中国共産党政権による1950年代のチベット人虐殺とその後の抑圧政策については、既に記してきた通りであるが、ここ数年、チベット族遊牧民に対して強制移住というさらなる人権無視政策が強行されているようである。
ニューヨークに本部を置く人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が明らかにしたところによると、中国政府が「新社会主義村」と呼ぶ地域に、チベット族遊牧民を強制的に移住させており、その数は2006年以降過去7年間ですでに200万人に達しており、全人口の3分の2を超えてきている。
さらに2014年末までに90万人の移住を計画しているというから、全てのチベット族遊牧民を「新社会主義村」に移住させることになる。何世代にもわたって遊牧生活を送ってきた彼らを強制的に草原地帯から追い払い、孤立したまったく新しいエリアに移住させようというわけである。
「新社会主義村」と称される村に建てられた、移住者用の膨大な数の建物の写真(写真上)を見ると、そこはまるで強制労働収容所のようである。先祖代々長い間
、馬にまたがり草原地帯で羊と共に遊牧生活を送ってきた人々にとっては、荒涼とした土地に建てられた鉄筋コンクリート造りの集団生活の世界は全くの異次元であり、慣れ親しむこと
は容易に出来ることではなさそうだ。中国共産党はこうしてまた新たなカルマを背負うことになる。
当然彼らには仕事がないので所得収入が得られない。そのため今は政府の生活保護で暮らしているようであるが、このようなことがいつまでも続けられるはずがなく、やがては中国政府の考える仕事に就かされ、呈の良い強制労働者的な生活を余技なくさせられる事になりそうである。
増え続ける漢族の食糧確保を目的とした新農業政策のために、周辺の自治区に住む他民族の人権を無視したこうした政策は、既に高まってきている中国当局との緊張関係をさらに悪化させる事になるのは必定で、その一つが100人を上回る痛ましい焼身自殺である。
6月26日に発生した新疆ウィグル自治区における35人の死者を出した暴動もまた、長年の漢族とウイグル族との民族対立が浮き彫りとなった事件である。
新疆ウイグル自治区といえば、かって中国軍が自治区の居住区域で大規模な地表核実験を40回以上に亘って行い、環境や住民の健康に甚大な被害を及ぼしたという事実を思い出
さずにはおられない。
中国は、新疆ウィグル自治区で、広島の原爆の数十倍20メガトン級の核実験を46回も行っており、十数万人の犠牲者が出ているといわれている。こうしたおぞましい行為は、中国政府が隠蔽し続けているため、その実情を知る人は少ないが、
放射線防護学の専門家らの報告が行われたシンポジウム「シルクロードにおける中国の核実験災害と日本の役割」(平成21年3月18日・日本ウイグル協会主催)をユーチューブで見れば、それが根も葉もない噂話でないことが分かる。
実は、新疆ウイグル自治区でのウイグル人と漢民族との対立の裏には、こうした長年の積み重なった恨みが隠されているのである。これもまた中国共産党の持つ大きなカルマの一つである。中国内での対立は漢族と他民族間だけではない。同じ漢族の中でも、都市戸籍を持つ人々と農村部戸籍の人々の間にも根深い対立があり、次第にそれが表面化してきている。
この1年間で中国各地で起きたデモや暴動は想像以上に多く、先日のNHKスペッシャル「中国激動・怒れる民をどう収めるか」を見ると、その数は20万件に達している。その数字を見ると、報道規制を敷いているため外部の者にはなかなか見えにくいが、漢族と
少数民族間の対立や漢族間内部の対立がどれほど数を増してきているかが分かろうというものである。あとはそうした暴動やデモがいつ本格化し、血で血を洗う
事態となるかである。