以下のレポートは、拙著『祈りの島「沖縄・久高島」』からの抜粋である。
東海地震と浜岡原発
「東海地震」が遠からず発生する危険については、多くの人が認識しているところである。しかし、その震源地のすぐ近くに浜岡原発という大変危険な原子力発電所が存在し、それは震度
いかんによっては、メルトダウンと呼ばれる原子炉の爆発事故
が誘発され、その周辺エリアに甚大な被害を与えることまで十分に認識している人は意外と少ないのではないだろうか。
実は、他ならぬ私自身もお恥ずかしい話であるが、『祈りの島「沖縄・久高島」』を出版するにあたって、東海地震に関する原発震災の情報を確認するために、古長谷稔(こながやみのる)氏の『放射能で首都圏消滅』(三五館)を読むまで、その実体を知らなかったのである。
東海地震はいつ、どれだけの確率で起きるのか?
政府の地震調査委員会は、東海地震は30年の内に87%の確率で起き、その震度はマグニチュード(以下M)8.0であると発表している。
この発表を見て、なんだ30年先のことかと考えたら大間違いで、確率的には30年先も3年先も変わらないからである。というのは、地震調査委員会が発表している数値の基礎となっているのは、過去500年間に東海、東南海、南海地方で発生した地震の周期と規模で
あるが
、それによると、地震の発生はいつ来てもおかしくない時期に来ているからである。
★ 調査委員会の発表はすでに10年近く前のことであるから、確率は一段と増していると考えるべきである。
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図1 東海地震・東南海地震・南海地震想定震源域
(挿入図は全て『放射能で首都圏消滅』より) |
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図2 90年〜150年周期で起きる
駿河・南海トラフの巨大地震
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歴史に残された記録をたどると、静岡県から高知県に至る太平洋沿岸一帯では、東海、東南海、南海を震源域とする巨大地震が一つの周期をもって、ほぼ同時期に発生してきていることがわかる。
(図2を拡大して参照されたい)
500年ほど前、1498年9月に起きた「明応地震」(M8.2〜8.4/東海、東南海)から始まって、1605年2月の慶長地震(M7.9/東南海、南海)、1707年10月の宝永地震(M8.4/東海、東南海、南海)、1854年12月の安政東海地震(M8.4東海、東南海)と安政南海地震(M8.4/南海)、1944年12月の東南海地震(M7.9/東南海)と1946年12月の南海地震(M8.0/南海)と、M8級の巨大地震が周期的に発生している。
これらの地震の周期を見てみると、明応地震から慶長地震、そして慶長地震から宝永地震までの間隔は約100年、また、宝永地震から安政東海(南海)地震までが約150年、
さらには、安政東海地震から東南海地震までが90年間となっている。
つまり、東海、東南海、南海を震源域とするM8以上の巨大地震がほぼ時を同じくして、90年から最大150年の周期で発生していることになる。そして、南海と東南海を震源域とする地震は1944年と1946年の地震から60年しか経過していないが、東海地震の震源域は、1854年の安政東海地震以来150年間にわたって地震のない空白期間が続いている
のである。
ということは、東海地震は2004年(1854年+150年)以降はいつ起きてもおかしくない状況下に置かれており、その確率は、過去のデーターから見る限りほぼ100%といわざるを得ないほどの高い数値
であることがわかる。どうやら、地震調査委員会の算出した30年、87%という数値は、パニックを起こさぬように配慮した数値
として受け止めておく方がよさそうである。
予想される東海地震の規模とその被害額は?
過去のデーターを見ればわかるように、もし、東海地震が発生したとしたら、その規模はM8を超す巨大なものとなることは間違いなさそうである。事実、政府が想定している東海地震の地震規模はM8
で、東南海、南海地震と同時に発生した場合は、M8.7という恐ろしい数字になっている。
見てきたように、過去の歴史から3つの地震がほぼ同時に発生してきていることを考えると、南海、東南海地震が東海地震に触発され、時を同じくして起きる可能性は決して小さくない。
この場合、想定される地震規模を考えると、沿岸部の被害は阪神・神戸地震を遙に上回る巨大なものとなることが予想される。
政府の発表している控えめな数値でも、死者数は東海地震単独で9200人(被害総額37兆円)、同時発生の場合は2万4700人(81兆円)となっていることを考えると、もしも、震源地が名古屋や静岡、高知といった大都市に近かった場合は、死者の数と被害総額
がこんな程度ですむとはとうてい考えられない。
ビルが乱立する都市部では、ビルの崩壊が相次ぎ、高速道路走行中の車両の転落や新幹線の脱線による事故が発生する一方、漁港が並ぶ沿岸部ではスマトラ沖地震並の大津波がおし寄せ、山間部では各地で新潟県中越地震のような崖崩れが多発すること
可能性は十分にある。
それよりもはるかに心配なのが、そのエリアに問題の浜岡原発が存在し、震源地と規模によっては、「原発震災
」に発展する可能性があることである。
東海地震が「原発震災」となる可能性
東海地震を原発震災に結びつけたくなる最大の根拠は、浜岡原発が活断層のほぼ真上に建っていることである。実は、現在、世界中で430機を越える数の原発が稼働しているが、プレート境界地震の震源地と政府が認めている場所で運転している原発は、唯一浜岡原発だけである。
そもそも欧米の原発大国では、地震のないところを選んで建てており、活断層の上に原発を建てるなどと言う発想は、欧米の人々にとっては論外の話なのである。だからこそ、ヨーロッパ唯一の地震国であるイタリアでは、地震による原発事故を恐れ、1987年に国民投票によって、「原発NO!」の結論が出され
ているのである。
では、なぜ我が国では、4つもの断層が集中している「地震の巣」の上に原発を建てるなどと言う馬鹿げたことをしてしまったのだろうか? 原子力発電に携(たづさ)わって
きた政府関係者や原子力学者、それに電力会社の安全に対する認識の欠如と、周辺住民や国民全体の原発に対する無知と無関心さ故(ゆえ)
といわざるを得ないようだ。
東海地震や関東地震の危険度がいかに大きいかは、世界の保険のプロの予測数値を見ればよくわかる。ドイツにあるミューヘン再保険会社が算出している東京・横浜など首都圏エリアのリスク指標の高さは、アメリカのロサンゼルスを100とすると、710ポイントと
比較にならないほど高くなっているのだ。
アメリカの中ではとりわけ地震の多いロスに比べて保険料率が7倍も高いのは、いかに保険のプロたちが東海地震や関東地震の発生確率を高く考えているかを示している。因みに、ロンドンやパリ、モスクワのリスク指標は11〜30ポイント
しかないのである。
さらに恐ろしいのは、浜岡原発はそれほど発生の確率が高い震源域にあるだけでなく、
浜岡地区の地盤が非常に弱いことである。古長谷氏は、浜岡原発の敷地から100メートルの地点で採取した原発の基礎と同じ地層の岩盤が、女性の手で強く握ると手の中でもろくも砕けて、ボロボロになってしまったと述べている。
実に恐ろしい話である。
中部電力が「堅い岩盤」と主張するこの岩盤は、岩石の専門家にお聞きすると、分類上は一応、岩盤に属するものの、岩と土との中間といっても良いほど軟弱な岩盤
・「軟岩」に分類されるのだから、もろくて当然である。
しかしながら、浜岡の地盤がもともとグザグザであったことは、現地で長年暮らす人なら、誰でもが知っている事実のようである。この地の地盤が、長大な年月に渡って、何十回も、何百回も東海地震
を直下から受け、ひび割れを続けてきたことを考えると、さもありなんと思えてくる。
それなのに、そこに原子力発電所が建造され、今もなお2機が稼働しているのだ!
次回に続く