イタリアで地震予知失敗で禁固刑求刑
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2009年に発生した震度6・3のラクイラ地震では、耐震性が
弱かったため多くの建物が瓦解し、死者も300人を超す大惨事となった |
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2009年4月に死者309人を出したイタリア中部のラクイラ地震の予知を巡って、科学者と国が訴えられている。彼らは住民に対し警告を発しなかったばかりか、大地震の可能性は低いと安全宣言を出していたからである。この裁判については、8月18日のNHK・BSテレビでドキュメンタリー番組として放映されたので、ご覧になった方も多いのではないかと思う。
この裁判で検察側は25日、被告7人それぞれに禁錮4年を求刑したというニュースが流れた。地元紙によると判決は来月23日までに言い渡される見通しだという。頻発していた微震の分析を地震発生の6日前に実施しながら、大地震の可能性を認めず、甚大な被害が出る事態に至ったというのが求刑の理由である。
この種の裁判騒ぎは史上初めてのもので、イタリアのみならず世界中の科学者達が固唾(かたず)を呑んで見守っていた。それだけに、まだ裁判所の判決が出たわけではないが、検察による禁固4年という実刑の求刑は、彼らにとって衝撃をあたえるところとなったようである。
もしも、有罪となって求刑通りの判決が下ることになると、地震研究に携わる研究者やその結果に基づいて政府に上申する幹部の方は、今までのように単に「人心を騒がせる」という理由で、警告をないがしろにすることは許されなくなってくる。しかし、可能性があるからといって、やたらと警報を発すれば良いというわけもないので、なかなか判断が難しいところである。
警告を発する側も、それを受け取る側もこれからは、自然が相手であることを前提にして、謙虚な気持ちで情報を流し、それを受けとめることが大事となってくる。警報を発する側は、事実を変に隠し立てせずありのままに情報を伝え、それをどう受け止めるかは受ける側の自己責任で判断するしかない。
何もなく終わったときには、情報を聞き流した人間にとっては都合が良いかも知れないが、もしもそれが反対の結果になったときには、世間や政府に泣き言を言わないことである。
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裁判風景
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予知した人間がいた
今回の地震については、政府のお墨付きを得た研究者たちは、地震発生1週間前に開かれたラクイラ市の地震対策会議で注意は必要だが特別な警戒は不要という意見を発表したわけであるが、実は、告訴された研究者達とは別に、地震の発生が直近に迫っていると判断し、市民に警報を鳴らしていた研究者もいたのである。
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ラドンの発生濃度から大地震を予知したジャンパオロ・ジュリアー二氏
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その人物は「グラン・サッソ国立研究所」の地震学者・ジャンパオロ・ジュリアー二研究員である。ラクイラ市はアペニン山脈に連なるグラン・サッソ(Mt.
Gran sasso)山麓に位置しているが、その山麓にあるのが「グラン・サッソ国立研究所」である。
ジュリアー二研究員は、昨年12月から同地区で弱い地震が続き3月12、17、20日には強い地震があり、ラドンガスの増加も観測されたことから、3月末から4月初旬にかけて地震発生が懸念されると判断。ラクイラ市や民間防衛隊に「近いうちに大地震が発生する」と警告を発していたのである。
20年以上地震の研究を続けてきている彼の地震予知の決め手となっているのがラドンガスの発生である。ラクイラ市の地震でも微震が発生した頃からラドンガスの発生が始まり、24時間前の時点で、その濃度が急激に上昇しているのが観測されていたのである。(下図参照)
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(NHK・BSのドキュメント番組のより)
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ラドンガス濃度の上昇を観測したジュリアー二氏は、自分で車を運転しながらメガホンで警告したり、4月1日付けのYou
Tube上で地震予測コメントを流したりしながら、「安全でない建物に住む人々は家の外に出て寝るように」と、訴え続けていたのである。
しかし、学会や政府関係者たちは、彼のそうした警報と安全確保についての忠告を信ぴょう性のない情報として無視する傍ら、精神病患者扱いすらしていたのである。今回、彼らが起訴された背景にはそうした事実があったのである。
ラドンガスの異常発生という学術的な裏付けがあったのにもかかわらず、権力を持つ政府や学会がジュリアー二氏の意見を無視し、精神病患者扱いしたのは、学会の中枢を握る主流派の研究者達が権威を笠に着て、地道な努力をしているまじめな研究者達の意見を、一切受け入れようとしないところに原因があったことは明らかである。
主流派に属さない研究者や権力とは縁遠い研究者の研究結果も尊重され、正しい判断が世に出るためにも、10月23日に言い渡されるイタリア裁判所の判決が注目されるところである。結果の如何に関わらず、研究者は所属する大学や研究室、学閥にとらわれずに名誉心や我欲を捨て、真理の探究者としての本来のあるべき姿に立ち返って欲しいものである。
我が国でも、ラドンガスの発生結果を重視した研究に取り組んでいる学者もいる。そうした研究が地震予知会議の場でも取り上げられ、地震予知に活かされて欲しいものである。そして、地震予知会のトップや政府首脳はその結果を勇気を持って発表してもらいたい。
また、我々一般国民も、命がけで地震予知に取り組んでいる研究者の意見を、世の常識に反しているからといって無視したり、精神病患者扱いして除外しないことである。東海、東南海などの地震や富士山の噴火の可能性が高まっていることを考えると、イタリアの地震予知を巡る論議を我が国でも急いで活かして欲しいものである。
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