ここしばらくの間、世界の経済や各国の財政問題は鳴りをひそめて表だった動きを見せずに来た。
世界を騒がせてきたユーロ危機をはじめ、米国のデフォルト問題、中国のシャドウバンキング問題など世界各国の経済情勢や財政問題に一向に改善状況が見られない中で、その動きは不気味なほど静かだったと言える。
そんな中、市場が最も注目してきていたのは、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融緩和策の縮小が、いつ、どのような形で始まるかという点であった。米国の量的緩和、つまり、2008年のリーマンショックで落ち込んだ景気を回復させるために、FRBは市場に第1弾、第2弾、第3弾と3回にわたって大量な資金を流し続けてきたわけであるが、その流れ
にいつ、どのような形でストップがかかるかという点であった。
それだけに、17、18の両日行われた連邦準備制度理事会の連邦公開市場委員会(FOMC)後に行った、バーナンキ議長の緩和縮小せずという発言は、市場に大きな驚きを与え
るところとなった。市場参加者の多くは緩和策の縮小、つまり資金のばらまきを年末に向けて終了することになると考えていたからである。
その結果を受けて世界の市場はどう動いたか? 市場への資金のばらまきが続くことになったわけであるから、当然市場は好感し国債価格は上がり(金利は低下)株価は上昇。議長の発言を受けて18日のニューヨーク市場はダウ平均は147ポイント高の15,677ドル、史上最高値の更新
となった。また世界中の市場も同様で、日本はもとより、ドイツ、イギリス、フランス、中国全ての市場が高値引きで終わった。
景気回復説の欺瞞が露呈
しかし、冷静に考えたら誰でもが不思議に思うはずである。なぜなら、5月以来金融緩和策縮小に向かう意欲を示し続けていたバーナンキ議長
が緩和縮小を見送ったのは、米国の景気回復が決して順調に進んでいないことを認めたことになるからである。
それでは、景気回復を声高に叫んで7000ドルまで下落した株式をわずか4年の内に、2倍の14000ドルを超えて、史上最高値の16000ドル近くまで上げてきた、市場の
景気回復論は偽りだったということになってくる。
GDP(国内成長率)は2%前後で止まっており、失業率も10%からは低下して来ているものの、まだ7.3%で
リーマンショック前の4%台に比べれば高止まりしたままである。しかも失業率の低下要因は、私がこれまで何度も触れてきたように、高齢者の増加と職探しを諦めた人たちが大量に出てきたことである
。つまり実質的な失業率は、今でも9%前後で高止まりしたままなのである。
高級マンションが売れているのは、市民の購入意欲が高まっているからではなく、緩和マネーが流れ込んだ中国やインド、ブラジルなど新興国の資産家たちが資産運用として購入しているからである。完売したマンションに実際に人が住んでいる割合が10%に満たないのがその証拠である。
消費者の節約志向も景気回復が本物でないことを示している。全米各地で100円ショップの米国版「1ドルショップ」が活況を呈していることを見れば、それは明らかである。市民は決して好景気を実感し財布のひもを緩めているのではないのである。
なのに、景気回復論を声高に叫んで株価を市場最高値まで押し上げてきたのは、FRBが3度にわたって市場にばらまいた360兆円に達する膨大な「緩和マネー」を使って、カネの亡者と化した市場関係者たち
が金儲けのために、博打相場を展開して来たからである。
それにしても、景気回復が遅れていることがはっきりしたというのに、史上最高値を付けるというのだから、なんともおかしな株式市場である。企業の業績や経済の動向を反映するはずの市場がいかに狂気じみて来ているかが読者にもお分かりになるはずだ。その裏に「闇の勢力」がうごめいていることは明らかだが、彼らは戦争景気の到来まで好景気、株高を維持していたいのであろう。
株高・債券高の行方
ということで、しばらくは米国を始めとした先進国の株高、債券高は続くことになるに違いない。再び、じゃぶじゃぶマネーが流れ込
むことになった新興国市場も回復基調になるかもしれない。しかし、FRBが際限なくいつまでも毎月850億ドル(8.5兆円)もの資金を投入して国債を買い続け、金利を抑えて続けることが出来るはずがない。
山高ければ谷深しである。この後に緩和縮小策に踏み切った時の衝撃は一段と大きくなり、谷底に向かって真っ逆さまとなることは間違いない。後はそれが
いつになるかだけである。
次なる谷底転落の要因は、10月に底をつく米国財政の問題である。
政府債務はすでに現在法的に認められている、16.7兆ドル(1640兆円)まで膨らんでおり、借金の増額が議会で認められない限り、債務不履行(デフォルト)になることは避けられない。
ベイナー下院議長は、債務上限問題に関して先月末にすでに「簡単に問題解決に到れることを約束できれば良いと思うものの、申し訳ないがそんなことにはならない」と
、債務問題が2011年時のように大きな問題となる可能性が高いことを示唆している。
しかし結果的には、議会は暫定予算の延長策で今回もデフォルトの先延ばしを図ることになるのではなかろうか。その間、我々はマスコを通じて、その茶番劇を見聞きさせられることになりそうである。