リーマンショックで落ち込んだ中国経済を立て直すため、中国の国有企業や地方政府が不動産投資に投入した資金が3〜400兆円という膨大な額に達しており、世界経済の崩壊の引き金となる可能性が大きいことは、先日「中国のシャドウバンキングの実体」で記した通りである。
その後8月1日、中国の会計検査院にあたる審計署が中央と地方の全ての政府を対象に、借金の全容を調べる一斉検査を始めたことが報じられた。対象となるのは中央政府や省の他、市、県、郷といった4万3000に達する政府機関の全てである。
この中には、地方政府が入居者の当てもないのに何十棟、何百棟という幻の住宅団地を建造し、いまもなお幽霊都市と化したままの建設プロジェクトの借入金や、収益の上がらない地方の鉄道建設や道路などのインフラへの投資資金などが含まれる。
中国は共産党幹部の業績評価を、彼らが管轄する地方の成長率で測ってきた。そるゆえ、共産党幹部は2〜3年で転勤することを良いことに、在任中に多額の借入金で不動産投資を進めて成長率を上げ、その後の責任は後任者に押しつける「ババ抜き」を続けてきた。
投資する額が大きければ大きいほど、リベートとして懐に入る額も大きくなるわけであるから、その額は次第に大きくなっていったと言うわけである。全国の鉄道建設を一手に取り仕切ってきた鉄道省のトップが数十億円の賄賂罪によって、重罪の判決を受けたのはその代表的な一例である。
「成長こそが全て」「リベートは当たり前」の風潮のもとで急激な成長を遂げてきた中国、そこに我が国の国家予算の何倍もの資金が湯水のごとく投入されてきたのだから、リーマンショック後、世界が低成長率にあえいでいる最中、10%を超す成長を遂げたのは当たり前である。
しかし、そんな節操を失った政策がいつまでも続くはずがない。「理財商品」と呼ばれるサブプライム・ローンと同様な高金利商品をシャドウバンキング(幽霊銀行)を通して販売し、巨大な資金を集めていた地方政府や国有企業が不動産バブルの崩壊によって一気に破綻し、中国経済の大失速が始まるのは、もはや時間の問題である。
それが分かっているからこそ、今回、中国指導部が重い腰を上げ、初の全政府機関の検査に乗り出したというわけである。発足間もない「習ー李体制」が検査に乗り出したのにはいま一つ理由がある。巨額の投資を許したのは先の政権「胡錦涛ー温体制」であったわけであるので、もしも、バブル崩壊で経済失速が起きたとしても、その責任を前政権に押しつけることが出来るからである。
いずれにしろ、3ヶ月以内には結果が出て、借金の総額が明らかにされるようだが、その数値がいかなるものになるかは別にして、審計署が2011年に行った主要な地方政府だけを対象した検査の結果でも、地方の借金を10.7兆元(170兆円)と発表しているいることからして、少なくとも借金総額(国有企業の借金を除く)は250兆円、300兆円を下回ることはなさそうである。
かねてから中国政府の発表する経済統計数値には信頼性がもたれていないので、どこまで性格な数値が発表されるかは分からないが、7〜9月期の経済成長率の発表数値と共に、10月に発表される借金総額の数値は「習−李体制」を揺るがすだけでなく、世界市場に大きなショックを与えることになる可能性は大である。