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中国政府は23日、尖閣諸島上空を含む東シナ海空域に、「防空識別圏」を設定したと発表。「防空識別圏」とは聞き慣れない言葉であるが、国際法上の「領空」とは異なるもので、領空のすぐ外側にある空域で、戦闘機が緊急発進(スクランブル)する際の判断基準となる空域のことを指す言葉である。それ故、「防空識別圏」の設は国家間の軍事的トラブルの発生につながる恐れがある重要な問題である。
一方、「領空」に対して「領海」という言葉がある。これまで中国は何度も尖閣諸島を自国の領土だと主張し、付近の領海に自国の船舶を進入させてきていることは読者もご承知の通りである。しかし領空に関するルールは領海よりもはるかに厳しいだけに、勝手に防空識別圏を設定するという行為は、これまでの行動と比べてかなり強い敵対的行為と見なされている。どうやら、ここに来て尖閣諸島問題で冷え込んだ日中関係は、更なる次元に突入してしまったようである。
「防空識別圏」の設定は東シナ海の広域に渡るため、日本政府からだけでなく、韓国やオーストラリア政府からも中国大使を通じて強い抗議が行われている。仲良しの中国と韓国もこれが縁の切れ目になるかもしれない。一方、米国政府も「不必要に対立をあおる」行為だと今回の行為を非難し、25日夜にはB52戦略爆撃機2機を中国への事前通報なしに、「防空識別圏」内にあたる沖縄県・尖閣諸島上空を抗議飛行させている。
中国政府は今回の「防空識別圏」だけでなく、これから先も東シナ海や黄海など他の地域でもさらに「防空識別圏」の設定を広げていくと述べているだけに、フィリピンやベトナムなど東南アジア各国からも更なる抗議が強まり、世界的批判の大合唱が沸き起こることは間違いない。
中国が今このタイミングで、こうした国際社会からの批判を百も承知で、地域の情勢を不安定化させる挑発的な行為に出た裏には、拡張主義に則った領土拡大の野心が見え隠れしていることは紛れもない事実だが、我々はもう一つ、中国情勢の裏面に隠れた重要な意味を見落としてはならない。それは、国内の危機を海外に転嫁するという中国政府の「伝家の宝刀」が抜かれたことである。
彼らは共産党政府による一党の支配体制が限界に近づいて来ていることに強い危機意識を持ってきており、国民の中から沸き上がりつつある強い批判や不満が爆発し、いつ政権転覆につながることになるかと戦々恐々としている。
中国の国営メディアが今回の「防空識別圏」の設定を国民の85%が支持していることを、大々的に伝えている裏に、共産党指導部のそうした不安心理が手に取るように見えてくる。平静を装っているものの、政情不安の実体を熟知している周近平氏も胡錦涛氏も、共に夜も眠れない心境にあるのではなかろうか。
それ故、国民の矛先を外に向けさせるため、あえて挑発的行動に出ることで危機を演出し、国民の目を外に向けさせようとしているのである。言うなれば、中国指導部をして今回、唐突とも思える「防空識別圏」設定へと導いたのは、先に発生した天安門広場での車の突入・炎上事件や山西省の共産党委員会建物前での爆破事件であったと言うことである。
中国は今、それほど危機的状況にあるのだ。国家的暴動と内戦への発展は決して空言ではなく、それを防ぐためなら、中国政府が尖閣諸島への更なる強硬姿勢を展開して来ることは十分にあり得ることを、我々は頭に入れておきたいものである。
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