盛者必衰の理

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覇者の奢り

製造業の象徴というより、アメリカという一大覇権国家の象徴でもあった自動車業界トップのゼネラル・モーターズ(GM)が、 操業以来、101年目にしてとうとう店じまいをすることになった。

これで3大自動車メーカーの2社が破綻したわけであるが、フォード社も260億ドル(2兆5000億円)の負債を抱えており、資金繰りが大変な状況に変わりはない。新車販売の状況次第では、来年の今頃は、同様なニュースが流れることになるかもしれない。

90年代はじめから世界の自動車業界に君臨し続けたGMも、「盛者必衰の理(ことわり)を顕(あら)はす」通り、 フォード社を抜いて業界トップに立ってから、わずか80年間の栄華を誇っただけで、「夢まぼろしの如く」幕を下ろすこととなったのだ。

そこには、天下人が陥る奢(おご)りがあったからである。70年代の石油ショック時にガソリンをがぶ飲みする大型車が嫌われ、業績が悪化したにもかかわらず、その後の落ち着いた石油価格と拡大するアメリカ経済をよいことに、燃費向上のためのエンジン開発やハイブリッドカー車などのエコカーへの研究開発をおろそかにし てきてしまった。

その間GMがしたことは、大型ピックアップトラックを収益の柱とした「もうけ」優先の販売体制であった。この姿勢はGMに限らず、三大自動車メーカー全てに共通していることであるが、「モノを作ることから利益をあげるとばかり」を追求して来てしまったというわけである。

自動車メーカであろうが電機製品メーカーであろうが、顧客がそれを求めなくなったらそれまでである。社名やブランドで生き長らえるのはしばらくの間。だから、顧客が何を求めているか、世の中が何を要求しているか、それを忘れてしまっては全ての商売は成り立たないのである。

そんな子供でも知っているような基本的なことを、世界を代表するような大企業が忘れてしまっていたのである。その元凶となっているのが、もうけ至上主義という「 魔物」の存在である。この魔物が大好きなのが、人間の心に住む「貪欲さ」、「奢(おご)り」、「傲慢(ごうまん)」という甘い蜜である。

 

 

 
 


ミシガン州・デトロイトにあるGM社の本社ビル このビルも転売の対象となるのだろうか?

 

 

再建は可能か?

これから先、アメリカ政府は追加で300億ドル(3兆円)という巨大な融資を実施し、新会社の株式60%を取得する計画だが、先行きは不透明である。

3月31日時点で連結資産は822億9000万ドル、負債は1728億1000万ドル。つまり、1000億ドル(10兆円)近いマイナスの資産を抱えている状況を考えると、政府の300億ドル(3兆円)の追加融資で本当に再建されるかどうかは疑問である。

オバマ米大統領は、労働者と債権者の妥協により、存続・遂行可能なリストラ計画ができあがったとし、成功の機会はあると指摘。「うまく管理されれば、新生GMは(破産法の保護下から)脱却し、世界の自動車メーカーを追い抜き、再び将来の米経済にとってなくてはならない存在になり得ると強く確信している」と語っている。

大統領だけでなく、今回の破産手続きによって、債務の大幅な削減や従業員に対する給料や厚生面での低コスト化が計られるはずであるから、筋肉質の世界最強企業に生まれ変わることが可能だと考えている人も多いようだ。

しかし、最盛期でも数十億ドルの利益しか上げられなかった企業が、会社の規模を小さくしていく中で、アメリカとカナダ政府の融資分600億ドル (5兆700億円)もの借金を返済するのは容易なことではないはずだ。

ましてやこれからは、スリム化だけではやっていけない時代。顧客や世の中の要請に添った車作りをするためには、多額の研究開発費の投入が必要である。 厳しい財政難の中で十分な資金の手当てが出来るのだろうか。アメリカ政府はさらなる融資を求められることになりはしないだろうか。

しばらくの間、市場ではクライスラー同様、楽観論が支配することになることと思われるが、現実を直視する必要がある。アメリカの経済状況が1、2年の内に復活し、かっての活況を呈するようになるというならば別だが、もしも、私が考えているように、これからが経済崩壊の本番だとすると、再建は容易なことではないはずだ。

それは即オバマ政権の崩壊にも結びつきかねないだけに、今回の国有化は大統領にとっても、大きな賭けといえよう。それよりも問題は、今回の破綻劇によって生じたGM社の「カルマ」である。カルマは人間だけが背負うものではない。企業でも国家でも皆それぞれ「カルマ」と「徳」は身にまとうものである。

債権者に強要した債権免除という負の遺産、ディーラーや取引先を倒産や企業縮小に追い込んだ負の遺産、世界中で部品メーカーや下請け会社まで入れると50万人に及ぶ といわれる、従業員に対する大幅な賃金カットや首切りという負の遺産 ・・・・・ そうした、会社や人間に与えた悲しみや苦しみというカルマは、再建計画をどう立てようがそう簡単に消えるものではない。

国民に負担を仰がねばならない状況下で、議会での証人喚問に召集される際、自家用ジェット機でワシントン入りするという奢(おご)りや、何十億円といわれる年収をなんとも思わない傲慢 (ごうまん)さは、役員の個人のカルマだけでなく、会社としてのカルマともなるのだ。

 

 

 
 


撮影の角度を変えると、威容を誇った本社ビルもこんな姿に変身してしまう

 

 

 

アメリカ国家の破綻

20世紀は「車の世紀」であり、「アメリカの世紀」であった。私はアメリカの象徴であったGMという会社の今回の倒産劇は、アメリカ国家そのものの崩壊を予兆する現象ではないかと考えている。

アメリカの自動車産業が、人類の自由な移動を可能にした「徳」積みの反面、交通事故を発生させ、二酸化炭素排出など環境へ負担を与えるという「原罪」を抱えて来たように、アメリカという国家もまた、世界の一部の人々に自由と繁栄を もたらした「徳」積みの一方で、その数百倍、数千倍の人々に、戦争という大きな悲しみと苦しみを与える「原罪」を抱えて来てしまったことは、まぎれもない事実である。

これまでの私が著書の中でも述べてきたように、古くは第二次世界大戦から始まって、朝鮮戦争、ベトナム戦争、ウクライナの内戦、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争 ・・・・・・ 世界中で起きた戦争や内戦のほとんど全てにおいて、その主役はアメリカ国家、アメリカ軍であった。

そうした戦争や内戦介入の実体が、「自由を世界に」のスローガンとは裏腹に、おのれの主義主張を一方的に世界に広げ、軍産複合体の膨大な利益を あげるために目論んだものであることは、歴史が証明している。

それによって、塗炭(とたん)の苦しみ悲しみを味わった人の数は計り知れない。おそらく数千万人に達しているはずだ。現在のイラクやアフガン、パキスタンの惨状を見れば、その罪とカルマの大きさが分かろうというものである。

こうした負のカルマは必ず精算されるものである。それは宇宙の大原則であるからである。3次元的世界の寿命が短くなってきている今日、その日の 到来はそう遠くないはずだ。アメリカ国家の崩壊は、おそらく経済危機から発生する国内の動乱によって、始まるのではないかと思われる。

今アメリカの各地で、秘密裏に何万、何十万の人間を収容出来る施設が続々と作られていることが、何を意味しているのかを考えたら、私の想像が決して的(まと)はずれでないことが分かるはずだ。カリフォルニア州 の動向には注意が必要である。

 

異常な株価高騰

私がHPで取り上げてきたシティー・バンクとGMが奇しくも時を同じくして、ダウ平均株価の構成銘柄から除外されることとなった。

そんなニューヨーク株式市場だが、GMの破綻が決定したその日、なんと220ドルの上昇相場で終えている。市場関係者の話を聞くと、「アメリカ経済への悪材料の出尽くし感」のためだという。日本や中国、ヨーロッパの株価まで一斉に高騰している。

まともな神経の持ち主なら、最近の相場は誰でもがおかしいと思うはずだ。しかしそんな声は消し飛んでしまって、巷(ちまた)では、世界経済の底打ち論までが聞こえ始めて来ている。日経平均は10000円台へ、ダウは9000ドル台へ、香港株は20000円台へ急上昇を展開している。

週休が3日とか4日の中小企業が続出し、大幅な賃金カットが行われているというのに、何が景気の底打ちだと憤慨しておられる人の目からすると、ここ3ヵ月間の株価上昇はなんとも理解できない現象であるはずだ。

理由は次のようなものである。

@ 大幅な下げ相場による売り一服感と、空売りの買い戻し

A 経済対策という名の膨大な資金のばらまき

B 年金資金などの大量の公的資金の投入による株価買い支え

C 「50兆円の株式買い上げ予算計上」という与謝野大臣の口先三寸発言

D 政府や証券会社のお抱え経済評論家の楽観論発言

E 日経指数銘柄への集中買い

現在行われているのは主に、Eの公的資金による日経紙数銘柄への集中買いである。同じ事がニューヨーク市場でも行われている、

一定時間内、とくに市場閉鎖直前の20〜30分間の理由なき高騰は皆これだと思って頂いて間違いない。日経平均をかさ上げするのは、銘柄を絞って公的資金を投入 さえすれば、そんなにむずかしいことではないのだ。

こうした@からEまでの一連の上げ相場の演出劇が相乗効果を発揮して、わずか3ヶ月足らずで、日経平均を6000円台から10、000円台へと押し上げてきているわけである。 しかし、いつまでもこんなインチキ相場が続くはずがない。

時期が延ばされれば延ばされるほど、その反動は大きくなるだけだ。秋の日のつるべ落とし。やがて素人株主が恐る恐る市場に復帰し始めた時が天井となって、最後の暴落が始まるのだ。煮え湯を飲まされるのは、またも一般顧客である。 ご用心あれ!!

 

 

 

 

 

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