ロシア社会に異変が起きている。人の「心の素」が表に出だしたからである。
この春、プーチン氏の大統領就任に対して大規模な抗議デモが行われたことは既に記した通りである。その後、デモや抗議活動に対する取り締まりが一段と厳しくなってきている一方で、新たな抗議活動が広がって
きている。
かってロシアにおいては、デモ行動が行われること自体が考えられないことであった。しかし、最近
はそれが公然と行われるようになったばかりか、その様子を見ていると、政治活動家たちによるものと違って一般の市民や若者たちによるものが多くなっているのが特徴的である。
その代表的な一つが、女性バンド「プッシー・ライオット」によるもので、彼女たちは今年の3月に救世主ハリストス大聖堂
内の司祭のみ登壇が許されている場所に上り、聖母マリアにプーチン大統領の排除を求めて抗議の演奏行ったのだ。
社会の秩序を乱す行為として、内3人のメンバーが政府によって逮捕・収監され、既に5ヶ月目に入っている。今月17日には判決が降りる予定であるが、さらに2年間の収監が言い渡される可能性が大きい
とされている。
残されたグループのメンバーは、現在も潜伏しながらゲリラ的演奏活動を続けている。英国・BBCテレビの取材に応じたメンバーの一人は、「逮捕されたのは悪いことをしたからではなく、誰かが権力を誇示しようと決めたからです。しかしそれは本物の権力ではなく、偽物の権力です。政府には人を逮捕することは出来ても、思想を止めることは出来ません」と語っている。
権力を利用して市民の発言を抑え、自分たちの思うような国に持っていこうとしているプーチン政権の実体を、かって共産主義国家であったロシアの20代の女性たちが見抜き、それに立ち向かおうとしていることはまさに驚きである。
欧米の民主主義国家ならいざ知らず、共産主義国家から脱皮しつつあるあのロシアで、一般市民やこうした女性たちが毅然と立ち上がり抗議する姿を見ると、この国においても、「大周期の終わりの時」「大変革の時」が刻一刻と近づいていることを実感する。
日本や韓国の若い女性には考えられないことだが、彼女たちはこのままでは、自分たちの将来が国家権力にふりまわされる奴隷と化してしまうことを、しっかり自覚し始めているのである。
かっての妖怪プーチンの再生と言われているプーチン氏であるが、メドベージェフ首相と組んで大統領職と首相職を交代し合い、長期政権を敷いて
独裁国家として世界の覇権を目指そうとしている姿を見ると、僧侶から政治家へと姿を変えてはいるものの、おぞましい魂の真の姿が見えるようで背筋が寒くなってくる。
ボランティア活動も規制へ
先の豪雨と洪水によってロシアのクリムスク地方で170人を超す死者が出たことは既報の通りであるが、デモ規制強化、インターネット規制強化、誹謗中傷や名誉毀損の罰則強化、NGOに対する外国資金規制強化など、政権批判勢力への締め付けを強化する昨今の政策は、被災地におけるボランティア活動にも影響を及ぼしているようである。
自然被災に対しては国家的救援が当たり前だったロシアであるが、今は政府からの支援がほとんど行われず一般市民によるボランティアによって復旧作業が進められているケースが多くなって来ている。クリムスクの被災地には2000人を超すボランティアが駆けつけ支援を行っているが、彼らに対し
ても厳しい規制が行われようとしているようである。
一般市民の政府への抗議活動を懸念するあまり、政府はこうしたボランティア活動が政府に対する抗議活動に発展することを恐れ、いかなる場所やいかなるグループの活動にも眉をひそめるようになって来ている
のである。それにしても、ボランティア活動に政府が不安を感じ、神経を尖らせるなどと言うことは、聞いたことのない話である。
洪水の後のテレビ討論の中で、救援活動に当たった組織の代表は「政府はボランティア活動に参加する人達にまで、政治活動に携わらない旨の契約書に署名をさせる法律を制定しようとしている」と語っている。
どこの国においては、政府に代わって支援に当たる草の根運動やボランティア活動に対しては賞賛の声が寄せられるのが普通だが、ことロシアに至っては、賞賛どころか自分たちの権力を奪おうとする行為として規制を施行
しようというのだから、あきれてものが言えない。
こうした一連の行動は、プーチン政権の推し進めようとしている政策が、いかに「人の道」を踏み外したものであるかを如実に物語っている。
彼らは政治から離れた一般国民に、権力の裏に隠れたおぞましい私利私欲の姿を見られるのを怖れ出しているのである。
こうした状況がエスカレートするようなら、米国や中国だけでなく、この国においても市民による暴動の発生とそれに対する武力を使った鎮圧行為がそう遠からずの内に起きてきそう
である。自然災害、経済崩壊、政治混乱、さらには市民によるデモ・暴動の発生
・・・・・・・ 、今回のロシアのニュースはそんな状況の発生を予感させる暗いニュースである。