クリミア半島一帯がロシア軍によって占拠された状態となり、ウクライナ情勢が再び緊迫度を増してきているが、一方、注目度は低いものの、中国の情勢がここに来ておかしくなって来ているのも、隣国である我々にとっては気がかりである。
ウクライナ問題は「欧米対ロシア」の利害関係が絡んで複雑化して来ており、事態の解決は容易ではないものの、先進国としての自制心が働くため多少の安心感がある。しかし、中国の国内問題は
火種が各地に広がっているだけに、一旦火がつくと一気に猛火となって手がつけられなくなる可能性が大きく、こちらの方が不安が大きい。
現在、中国が抱えている問題点をまとめると、以下の6点に集約されることになりそうだ。
@ 貧富の格差
A 民族問題
B 一人っ子政策による少子化問題
C シャドウバンキング
D 大気汚染問題
E 言論の自由問題
先週1週間にわたって続いた北京市やその周辺のDの「大気汚染
問題」は、読者のご存じの通りである。PM2.5の濃度について国連の環境機関は20レベルを超えると人体に悪影響を及ぼすと発表しているのに、その10倍の200どころか、先週は600近くに達していた。こんな状況が1週間も続いて体によいわけがない。これから先、肺疾患の患者が急増することは必至である。
北京や上海といった大都市が、もはや人の住む環境ではなくなってきているそんな状況下、Aの「民族問題と言論の自由問題」、さらにはCの「シャドウバンキング問題
」という厄介な問題が再浮上してきた。全国人民代表大会(全人代=国会)の開幕を前にした3月1日の夜、中国南部の雲南省の昆明駅で刃物持った集団が通行人らを無差別に襲撃し、29人が死亡、130人以上が負傷する事件が起きた
のだ。
中国メディア・中国新聞社は2日、現地政府が「新疆独立勢力によるテロ」と断定したことを報じているが、ツイッターでは、「今の中国社会は乱れ過ぎている」
、「この社会はいったいどうなってしまったんだ?」 など、
一般市民や若者の間で、中国社会の現状に対する不安や苛立ちの声があがっている。
失脚が確定的になってきている周永康勢力によるものではないか、との見方もあるので確かなことは分からないが、もしも今回の事件が、現地政府が言うように「新疆独立勢力によるテロ」だとすると、昨年10月に起きた北京市の天安門前に車両が突入した事件に次ぐ、第2の反政府テロ事件となる。
それにしても、新疆ウィグル自治区からは北海道と沖縄以上に距離が離れている雲南省が、なにゆえ狙われたのだろうか? 警備が緩やかだったのが要因ではないかと考えられるが、
手薄なところが狙われるとなると、防止策が行き届かない場所が次々と狙われて殺傷事件の場と化すことになってくる。そうなると、広大な領土を持つ中国だけに防備は大変だ。
どうやら、新疆ウイグル自治区出身の過激派による事件はこれから先、さらに頻度を増し、また過激化してくる
ことになりそうだ。いずれにしろ、都市の暴力事件としては習近平率いる指導部発足後、最悪の惨事であり、5日の全国人民代表大会の開幕を控えて、指導部が衝撃を受けていることだけは
確かだ。
香港で報道の自由を求める大規模デモ
香港の有力新聞「明報」の編集長が先月26日何者かに襲われ重傷を負った事件を受けて、一昨日、香港中心部で「事件は報道の自由を弾圧しようとする勢力によるものだ!」として、ジャーナリストや市民による大規模な抗議デモ
が発生した。
デモは編集長の襲撃事件そのものより、その背後に有るもの、つまり、様々な不正や腐敗行為を伝える行為をもみ消そうとする、中国政府の隠蔽体質に対する強い怒りの表れと思われる。これまでにも
勇気あるジャーナリストに対する同様な襲撃事件は何度か起きているが、一度たりとも犯人逮捕には至っていないことが、中国政府がいかに隠し事に徹してきているかを物語っている。
中国では様々な抗議デモや暴動が起きて来ているが、こうしたジャーナリストによる政府に対する大規模な抗議デモは、中国以外ではあまりお目にかかったことがない。インターネットなどで政府批判の記事が流れ流と、すぐに削除されてしまう中国の状況を考えると、習近平政権がいかに「言論の自由」を奪うことに力を入れているかが分かろうというものである。表面上は穏やかそうな顔をしているが、習近平も李克強もおのれの首がいつ飛ぶことになるか、戦々恐々の日々を送っているのだ。
世界格付大手のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が2月26日に発表した統計によると、中国の金融機関を除く一般企業の借入と債券を合わせた債務残高が、昨年末で約12兆ドル(約1200兆円)に達し、それはGDP(国内総生産)の120%に相当、過去最高水準となった。
S&Pは今年または来年には、中国の企業債務残高が米国を上回り、世界一の規模になると予測し、中国企業による債務不履行(デフォルト)のケースは今後ますます増えてくるだろうとしている。その結果、多くの企業はデフォルトを回避するため、資産の売却や合併を加速せざるを得なくなるという
わけだ。
そうした予測を裏付けるように、最近、浙江省の杭州市や広東省・広州市、また江蘇省・常州市などの都市で、不動産開発会社(デベロッパー)がマンション価格を大幅に値下げし
始める事態が起きている。
多くの不動産会社が膨大な在庫を抱えていることと、融資元のシャドウバンキング(陰の銀行)が資金不足に陥って十分な融資が出来なくなって来ていることが要因と思われる。どうやら、膨らみ続けた中国の不動産バブルがいよいよ本格的な失速を始めたようである。
シャドウバンキング(陰の銀行)問題については、既に何回か中国経済の破綻の火付けとなることをお伝えしてきたので、読者も記憶に残っていることと思うが、一般企業や地方都市の抱えた巨大な債務の資金源となっているのが、影の銀行が発行する「理財商品」(高利回り金融商品)である。
今年中に、約4兆元(約68兆円)の「理財商品」が満期を迎えるとされているが、今年に入って既に、中誠信託や吉林信託などが融資している企業の経営破たんで、元本返還が出来なくなりデフォルトが発生するのではないかという報道が幾つか伝えられている。
「中国経済破綻の狼煙」でお伝えした中誠信託のデフォルトについては、期限ぎりぎりの段階で謎の投資家が現れて負債の肩代わりしたことで
、危機一髪回避されている。この投資家が中央政府の指示を受けた者であることは間違いなく、それは中国政府が理財商品による経済破綻が始まることを恐れ、
必至に手を打っていることを示している。
一方、吉林信託に関しては関係者が商品の第6期満期日である3月11日までに回避する方法をまだ摸索しているようであるが、おそらく、これも中誠信託と同様な手段でひとまず解決することになるのではないかと思われる。
しかし、政府がいつまでもこのようなこそくな手段でシャドウバンキング問題を誤魔化し通すことは無理である。既にお知らせしてきているように、市場に出回って理財商品の額
は300兆円とも400兆円とも言われているからである。今の中国政府が救済できる額は、数兆円が限度である。
中国発の世界経済破綻については、改めて記す予定である。