巨額な財政赤字をによるデフォルト(国家の財政破綻)を避けようと予算の緊縮に取り組んでいる欧州各国であるが、財政支出の対象が美術館や文化財保護費にも及び、貴重な歴史的な文化財遺産が危機に瀕し始めて来ている。その代表的な事例が観光国ギリシャのアテネ神殿や文化国家イタリアのポンペイ遺跡である。
各国とも国防費を大幅削減したら文化関係予算など削減せずに済むのだが、軍事費の拡大で甘い汁を吸い続けて来ている軍産複合体や政治家にとって、それは出来る相談ではないという
ことらしい。なんとも情けない話である。
財政赤字の削減には支出を減らす緊縮財政と収入を増やす増税策がある。この増税は各国政府が何より取り組みたい政策であるが、その中でも最も触手が動くのが付加価値税(消費税)である。幅広い物やサービスに広く課税出来る上に、力を持った法人からの
反発が少なくて済むからである。
欧州各国の引き上げを見込んだ付加価値税の実体は上段に示した通りである。どこの国も昨年あたりから今年に掛けて2%近く引き上げて20%前後となってきている。その中でイギリスは昨年1月に17.5%から20%に引き上げたばかりであるが、今度は付加価値税の対象を拡大しようとしている。
イギリスに限らず欧州各国の消費税率は20%前後と高いが、所得の低い人への配慮から生活必需品や食品・食料品などへの税率を低く抑えたり、無税にしてきている。対GDP比8%と過去最悪
の財政危機に陥っている英国は、これ以上税率を上げることは出来ないことから、今度は課税の品物を拡大する手段に出ることにしたというわけである。
英国では、これまで外食やアルコール以外の「食料品」「子供服」などが非課税となっているが、今回の対象の見直しによって伝統的な食品である「パイ」が温かくして売られた際には課税対象となり、従来の0%から一気に20%課税されることになったというのだ。
この処置が今イギリスで思わぬ波紋を巻き起こし、付加価値税の拡大反対運動へと進んでいるようである。というのは、パイの課税の対象になる温かさ
の基準が、外気温との比較におかれているため、外気の低い冬場には少しでも暖めればすべて課税対象になる反面、夏場には30度近くにならないと非課税となってくる。
こうした基準の曖昧さが消費者から批判され、さらには法人税の減税が同時に打ち出されたことが大企業や富裕層に甘いという批判と相まって、物議をかもし始めているというわけである。政治家や官僚という人達がいかに日常生活からかけ離れた存在であるかを示している典型例である。
それにしても、他国から見ればお笑い話のような話であるが、
ここまでしないとイギリスは財政が立ちゆかなくなってきているということの証でもある。しかしそれは、対GDP比が20%に達しようとしている我が国や3000兆円を超す借金大国の米国にとって、とうてい笑って済まされる話ではないはずだ。
欧州各国の財政再建はいよいよこれから本番を迎えることになるが、
一歩間違えればそれは世界的な負の連鎖を呼び起こし、世界各国同時経済破綻へと突き進むことになる。そしてその時期は月を追うごとに刻々と近づいているのだ。