金融市場でイタリアの国債が売られ10年物国債の金利が7%を超える事態に至っているが、7%はその国が財政危機に本格的に突入したことを示す一つのシグナルである。ギリシャやスペインなど金利が10%を超えた国々は、7%台に達した当たりから一気に奈落の底へと落ちている事がそれを示している。
ギリシャやイタリアで家でなく、財政赤字に悩む国々はみな同様に大量の国債を発行しているだけに、国債の金利の上昇はその国の財政赤字をさらに推し進めることになる。年金支給額や公務員の賃金カットなどで削減した政府の支出は金利支払いの増額で帳消しになってしまうだけに、金利の上昇は財政破綻へのだめ押しとなってしまうことになるのだ。
個人の家計に当てはめてみればそれがよく理解できる。年収が500万円で2000万円の住宅ローンを20年返済で組んでいる家庭を例に取ろう。この家庭が勤務先の経営悪化でご主人のサラリーが減り、400万円に減収したとしたら、ローンの支払いを続けるためには家計を切り詰め、奥さんが働きに出なければならなくなってくる。
しかし、こうして何とかやりくりをしている最中に、これまで2%だったローンの金利が突然10%に跳ね上がったとしたら、金利の支払い額が年40万円から一気に200万円に跳ね上がってしまう。元金の支払いと合わせたら300万円の支払いとなり、減収したご主人の収入のほとんどがローンの支払いに消えていってしまうことになる。
これが借金の怖さであり、政府債務でいうなら奈落の底へ陥る分岐点が7%と言うわけである。これから先は、イタリアの将来に不安を感じた金融機関が次々と保有する国債を売り始める。その結果、国債価格はさらに下がり金利は上昇、財政赤字はますます膨らむという悪循
に環陥ることになる。
因みにイタリアの政府債務、つまり借金の額は国内総生産の120%に当たる200兆円に達しており、ギリシャとは比較にならない大きさである。新たに発行する債券は今のところ欧州中央銀行(ECB)が買い取っているために、10日に実施した1年物国債の入札は、懸念されていたほど悪い結果とはならなかった。
このようにして金利高騰の危機はしばらくは持ちこたえるだろうが、ベルルスコーニ首相の交代劇でこれから先も混乱が続き、さらには、国家財政の実態や緊縮財政の難しさが明らかになれば、さらなる金利の上昇は避けられなくなってくる事は必至である。
フランス国債の金利も上昇
ドイツと共にギリシャの債務危機救済の牽引役を担ってきたフランスであるが、前回のHPでも書いたように、ここに至ってフランス自身に対する財政悪化懸念が問題視され始めて来ている。市場では早くからささやかれていたことであるが、それが白日の下にさらけ出されたのは、昨日EU(欧州連合)の委員会の代表者がフランスの財政赤字に警告を発したためである。
フランスは国民総生産(GDP)の103%以下とEUの決めた1年間の財政赤字幅を、これまで大幅に上回ってきている。今行っている財政削減幅では2013年に至るも5.1%以下には抑えられないだろうとEUの欧州委員会は考えており、さらなる緊縮財政を取るよう勧告を発したといわけである。
この発表を受けて、ドイツと並んで「AAA」という信頼度の最高格を得ていたフランス国債は金利が3.4%に急上昇。ドイツの1.7%の2倍となってしまった。今やEU
にとってフランが次なる心配の種となってきたというわけである。
EUの欧州委員会はまた、EUの2012年度の経済成長率(GDP)
をこれまでの見通し1.8%から一気に1.5%下げて0.5%と発表した。EUの委員は「欧州の成長は止まった。新たな景気後退の危険がある。これは本格的な景気後退(メルトダウン)への最後の警告でもある」と語っている。私にはこの警告は遅きに失した感がしてならない。来年の今頃にはそれが誰の目にも明らかとなっていることだろう。
それにしても、こうした危機にもかかわらず世界の株式、特にニューヨークのダウ平均と香港ハンセン指数は一向に下がらず高値圏で推移している。悪材料でいったん下げた株価は3〜4日すればいつの間にか元に戻って、さらなる高値を伺おうとしている。
恐らくこの動きはしばらく続き、世界経済が奈落の底に向かうその前日まで、博打相場は続くことになるのではないだろうか。それ故、カネの亡者たちと共に地獄に落ちる人の数は、計り知れないほどになるに違いない。