政府は関西電力大飯(おおい)原発の再稼働に向かって動いている。夏の電力不足を避けるためと称しているが、電力会社の中には電力が余っている会社が
あるのだから送電線の容量を上げ電力を融通し合ったら、再稼働など必要ないのではないか。
電力会社はこれまで口をそろえて、「原発を再稼働しないと停電の恐れがある」「電力の融通には送電線の容量に問題がある」と主張してきている。送電線の容量については物理的容量があることは確かだが、発表されている容量は実際に運用出来る容量より遙かに低く
抑えられているのだ。
それが露呈したのが、2月3日のことであった。この日、九州最大の新大分火力発電所が全面停止に追い込まれた。寒さで配管を凍結させるという初歩的なミスが発生し、燃料の液化天然ガス(LNG)が送れなくなったのだ。おりしも、九州北部は猛烈な寒波で電力需要は急増中
で九州電力館内では前日の午後6時に冬の最高記録を更新したばかり。しかも、昨年12月26日から原発6基が全て停止中だった。
「原発ゼロ」、「需要急増」、「発電所のトラブル」。
こうした今年の夏の電力危機を先取りするような絶体絶命のピンチを救ったのは、全国から電力をもらう緊急融通システムの発動であった。実は、関門トンネルに設置されている送電線の運用容量は30万キロワットに制限されてい
る。しかし、この日リスクを冒して流れた容量は141万キロワット。つまり、発表されていた運用容量の実に5倍近い容量であったのだ。
発表されている運用容量30万キロワットに対し、物理的容量は556万キロワットもあるのだから、その数値は驚くに当たらないもので
、当然、何のトラブルも発生しなかった。九電のこの一件を見ただけでも、電力会社が公表している送電容量にいかに誤魔化しがあるかが分かろうというものである。
一方、野田首相や関係閣僚がおおむね安全と見なしている関電の提出した安全対策は、決して安全と言える代物ではない。
安全対策の内、2012年度に出来るものは、発電所の常駐要員を10人増やして54人にする事ぐらいで、肝心な防波堤のかさ上げや外部電源として使う送電線の多重化は
13年度中の計画。専用の家屋内の非常用発電機の設置や免震事務等の設置、事故時に放射性物質の飛散を減らすフィルター付きの排気装置の設置等は
15年度を予定しており、まだ3年も先のことである。こんなことで再稼働し、今年、来年の内に何かあったらどうするというのか。
こうしたずさんな内容の書類を受け取り、その後、政府がしたことは安全基準をわずか3日間で作製することであった。正に「付け焼き刃」的なごまかしの上塗りである。さらにそんなずさんな安全対策、安全基準に基づいて為されようとしているのが、
「政治判断」という訳の分からぬ決定である。
今夏の関西電力管内での電力不足は最大で19・6%が見込まれているが、送電量のごまかしと発電力のごまかし分が併せて20%を超している可能性が大である
ことを考えれば、法人、個人の節電協力さえあれば、電力不足は十分にクリアーできるのではないだろうか。
兎にも角にも、原発の再稼働は一基が始まれば、皆後に続けとなることは明白だけに、安易な再稼働はなんとしても避け
てもらわねばならない。大変だとは思うが、もしも、原発0基でこの夏を乗り切ることが出来たら、世界へ大きな「非原発のメッセージ」を発することになる。それこそが、東日本大震災で亡くなられた多くの御霊(みたま)への何よりの供養になるのではないだろうか。