欧州中央銀行(ECB)がギリシャ、スペイン、イタリア等の国債を無制限に購入することを決定した。財政不安から価格が急落(金利が高騰)しているこれらの国々の国債価格を安定化させるためである。この決定で、当面はユーロ危機は安定に向かうのではないかと
いう観測から、世界の株価は上昇し、通貨はユーロ高に向かった。
今回の欧州中央銀行の決定は、先にドラギ総裁が発言した「ユーロ危機を回避するためなら何でもする」という処置の一つであるが、国債購入が
実施されれば、財政の悪化している南欧諸国は一先ず、デフォルト(財政破綻)は回避され国家破綻からは逃れることが出来る。
しかし、今回の決定はユーロ危機に対する最後の切り札的救済策である
ことを考えると、もしも、よりよい結果を生まなかった場合には、逆に事態は一気に深刻化する危険性を秘めている。また、救済策の実行の前に、二つの大きな難題が立ちふさがっている
ことも忘れてはならない点である。
一つはドイツ連邦憲法裁判所が12日に下す、議会の議決なしに、欧州安定メカニズム(ESM)により他国を財政支援することが、ドイツ憲法に違反していないかどうかという
判決である。救済基金に最大の拠出をしているドイツで、もしもそれが違憲となれば一連の危機対応策が根底から崩れる事態となり、今回の欧州中央銀行の国債購入の資金源にも大きな支障を及ぼすことになる。
今一つの問題は、欧州中央銀行の国債購入にはある条件がついているという点である。
その条件とは、国債を購入してもらうには、その前にはその国が、欧州安定化メカニズム(ESM)や欧州金融安定化基金(EFSF)に財政支援を要請する
ことである。
救済を求めれば、国庫に資金が入って来て財政が安定するのだから、直ぐに要請すれば良いではないか思うかも知れないが、ことはそんなに容易ではないのだ。なぜなら、
財政支援を申請するには、政府は財政支出削減に向けて更なる大ナタを振らねばならないからである。
財政緊縮策を実行するためには、国民の年金をカットし、公務員数を大幅に減らし、給与を減ら
さねばならない。その結果、厳しい不況下で高い失業率に喘(あえ)いでいる国民から、大きな反発が出ることは必至である。
ギリシャがその良い例である。それは即政権の転覆につながるだけに、政府はそう簡単に支援を要請することが出来ず、だからこそ、スペインもイタリアも躊躇(ちゅうちょ)しているのである。
しかし、私は「背に腹は代えられぬ」ということで、遅かれ早かれ支援を要請することになるのではないかと思っている。国家破綻してしまっては元も子もないからである。問題はその後に到来する国民の不満の爆発である。国家を揺るがすストやデモ、さらには大きな暴動の発生は避けて通れそうもないからである。
こうして見てみると、「支援要請の道」も「自立再建の道」も共に「茨(いばら)の道」には変わりなく、この困難な道を乗り越えるためには、暴動発生かデフォルトというどちらかの国難に直面することは避けられそうもなさそうである。
先ずは12日のドイツ連邦憲法裁判所の判断待ちである。合憲という判断が下り、さらに各国から支援要請が出れば、しばらくは安定化に向けて進むことになるかも
しれないが、私にはそうした状況が長続きするとは思えないのである。国民の不満には限界があるからである。