先般、「我が国へ難民が押し寄せる日」で
、中国では中流層による大暴動発生が現実味を帯びて来ていることをお知らせしたが、その引き金となるのが「理財商品」と呼ばれている金融商品のデフォルト(償還不能)である。
昨年末の共産党大会(三全中会)で密かに論議の中心となったのがその対策であったことは知る人ぞ知る事実である。
理財商品というのは、シャドウバンキング(陰の銀行)と呼ばれている中国の地方銀行やノンバンクが販売している元本保証のない金融商品である
。高金利に魅了されこの商品に投資しているのは、企業や個人、機関投資家などで、集められた膨大な資金は株式や債券、不動産、商品先物、地方政府などに投資
されている。
中国では銀行預金の利率には政府から上限がつけられており、現在は3.3%前後である。0.1〜0.2%台の日本の金利と比べれば桁違いの高い利回りと思われるが、物価上昇率が3%を超えてきている中国では
、3%台の金利は物価の上昇で消えてしまう程度でしかない。そんな低金利に、あのがめつい中国人が満足するはずがなく、そこに目をつけたのが
高金利の理財商品というわけである。
それでは、その理財商品はどれほどの量が販売されているのかというと、先般、中国銀行が公表した昨年6月末の販売残高は160兆円に達している。
既に1年前には、中堅銀行の華夏銀行が発行した理財商品が返済不能となる事件が起きているのにもかかわらず、その後も膨張を続けており、実際の残高は250兆円から300兆円に達しているのではないかと、言われている。
その数値は実に中国の国家予算の数倍に該当する額である。
これだけ膨大な商品を一体誰が購入しているのかというと、その中心となっているのが中国人口の23%を占めると言われている3億人の中流層の人々である。大都市に住む中流層と上流層の10人
に1人が理財商品を購入しているというから、中流層の一人が1000万円投資していれば2000万人で200兆円となる。
中流層の中でも中心となっているのは、大手国有企業や政府機関、外資系企業などに勤務するホワイトカラーや、ビジネスに成功した経営者、医者、学校教師など給与以外に特別な実入りがある
人たちである。彼らは北京や上海などの大都市にマンションを数軒所収し、海外旅行に出かけては高級ブランド品を買いあさっている人々でもある。
問題は10〜20%という超高金利をうたい文句にした理財商品を販売している投資信託会社がその資金の多くを、地方政府や国有企業に投資
しているという点である。地方政府や国有企業と聞けば、安心な投資先と思ってしまうが、実はそうではないのである。
融資先の地方政府や系列の企業はここ数年、開発ブームに乗って産業基地建設や巨大な住宅建設に膨大な資金を注ぎ込んできている。地方政府の役人が中央政府から高い評価を得るためには、城内の総生産指数(GRP)を押し上げることが最大の手段で
あることを考えれば、至極当然の成り行きである。
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ところが、それらの多くのプロジェクトは敷地の造成や箱物は完成したものの、景気の落ち込みによって企業の進出が計画とは裏腹に頓挫し、今もなお、巨大な工業団地や高層住宅の多くが、人や車の出入りのないゴーストタウンと化してしまっているのである。昨年の春頃、政府が資金のばらまきを縮小し始めてからこうした傾向は一段と顕著になってきているのである。
こうして出現した人の住まない都市を、最近、中国人は「鬼城」(きじょう)と呼び始めている。それこそが、私がこれまでに何度か記してきた
中国各地に出現してきている幽霊都市や幽霊工業団地なのである。そうした「鬼城」
なる存在は遼寧省や河北省、紅蘇省、重慶市、内モンゴル自治区などに数十ヶ所あると言われている。
遼寧省のプロジェクトは開発ブームに沸く数年前までは順調に推移し、地域のGRPが2桁の延びを達成していた。現在の首相である李克強氏はその功績で出世し
、現在の地位にあるというわけである。しかし「鬼城」を抱えた省の多くの都市は財政収入の5〜6年分もの借金を抱えており、返済を求められればたちまち破綻せざるを得ない状況に置かれているのが現状である。
となると、取り立て不能となった理財商品はリーマンショック時の「サブプライムローン」と一緒で、顧客への償還が不能となってくる。その結果は火を見るより明らかで、1000万円を投資した
2000万人近い中流層たちの投資資金は、一瞬にして藻屑(もくず)と化してしまうことになる。
その先に待っているのは、「経済の混乱」と「社会の争乱」である。老後資金や住宅購入資金、子供の教育資金の多くを失った2000万人の中流層が黙って
いるわけがないからである。彼らは理財商品の償還不能は自らの投資の失敗ではなく、国家の責任であると考えて政府への責任を問うことになる。
政府は理財商品の破綻を防ごうと、あれこれと手を打つだろうが、現在の中央政府には100兆円を超すようなニューマネーをひねり出す余力は残されていない。待っているのは北京の中南海を発火点とした主要都市の暴動である。
それに輪をかけることになると思われるのが、長い間虐げられてきたチベット自治区や新疆ウイグル自治区の非漢族の人々の地方政府への怒りである。またGDP世界第2位へと躍進する成長の恩恵から取り残された低所得層の人々の怒りもかってない大きなうねりとなってきており、それらの怒りに火をつけることになるのが中流層の暴動だ。革命や暴動は多様な勢力が一つの敵に向かった時に成就する
のが常である。
こうして一気に火のついた中国は暴動から内戦状態へと進み、あっと言う間に共産党政権は崩壊。やがて幾つかの州(省)に分かれた分離国家と化していく。その際に発生するのが暴動や内戦から逃れようとする難民である。
彼らの向かう先は東西南北、四方八方となる。東に位置する日本に向かう人々は荒波に揉まれた日本海を渡ることになる。
理財商品破綻の兆候
理財商品の償還が不能に陥る案件が春先から出てくるのではないかというのが、市場関係者の予測である。
現に、昨年末に中国のある石炭会社が30億元(約510億円)の債務返済に窮し、経営不振に陥った。倒産会社がエネルギー資源会社であることと、金額が少額であったことから政府が支援し債務不履行(デフォルト)を回避したようだが、いつまでもそのような支援策が続けられることはない。
習近平をトップとした共産党政権にとって、シャドーバンキング(影の銀行)と理財商品が「喉に刺さった棘」であることは間違いなく、彼らはなんとしてもこれ以上、棘の飛んでくるのは避けねばならないだけに、必死に対応策を講じるに違いない。
それゆえ、理財商品が本格的に償還不能ラッシュとなり火の手が上がるのは、しばらく先になるのではないかと思われるが、米国やユーロ圏各国の債務返済問題と同様、いつまでもというわけにはいかない。早ければそう日をおかずして火の手が上がることことになるかもしれない。下記のニュースはその可能性の一つを示している。
中国地方政府の巨額投資行き詰まり(
1月25日付け朝日新聞より)
中国の各地方政府が、今年の経済成長率の目標を相次いで昨年より引き下げている。借金を重ねながら巨額の建設投資をして成長率を引き上げる手法が行き詰まって来たからだ。
経済成長率は地方政府の幹部の評価に直結してその後の出世を左右するため、各地方は高めの目標を掲げがちだ。こうした無理な投資は借金を重ねる一方で必要のないインフラや工場まで作っていると指摘されている。
「中国で巨大な債務不履行が1月31日に発生」(1月19日の米国
「Forbes
」誌より)
1月17日、中国の国営メディアは、中誠信託有限責任公司( China Credit Trust )が午年を迎える1月31日に
、満期が到来する理財商品の一つが返済されない可能性が大きいことを、投資家に警告したことを伝えている。
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