ワシントンで開かれていた20ヶ国財務相・中央銀行総裁会議で、IMF(国際通貨基金)の融資枠を4300億ドル(約35兆円)増強することが決まった。これで、欧州債務危機の封じ込めへ向かってさらなる安全網が用意されたことになる。
しかし、問題がないわけではない。安全網のもう一つの基盤となる欧州金融安定化基金と欧州安定メカニズムは当初目指した1兆ユーロ(106兆円)に届かず8000億ユーロに留まったのと同様に、今回のIMF基金も目標の5000億ドル(4030億円)に届かなかったからである。
従って、欧州危機がギリシャからスペイン、イタリアへと広がったとき十分な対応が出来るかというと、両国の債務額は小国ギリシャとは一桁違うだけに、決して楽観視できるものでないことは確かである。
さらに問題なのは、IMFへの資金の拠出は段階的に進められるため、合意した金額を明日からすぐに使えるわけではないという点である。それは、先に合意を見た欧州金融安定化基金と欧州安定メカニズムにおいても同様である。
合意が出来ただけで資金はまだ集まっているわけではないのである
それだけに、5月6日に行われるフランス大統領の決選投票とギリシャ議会選挙しだいでは、欧州問題が再び火を噴き安全網がさっそく試されることになるだけに、時間的に間に合うかどうかが問題である。
もしもフランスで、サルコジ大統領からオランド氏に政権交代が起きた際には、これまでEU(欧州連合)を牽引してきたドイツとフランスとの連携がうまくいかなくなる可能性
があり、欧州支援策の拡充や金融緩和策に慎重なドイツの動向次第では、今後、欧州安全網にヒビが入る危険が出てくる。
また、ギリシャの議会選挙で与党の連立政権が崩壊するような事態になった時には、パパディモス政権が進める財政再建は暗礁に乗り上げる可能性が強く、再びギリシャ発の債務問題が発生する懸念が大きいだけに、こちらも目が離せないところである。21日、オランダの連立政権が財政赤字削減策について合意できず、総選挙に追い込まれる
事態に立ち至ったことは、各国が進めようとしている緊縮財政策の実行がいかに多難であるかを示している。
今回のIMFの基金増資において一番の問題点は、資金調達が十分でなかったことより、これまでの最大拠出国である米国がまったく出資する意向を見せなかった点である。欧州の危機は欧州の基金で対応すべきだというのが米国の基金拠出拒否の理由であるが、私はそれ以上に、米国の財政そのものが想像以上の危機にあることが真の理由ではないかと懸念している。
イギリスの歴史家ポール・ケネディ氏は数日前の読売新聞の「地球を読む」欄で、米国の連邦債務について、「恐るべき現状」という表現を使ってその凄さに言及している。つまり、ケネディ氏は米国の財政赤字は、既に返済が不可能なまでの恐るべき巨額に達していることを暗に語っているのだ。我々は財政危機は決して欧州だけの問題でないことを肝に銘じておく必要がありそうだ。
皮肉なことに、米国と並ぶ借金大国日本は、今回のIMF増資に600億ドル(約5兆円)を拠出している。円高回避が狙いとは言え、少々暢気(のんき)でお人好過ぎはしないだろうか。