薄熙来(はくきらい)氏が政権を担っていた四川省の重慶市はそのトップの失脚以来、今や中国情勢の台風の目となって来ているようである。同氏が在任中、推進してきた政策への不満が今、爆発し、各地で暴動が相次いでいるためである。
6月6日、数千人に上る抗議デモが発生し、当局は数百人の警官を出動させデモを鎮圧。警官隊との衝突の中で、住民らは次々と殴り倒され、妊婦を含む5人のデモ参加者が死亡。胎児も後ほど死亡が確認されたという。
また、同じ四川省の巴中市では8日、警察官による暴力事件が発端で、市民1万人と1000人規模の警官隊と公安との間に衝突事件が起きている。横暴な取り締まりに市民の怒りが爆発、パトカーや警察官・公安の部隊に向け、石やペットボトルを投げるなど衝突は深夜1時まで続き、多数の負傷者が出たようである。
こうしたデモや抗議活動の発生は四川省に限ったことではなく、新疆ウイグル自治区やチベットなど中国全土で発生しており、昨年1年間でその数は25,000件を超している。いくら広い国土と7億の国民が住む中国といえども、毎日数十件は異常である。
(ウォールストリートジャーナルは毎年起きている集団抗議運動の件数はおよそ18万件に達していると報じている)
デモ発生の主な要因は地方政府をコントロールしている共産党員の汚職や警察当局の横暴な取り締まりであるが、さらにそれに追い打ちをかけているのが、深刻な環境汚染、食品の安全問題、道徳の低下による社会環境の悪化である。
川を朱色に染めた避妊薬の投機、金環日食時のピンク色に染まった空の写真、濃霧に包まれ大気が黄色く淀んだ武漢市の写真を見れば、環境汚染がいかに
悪化しているかが分かる。11日に発生した武鑑市の濃霧(上の写真)について、当局は「わらを燃やしたときに発生した煙が原因」と説明しているようだが市民は懐疑的で、実際は市北東部にある化学工場が爆発したのではないか、とのうわさが立っている。
同市環境保護部門の観測によると、同日の大気から国家基準値6倍のPM2.5(粒径2.5マイクロメートル以下の微小粒子状物質)を観測されたというから、「わらの煙」原因説は笑い話のようである。フランス領事館は現地のフランス人に対して、窓を閉め、室内にとどまり、空調をできるだけ使用しないよう呼びかけている。
先日話題になった廃棄油の再使用は食品の安全がいかになおざりにされているかを示しており、ひき逃げの子女を見て見ぬふりをして通り過ぎる通行人の姿は道徳の低下を物語っている。こうして見てみると今や中国は政治、経済、社会環境の悪化、人心面、どの面から見ても
国民の不満と不安がデモや暴動を引き起こし、共産党政権の崩壊へと進む可能性が一段と高くなっていることが分かる。
その時期を読み取る手がかりは、デモや暴動の頻度とその規模の拡大化である。と同時に、国を支配する権力者や富裕層が海外にその富を移したり、移住を始めているかどうかを
しっかり見ておくことである。共産党政権の崩壊、亡国の兆候は彼らが一番敏感に感じ
ているはずであるからだ。
そんな中、香港メディアやフィナンシャル・タイムズ紙が共産党の中央委員会メンバーの90%は、国外に移住する直系親族を持っており、財産が1千万元(約1億3千万円)以上の富裕層の60%が
既に海外に資産を移転し、移住していることを伝えている。
また香港政論誌「動向」は米国政府の統計データーとして、中国の省クラス以上の幹部(引退した
者をも含む)の子弟の75%が米国永住権を取得または帰化しており、その孫の世代ではそれが91%に達したことを報じていると伝えている。
さらに中国中央銀行は2011年にその公式サイトで、ここ10年間、1200億ドル(1兆円)の資金が国外に流出したことを公表している。中央銀行がここまで発表するからには、実際の流出額は一桁違いの数字になっているのではないだろうか。
最近の重慶市元トップの薄熙来氏の失脚事件の様子を見ていると、政権内部も胡錦涛現主席派と前主席派との熾烈な争いが表面化してきているようなので、デモや暴動の拡大、ユーロ危機に端を発する経済の混乱が政権内部のごたごたが火をつけ、共産党政権の崩壊へと進む可能性は次第に増してきているようである。