北極圏の温暖化は北極海の氷の融解をもたらすだけでなく、人類やその地域に住む動物たちに新たな脅威をもたらそうとしている。
それはオゾンホールの発生である。南極ではすでに大きなオゾンホールが出来て問題となっている。しかし、北極では気象条件の違いから南極のような大規模なオゾンホールは出来ないと考えられていたが、今春、南極に匹敵する
オゾンホールが発生し始めたことが、日米など9カ国の国際研究チームの調査で明らかとなった。
オゾン層の破壊はスプレーや冷蔵庫、エアコン、断熱材に使われたフロンガスの放出がもたらすものとされているが、それだけでなく、南極や北極地方の冬にその上空の成層圏の気温が非常に低くなると、進みやすいという面を持っている。
地上付近が暖まると、逆に上空の成層圏は寒冷化することが知られているが、今年の冬は温暖化の影響で北極地方が高温であったために、北極上空の成層圏で温度の低い時期が長く続き、オゾン層
の破壊が進んだものと思われる。
その影響で、3〜4月にスカンディナビア半島やロシア北部で、成層圏中のオゾンの濃度が低くなる地域が広がり紫外線の量が増加するところとなった。極地でオゾンホールが出来ると中緯度地域でも紫外線を遮断するオゾン層が薄くなるため、我が国を始め多くに国々で地表に到達する有害な紫外線が増えることになる。
その結果、遺伝子が傷つけられて皮膚ガンや白内障が発生しやすくなってくる。北半球は緯度が高い地域にも人口が多いだけに、影響は深刻であるが、そうした被害は人間に及ぶだけでなく、他の生命体へも及び、それは循環してさらに人間に影響を及ぼすことになってくる。
紫外線の増加で海のプランクトンの活動が鈍り、海の生態系や漁業へも影響してくるからである。北極海を代表するホッキョクグマは温暖化による氷解で、年々居場所がなくなって来ているが、さらに強烈な紫外線にもさらされるという二重の苦しみに遭遇
しているのである。このままでいけば我々はそう遠くないうちに彼らの姿を見ることが出来なくなっているかもしれない。
人類はこの百年、核実験や石油掘削だけでなく、日々の生活の利便性を求めるがゆえに、大量の毒物を地表にばらまいて地球を破壊し、さらには多くの動植物を絶滅へと向かわせ
てきたわけである。これは人類が等しく負うカルマであることは間違いない。
北極海の記事を書くたびに、北極点の近くで出会ったホッキョクグマの親子の姿が目に浮かんで、無性に悲しくなってくる。