財政削減合同特別委員会の行方
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暗闇に包まれた無毛の論争が続く連邦議会議事堂
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読者の皆さんは今年の夏、米国の連邦債務上限引き上げ問題で危うく米国がデフォルトしかか
ったこと、その後、格付け機関・スタンダード&プアーズが長期国債の格付けを最高位のAAAから格下げしたことをよもや忘れてはいまい。
米国政府は差し迫ったデフォルトを避けるために、借り入れできる債務上限を2兆1000億ドル(160兆円)引き上げたのは8月のことであった。ただしそのためには、今後10年間で財政赤字を2兆4000億ドル(180兆円)削減するという条件がついた。
この2兆4000億ドルの内の1兆5千億ドルの赤字削減の内容を詰めるために設置されたのが
、上院と下院の両方のメンバーで構成された財政削減合同特別委員会であった。
ところがすでに決定から3ヶ月が過ぎ、議会への提出期限である11月23日が刻々と迫っているというのに共和党と民主党から選ばれた委員による論議の様子が伝えられないままで、残された期限は
あと数日に迫っている。
合同特別委員会から提出された法案を、議会は1カ月以内(つまりクリスマス・イヴの前日)までに投票に付すことになり、この法案は修正は認められないことになっている。
仮に法案が成立しなかったときには、トリガー条項によって予算の一律削減が自動的に行政管理予算局(OMB)によって実施されることになる
。それゆえ、法案成立の成否で問題が発生することはないが、共和党と民主党の考えが平衡状態のまま進むことは、これからのオバマ政権にとって経済と財政再建の道が一段と険しくなってくることを意味
するだけに、今後の政局に大きな火種を残すことになる。
現にその前兆は既に起きており、オバマ大統領が先月(10月)下旬に議会にかけた雇用対策法案が野党・共和党の反対で葬られている。この法案はオバマ政権にとって最重要課題の雇用対策法案
で、自治体が予算を管理している警察官や消防士、教員等28万人の解雇防止に350億ドル(2兆8000億)を投じるという内容のものであった。
こうした雇用対策法案が次々と否決されていくとなると、財政赤字が続く州政府の緊縮財政で職を失う公務員、警察官や消防士、教職員などが増加し、国民の生活は一段と混迷を深めることになってくる。
沈みゆく社会
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住宅街を見回る自警団(朝日新聞より)
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先日朝日新聞では「警官を雇えぬ街」と題し、自治体の破産によって犯罪が急増、自警団が結成されているカリフォルニア州のバレホ市の様子を伝えていた。3年前に破産したバレホ市では40%の警察官
が削減されている。
その結果、遠くメキシコから警察官の減少を聞きつけた売春婦や麻薬の密売人が流れ込んで街が物騒になる一方、空き巣などが入って警察に通報しても、警察官が駆けつけてくれるのは3時間後という状況になっている
という。だからこそ、自警団が結成されるようになったというわけである。
米国の自治体は借金返済が出来なくなった場合、つまりデフォルトすると民間企業とほぼ同様に連邦破産法に基づいて裁判所に破産を申請できることになっている。こうして破産が認められた場合は破産管財人の管理下に置かれるため、支出は一段と厳しくなり、警察官などの削減が推し進められることになるのだ。
2008年のリーマンショック以来、こうして破産する州や市町村の数はうなぎ登りに増加傾向にあり、
図書館などの公共施設の閉鎖、警察官や消防士、教員などの大幅削減、さらには退職した職員への年金未払いなどが起きて、日常生活に大きな問題
が発生している。
そんな中、今月9日にはアラバマ州シェファーソン群が破産。負債額は41億ドル(3200億円)に達し、アメリアの自治体破綻では、1994年、カリフォルニア州オレンジ群の17億ドルを上回り、過去最大となった。
また、10月にはペンシルバニア州のハリスバーグが破産を申請しているが、その他にも米国自動車産業の拠点、ミシガン州デトロイトなど10あまりの自治体が
、いつ破綻申請してもおかしくない「破綻予備群」として控えていることが報じられている。
今はもっぱら欧州の財政危機に世界の目が注がれているが、年が明け大統領選挙が近づくにつれ、米国においても中央政府のみならず、地方自治体のデフォルトの危機が一段と増して、世界の注目を浴びることになって来るに違いない。
EU(ヨーロッパ連合)とともに、米国もまたこれから先の1年は波乱の年となって来そうである。
追記
年収100万ドル(7700万円)以上の年収者である、いわゆるミリオネアがアメリカ議会に集まり、自分たち富裕層の税金を上げるよう、自らアピールしたというニュースが伝わってきた。
彼らは「富裕層の我々がもっと納税すべきで、払いたいのです」16日、アメリカ議会に集合したのは年収100万ドル以上の実業家や投資家などおよそ20人で、「財政赤字を削減するには自分たち富裕層の増税しかない」とアピールしたということのようである。
彼らの多くは民主党支持者で、増税は景気停滞につながると反対する共和党に対して、民主党寄りの合意をするよう特別委員会の委員に陳情したというわけである。もしも、彼らの主張が政治色のないものだとすると、米国国民が少しずつ
「格差の是正」に目覚め始めている証かも知れない。
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