日本銀行は19日の金融政策決定会議で、長期国債などを買い入れる基金の規模を10兆円追加する金融緩和策を決定した。東日本大震災の復興需要で国内景気を支えている間に、海外の景気が持ち直し、日本の景気も今年前半には回復軌道に乗ると見ていたが、欧州危機や中国景気の減速によって回復が見られないから、というのがその理由である。
2010年から始まった金融市場への資金投入額は既に80兆円という、国家予算の2倍近い膨大な金額に達している。今回の日銀の追加資金10兆円は市場の予想を上回るものであったため、株式市場は値上がりし、国債の金利が下がることから円安に向かっ
たものの、早くも息切れしてきている。日銀の願っている方向に動いていないということの証である。
海外では、欧州中央銀行(ECB)が財政難に陥っている南ヨーロッパ諸国の国債を無制限に買い入れることを表明し、米国は連邦準備制度理事会(FRB)が住宅ローン関連の金融商品を無制限に買い入れるという緩和策第3弾を打ち出している。
こうして世界経済の舵を握る主要国は次々と景気回復に向けて手を打っているわけであるが、これは皆
、市場の資金を潤沢(じゅんたく)にすることによって国債が買われ、中小の企業が設備投資をしやすくしようとしているためである。
しかし、今やどこの国の金利も0%に限りなく近い状況にあり、効果のほどは知れている。
現に、ある零細企業の社長は「2、3カ月先の仕事があるか分からない今、借金するのは自殺行為」で、「金利が下がっても借金をしてまで新しい機械を買おうとは思わない」と話している。
金融緩和といえば聞こえはいいが、要は各国の中央銀行が紙幣を刷って市場にばらまいていることに変わりはない。こんなことをいつまでも続けていたら、とんでもない
反動が起きる可能性がある。
みずほ証券の上野泰也氏は「終わりのないゲームの色彩が強まっており、(国債の買い入れで)中央銀行が財政への関わりを深めれば、将来、悪い金利上昇など、大きなツケが回ってくる」と警鐘を鳴らしている。
一連の緩和策で世界景気が回復し、ばらまいた資金を引き揚げることが出来るなら別だが、これから先も更なる景気減速が広がるようなら、景気の停滞下で物価上昇が続く「スタグフレーション」と呼ばれる状態に陥る。
更にその先に待っているのは、世界恐慌であり、米一升を買うのに何万円、何十万円が必要になってしまう恐怖のハイパーインフレである。
ブラジルやインドといった発展途上国が自国の通貨高によってその発生源となるかもしれない。
米国などは、むしろ秘密裏にこのハイパーインフレの発生を狙っている可能性がある。なぜか? 返済不可能な域に達している国家の借金をご破算状態にするには、戦争を起こすか
ハイパーインフレしか手が残されていないからである。
年末にかけて、更なる緩和策が打ち出されることになると思うが、それは開きはじめた地獄のフタを更に開けることになり、
来年の今頃には、我々は勢いを増す自然災害だけでなく、世界恐慌かハイパーインフレの発生という灼熱の地獄を垣間見ることになるかもしれない。うわべだけの景気回復基調に惑わされずに
、景気の動向をしっかり見守りたいものである。