「アラブの春」でムバラク政権が崩壊した後、初めての民主的選挙によって選ばれたムルシ大統領政権も軍による事実上のクーデターでたった1年余で崩壊。その後
、エジプトではムルシ派、反ムルシ派の激しい争いが起きており、カイロのタバリン広場や路上では連日大規模集会やデモが続いており、多くの死者や負傷者が出ている。
双方とも路上や広場で巨大な力を誇示することによって、この紛争を有利に展開しようとしているわけだが、もはや両者間には妥協や交渉の余地はなく、対立があるだけである。対立の根底にあるのはイスラム教的宗教観と世俗的考えの人々との間の考え方、生き方の違いである。
こうした違いによる争いはこれまでにも無かったわけではないが、ムバラク政権の絶対的な権力の強さの陰に隠れて表に出なかっただけである。宗教派と非宗教派との間の争いも、宗教間同士、スンニ派やシーア派の争いも、みな長い歴史的背景が複雑に絡んでいるため、いったん争いが始まると一朝一夕に解決出来いのが常である。
それゆえ、仮に軍がバックに着いた反ムルシ派が改めての選挙で多数派を占めたとしても、しばらくすると、内部分裂が起きて、再び紛争が発生し政権獲得争いが起きることは間違いない。その後に待っているのは国を2分、3分する内戦しか残されていない。そんな状態の国に観光客が訪ねるわけがないから、ますます経済状況は悪化し、経済的、政治的両面から国家的破綻へと向かうことになる。
そんな状況が続く中、とうとう26日朝から27日にかけて、警察の治安部隊がデモ隊に攻撃し75人以上が死亡、10人以上が負傷する惨事が起きてしまった。内戦に向かう序章である。
一期一会
それにしても考えさせられるのは、国を訪ねるのも、人に会うにも皆一期一会で、いつでも訪ねることが出来たり、
出会ったり出来るものではないと言うことである。私の先史文明探索の地はエジプトやペルー、メキシコ、グアテマラであったわけだが、今やエジプトを訪れてピラミッドの研究などとても出来る状況ではない。恐らくこれから先は更に厳しい状況になる
に違いない。
一見平穏そうの思えているペルーやグアテマラでも、テロリストたちがジャングルの村の中に拠点を作っているため、容易に入っていくことが出来ない状況になっている。もしも、世界遺跡探索の旅がもう少し遅く始まっていたら、『謎多き惑星地球』の出版は出来ず、先史文明の真実を世に明らかにすることも出来なかった
ことだろう。
チュニジア
中東の情勢悪化がシリアからエジプトへと広がっている背景については「混迷を深める中東情勢の裏事情」でお伝えした通りであるが、中東に「アラブの春」をもたらしたきっかけとなったチュニジアにおいても、今年に入ってから内紛が続いており、イスラム原理主義者対世俗派の対立が激しさを増してきており、エジプトの後を追う
厳しい状況になってきている。
今年の2月に世俗派の党首が銃で射殺され反政府暴動が起きていたが、先日野党幹部ムハンマト氏が自宅近くで狙撃されて死亡する事件が発生、反政府運動に火が付いた形で、抗議デモや暴動が拡大してきている。現在の政権はエジプトの前政権と同じムスリム同胞団に類似した政党であるため、争いの内容はエジプトと瓜二つである。
エジプト同様、円満に和解へと向かう可能性は小さく、これから先、デモが拡大し死傷者が出てくるようになれば、両派の間に強い憎悪の感情が強まり、対立はいっそう深まってくるに違いない。チュニジアも経済状況は良くなく、2年前の「アラブの春」以降失業率は悪化の一途をたどっているようなので、意見の対立は軍部を巻き込んで内戦へと進んでいくことになるかもしれない。
もしも、「アラブの春」でカダフィー
大統領の長期政権が倒れたリビアにおいても、同様な動きが始まるようだと、「アラブの春」に遭遇した中東諸国は一斉に凍てつく冬へと逆戻りということになってくる。 内紛、内戦は自国の産業や観光を台無しにしてしまうだけに、行き着く先は地獄である。そこにイスラエルによる対中東戦争が始まるようだと、中東は「アラブの春」ならぬ「地獄の冬」を迎えることになりそうだ。