ECB(欧州中央銀行)はギリシャの国債の大幅削減により資金繰りが悪化した欧州の金融機関を支えるために、昨年12月に続いて2回目となる低金利の金融支援を行うことになった。その資金はなんと5292億ユーロ(約58兆円)という膨大な金額である。
金利1%、期間3年のこの融資は、資金繰りに窮している欧州の銀行にとっては正に恵みの雨である。ECBがこれだけの巨額の資金供給をしたのには訳がある。大量に保有していたギリシャ国債の60%を越す大幅削減により、欧州の金融機関は自己資金不足に陥り、金融機関同士が疑心暗鬼となって、貸し借りが行われない状況が続いていた。こうした金融システムを安定化させ
、活性化させようという狙いである。
さらなる狙いは中小企業への融資を増やして景気を回復させ、問題となっているイタリアやスペイン、ポルトガルといった国々の国債をも併せて購入してもらうことである。しかし、ECBが思うように事が運ぶかどうか定かでない。
今回、金融機関が自己資金不足に陥った元凶がギリシャ国債の大量保有であったことを考えると、第2のギリシャとなる可能性を秘めた、財政問題国の国債を再び購入することに銀行が二の足を踏む可能性が大きいからである。
そうなると、60兆円近い巨額な資金はどこに向かうことになるのか? 銀行内部に保留されるか、投機マネー市場に向かうかどちらかである。そし
問題は、後者となった場合にはインフレを発生する危険性をはらんでいるという点である。
既に、先のリーマンショック後の景気浮揚のため、世界各国は史上空前の大量資金を市場に供給してきている。日銀がインフレ目標率を1%という具体的な数値を掲げ、だぶついた市場にさらに10兆円もの資金を供給したのは、つい先日のことである。2%インフレ率を目指す米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)は
、既に2回の金融緩和策を発動し、さらに第3弾を実行しようとしている。
こうした金融緩和策で溢れた膨大な資金の一部は投機マネーと化して株式市場へと流れ込み、ダウ平均を13、000ドル台へと押し上げ、さらに史上最高値を伺う勢いを見せている。事実上3000万人を越す失業者を抱え、ブーメラン現象と呼ばれる若者の失業状態
が今なお続く米国の現状を考えると、信じ難い株価である。
そうした状況下で、ECBがばらまいた58兆円のマネーの一部が更に市場に流れ込むと、どのような事態が起きるか考えると恐ろしくなってくる。インフレ、それも度を超したハイパーインフ
レの発生を招く可能性が大きいからである。既に市場にだぶついているマネーは100兆ドル(1京円、1000兆円の10倍)とも言われている。
そこに来て、今、インフレの危険性を大きくしている不安の種は原油の高騰である。背景にはイラン問題があるが、それに拍車をかけているのは市場に溢れた投機マネーである。米国では、既に1日のうちに何回もガソリン価格を書き換える状況が起きており、1ガロン4ドル
、5ドルを超えた地域も出てきているようで、一旦上向きだした景気に水をさしかねない状況になっている。
進み過ぎたデフレを抑えるために、米国は2%、日本は1%のインフレ率を目標に掲げて動き出しているわけであるが、有り余った100兆ドルのマネーがいったん暴走し始めたら、こんな目標はあっと言う間に通り越して、抑え難いハイパーインフレを引き起こ
しかねない。
場合によっては、景気が低迷したまま物価が上昇するスタグフレーションという最悪の事態を招く可能性もある。
欧州の債務危機については、今回の巨額資金支給やESB(欧州安定メカニズム)の上限資金の積み増しなどによって、一先ず沈静化することになりそうであるが、安定化政策の裏に
、こうした恐ろしい危険が含まれていることを、読者には、忘れないでおいて欲しいものである。