昨年の10月、米連邦政府が抱える債務が限度額に達してデフォルト(債務不履行)になる可能性が高まり、世界が緊張したことを読者も覚えておられるだろう。しかし結果的には、政府機関の一部が閉鎖されたものの、債務上限の引き上げが今年の2月7日まで引き延ばされ
たことで、デフォルトは回避され、何事もなかったかのように世の中は動いてきた。
そして、今月7日その期限が到来した。ルー財務長官はこのままだと、一連の臨時措置でデフォルトを回避できるのは3週間が限界だと指摘。これらの手段が尽きる2月27日頃の政府の手元資金は約500億ドル(5兆円)となる見通しであるため、資金繰りの限界に達する可能性が大きくなる
として、議会での審議が急ぎ必要になるとの見解を発表していた。
しかし、上限引き上げについての議論が十分に為されないまま期限の7日を過ぎた。ここに来て米下院共和党は、連邦債務上限を2015年3月までの1年間無条件で引き上げる法案を提出し、下院を通過した。過去3年にわたり、債務上限引き上げを財政協議の材料に使い譲歩を引き出してきた共和党にとり、付帯条件なしの上限引き上げに応じることは、大きな方針転換である。
どうやら、共和党は内部での意見の対立や10月に予定されている中間選挙を優位に進めるために、政策を転換したのではないかと思われるが、
これで国家の浮沈がかかった債務問題はまたまた先延ばしである。米国の議員さんも我が国の先生方と一緒で、国の将来より我が身や党利党略に重点を置いているようである。
12日には上院でも同法案が可決され、事実上、来年3月まで債務上限が取り払われることになったため、政府はかなり余裕を持って上限を引き上げることが可能にな
った。上限の引き上げは90年代から既に10回を超して来ている。14年度にどれだけの額を引き上げることになるのか分からないが、
この10年間、借金の総額がうなぎ登りに増えてきていることだけは確かである。
連邦政府の抱えた本当の債務額は?
問題は連邦政府が抱えた本当の債務額である。2013年度末の債務残高については、およそ18兆ドル(1800兆円)とされているが、実際の所は
遙かに巨大な額となっているようで、2011年6月8日付けのの「USA Today 紙」の一面には、年金や高齢者医療保険の未払い債務や連邦債務をあわせたアメリカ連邦政府の債務総額が
、61.6兆ドル(約6000兆円)となったと記されている。
更に、2009年2月に、米国・ダラス連銀(米国の中央銀行の地方支店)のリチャード・フィッシャー総裁が中国高官に対して口にしたという公的債務残高(年金や医療債務を含む)は、FRB(米連邦準備理事会)や日本のマスコミが伝える数値とは桁が違う、99兆ドル(1京
円=1000兆円の10倍)という驚愕すべき額となっている。
先の世界大戦終結以来、米国は世界中で起きた戦争や内戦のほとんど全てに関与してきている事は、読者もご承知の通りである。 朝鮮動乱から始まって、ベトナム戦争、湾岸戦争、ボスニアヘルチェゴビナの内戦、対イラク戦争、アフガン戦争・・・・・、これらに費やした莫大な軍事費を考えると、実際の債務残高が17兆ドル(1700兆円)程度のものでないことは
十分推測できる。
いずれにしろ、その実体は遠からず明らかにされる事になるだろうが、その時は米国が世界の盟主を降りる時であり、ドルが紙切れとなる時である
。それは、同時に世界経済の崩壊という「地獄の扉」が開く時でもある。