現在、蓄積されている公的年金の積立額は約130兆円。その運用先として国内株と外国株に12%づつ、合計25%を振り分けてきていた。ところが今回それを一気に倍増し、
両方で50%・65兆円を投資することが決まったのだ。
先に決定した日本銀行の追加金融策に追い打ちをかけるように発表されたこの株式の運用比率の突然の変更は、どう考えても株価を引き上げるためとしか考えられない。
現に発表を受けた日経平均は17500円を超し、先月の安値から3000円の上昇となり、7年ぶりの高値となってきている。おそらくこれから先、しばらくは政府の思惑通り上昇基調をたどることだろう。
しかし、積立金の運用について法律には、「被保険者の利益のため、長期的な観点から、安全かつ効率的に行う」と、「安全」の2文字が明記されている。
ならば、積立金の半分もの額を短期的な観点、つまり安倍内閣の掲げる「アベノミクス」の成果を出すために、不安定な株式市場に振り向けることは法律違反にならないのか?。
株式市場がいかに危険な場所であるかを一番知っているのが米国である。だかららこそ、あれほど投資好きな国でありながら、公的年金資金については市場での運用を一切せず、
全額を非市場性の国債として保有しているのである。
現在の株式市場が経済的な裏付けのないまま上昇し続けてきていることは、これまで何度も指摘してきた通りである。それは日本だけでなく、米国、欧州、中国各国の市場も同様で、何処もかもがみな賭博場と化して来ている。そんな博打場に国民の明日の生活資金として積み立てられた130兆円の半分
、65兆円もの大金を投入しようというわけであるから、安倍政権の為すことには呆れて物がいえない。
株式比率の倍増を知った世界の投資家は今一斉に漁夫の利を得ようと、日本の株式市場に参入してきている。公的年金の運用を行う年金積立金管理運用独立法人(GPIF)
に対して、総選挙の勝利を目論む安部政権が、早めの資金投入を指示することは明々白々であるからだ。おそらく12月の日本株は急激な上昇相場となることだろう。
また、外国株の運用分16兆円はニューヨーク株の上昇の牽引力ともなることだろう。
しかし、問題はバブル化し、博打化した株式市場が下げ相場に転じた時である。世界的な株高全てが各国政府の打ち出した前例のない金融緩和策によるカネのばらまきによるもので、実体経済を反映したものでないことを考えれば、遠からずして下げ相場に転じることは明白である。
これから先に予想される株式市場の下落は、単なる一時的な下げ相場ではなく未曾有の下げに転じ、株式市場の崩壊、貨幣制度の崩壊へとつながる可能性が大であることを考えれば、株式市場への投資分65兆円の積立金は、一気に藻屑と化すことも考えておいた方が良さそうだ。もしも
、そうした状況になったら、年金支給額の大幅な減少は避けられそうもなく、年金を頼りにしている人々の老後の生活は一気に地獄と化すことになる。
どうやら、公的年金の受給者は覚悟を決めておいた方が良さそうだ。
しばらくは株価上昇でアベノミクスはもてはやされるだろうが、それは一時のことで、後は地獄が待っている。ただし、こうした心配も公務員に限っては別
となるようだ。 なぜなら、公務員年金は今回の株式市場への増額措置から外されているからである。
株式運用がいかに危険であるかを彼ら高級公務員は十分に承知しているのだ。
それにしても、お役人というのはなんとも身勝手な人達である。自分たちの年金資金だけは安全運用にしておこうというのだから。昔は公務員は国民の下僕である
と言われていた。どうやら今は国民こそが、公務員の下僕となっているようである。ここでもまた「心の素」が出てきたようだ。