先生

 

 

現在は私の住む八ヶ岳山麓の小淵沢に美術館を設けておられるが、以前は埼玉県の入間市におられ、所沢にボランティア事務所を構えていたようである。

近隣にお住まいの方ならご記憶があるかもしれないが、先生は当時から無償で身の上相談役を引き受けられ、多くの悩んでおられる人たちの救済活動をしておられたことから、「所沢のマリア」と呼ばれていたのである。

お聞きしてみると、身の上相談も一つだけではなく、様々な組織や市民団体から頼まれて10指に余るほどの相談役を引き受けておられていたようである。なぜ、先生にそれほどの身の上相談役が集中したのかというと、先生の相談はいたって評判が良かったからであった。

何かの機会にその話が出たとき、先生は次のようなことを言われたことがあった。「身の上相談に駆け込んでこられる方の中には、必ず一人や二人は資金繰りに窮して、切羽詰まった状況に追い込まれた人がいるものなんです。中には相談所の外には奥さんや子供が待っておられて、もしこの相談で救いが得られなかったら、家族ともども覚悟を決めているような人もいるのです。」

「こうした人たちを救うのには、100の説法や人生訓話より、あたたかいご飯をお腹いっぱい食べていただくことや、わずかばかりでも貧者の一灯(当座のお金)を差し上げることが必要なのです。」

そのためには、ある程度の資金を手元に用意しておかないといざというとき役に立たない。しかし、一介の主婦が誰にも迷惑をかけずにそれを用意することは至難の業である。そこで、私が一体そのお金はどうやって調達したんですかと尋ねると、あまり多くは語らなかったが、どうやら、水木先生は労を惜しまず働かれ、色々と知恵を絞られて倹約生活をされて、そこから捻出したお金を支援金に回されたようである。

形ばかりの相談と違って、こうした自己犠牲の心構えで相談を受けられるのであるから、次々と相談役のお願いが殺到することになるのは、至極当然の成り行きである。

しかし、相談ごとに何万、何十万のお金が出て行くわけであるから、ご本人にしてみればそれは大変である。並みの人では到底続けられることではない。しかし他人の幸福をこの世の使命として自覚しておられた先生は「させて 頂いてありがたい」と、その大変な任務を土日休日一切関係なく30年余にわたって全うされて来ているのである。

その結果、自らの体力や精神力の限界まで努力され、血のにじむような思いで貯めたお金をすべて使い切った対価として、天は水木先生に希有 (けう)な能力を授けることとなったのである。相談者の心の有り様や、それに応じた適切な回答が瞬時にわかってしまう能力。ヒーリング「癒し」能力、食材や食事の味を一瞬で美味しく変化させてしまう能力・・・等々。

世に超能力や霊的能力といわれる力を持たれる方は多い。しかし、こうした「徳」によって天から授けられた力こそ本物であり、長続きするものなのである。水木先生に接していると、そう言ったことが実感でき てくる。東京大学の海野和三郎名誉教授(天文学)をして、水木先生を「日本のシュタイナー」「地球の超知的財産」と言わしめたのも、それゆえであ ろう。

水木先生がやって来られたことが、「お母さんの愛」と先生が呼ぶ真実の愛に支えられていることは、当時から20年近く経過した今、先生のもとに救われた人々から送られてくる郵便物を見れば一目瞭然である。
 

 

 
 



「すすき」 (水木鈴子・詩画集 「幸福あげます」より)

 

 

以前、たまたま一通の手紙を拝見させて頂いたことがあった。そこには、幼子を抱えたある女性が子供ともども電車に身を投じようと決意したとき、ふと目にとまった水木先生の「詩の朗読会」に吸い寄せられ て参加し、先生から 頂いた心温まる励ましと帰り際にそっと渡された支援金によって、自殺を思いとどまった経緯が記されていた。

あれから十数年、おかげさまで今では当時幼かった子供も成人し、家族が元気に生活させてもらっております。長い間、何のお礼もできませんでしたが、ようやく少しばかりのご恩返しをさせて頂くことができる状況になりましたと、心からの感謝の気持ちと「私同様、困ったり苦しんで泣いている人たちのためにお使い下さい」と、いくばくかのお金が添えられていた。

今この記事を書きながら、市役所から渡された十数万円の支援金を手にした方が、働き口が決まったら、いつかは自分も困った人の助けになりたいと語っていた一言を思い出した。

花の美術館を訪れると、そんなお手紙のほか、教育、行政、医学、経済、芸術やスポーツに至るまで様々な分野で活躍、もしくは指導される方々が水木先生のお志を学び、教えを請うために全国から美術館に来館されるのを目にする。そのたびに、長年先生のやってこられたことの素晴らしさを実感することになる。

水木鈴子先生のこうした行為を思い出すにつけ、困窮しておられる人を救うには、決して言葉だけでは駄目だということがはっきりしてくる。当面の困窮をしのぐための心のこもった支援金や住処は絶対に必要なのである。

麻生内閣が今実行しようとしている2兆円のバラマキは是非とも考え直してほしいものである。年収が何百万の人に1万円や2万円の資金を渡してそれがどれほど喜ばれるというのか。ましてや1000万、2000万の年収がある人になにゆえ支援をする必要があるというのか。こんな心のこもらないバラマキのお金が景気刺激策につながるはずがないではないか。

もしも、この2兆円を離職者や住まいを失った困窮者の救済に回したらどれほど喜ばれ、役立つことだろうか。何名の大臣がその金を受け取るつもりだとか、受け取らないとか、そんなことはどうでもいいことである。そんな記事を読むと憤りを通り越して、情けなくなってくる。

受け取るなら受け取るで結構、「私はそのお金に10万円足して慈善団体に寄付します」ぐらいのことを言える先生はいないのだろうか。残念ながら、国会の先生方 の中には、国民を幸福に導くための「徳」が決定的に欠落している方が多いようだ。

この土日祭日の3連休で役所が閉鎖されている間に、どれほどの人が200円のコーヒー喫茶や路上で辛い一夜を送っているのかと思うと胸が痛む。ユニセフであろうが、いかなる慈善団体であろうが、公的機関が後援する救済の窓口が設立され 、寄付金を振り込む口座が開設されたら、必ずや多くの善意ある人々の支援が届くと思われるだけに、お役所や専門の窓口の人間には1日も早く、重い腰をあげてほしいものである。

私もこれまで講演会や著作活動で得た資金は、ペルーの学校建設に優先的に回してきたが、これからしばらくは離職者の支援を優先させてもらおうと考えている。
 

 

 
 



「菜の花」(水木鈴子・詩画集 「幸福あげます」より)

 

 

 

 

 

 

 

 

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