シリア情勢は内戦化してから既に2年が経過しようとしているというのに、依然として解決策が見出せないまま、ますます混迷を深めて来ている。
アサド政府と反政府軍の戦いだけでなく、反政府軍の中でも様々な勢力が自己の判断で戦っているため、時には戦闘を交えることもあり、そうしたことが和平への呼びかけに反政府軍
側が応じられない要因となっている。
一昨日(7月9日)、国境なき医師団の「シリア活動特別報告会」に参加させて頂いた。その際に、「国境なき医師団日本」の会長で、シリアでの外科医として任務を終え帰国されたばかりの黒崎伸子
先生からシリアの現状をお聞きした。状況はますます厳しくなって来ており、医療に従事する医師や看護婦さんも一歩間違えば命を失う厳しい状況
下で、使命を全うしておられるようである。頭が下がる思いだ。
医療施設には、戦闘行為に巻き込まれた犠牲者だけでなく、日常生活の中で質の悪い燃料や手作りの精油装置などによる事故で、熱傷になった女性や子供たちが多く運び込まれているとのことであった。医療施設も病院が攻撃、破壊の対象となって来ているため、一般の住宅を改造したり、時には
ビルの谷間の洞窟のような空間を施設代わりに使っているようである。
隣国イラクやレバノン、ヨルダン、トルコへの避難難民の数も増える一方で、年内には人道支援が必要な国内避難民を合わせると、人口の半分に当たる1000万人を超えそうで、各国とも受け入れの限界に達しようとしている。そのため、避難民への支援活動も手一杯で、たどり着いた避難先で病に倒れ、亡くなる人々も次第に多くなってきているようである。
自国に残るも地獄なら、避難民となるもまた地獄。シリア国民の多くはそんな悲惨な状況下で日常生活を送っているのである。
我々の出来ることは「国境なき医師団」など支援団体への義援金寄付と内戦終結への祈りしかない。
周辺国も内乱状態へ
シリアの惨状にだけ目を向けていては見過ごしてしまうが、その周辺国もまたここに来てにわかに混乱状態を呈し始めてきている。イラクは米国軍が引き上げた後も一向に政情は安定化せず、全国各地で相変わらず爆弾テロが発生し多くの犠牲者が
発生し続けている。
比較的安定していたレバノン、ヨルダン、トルコであるが、トルコではイスラム色を強めるエルドアン政権に対する反発が勢いを強め、イスタンブール中心部のタクシム広場周辺での大規模デモは強制排除されたものの、数千人規模のデモは今もなお続いている。これから先トルコでは、社会の2極化が進み、対立が先鋭的になる懸念が広まっており、一歩間違えばエルドアン政権転覆の可能性もあり得る。
一方、ここに来てレバノンもまたシーア派民兵組織ヒズボラがシリアの戦線に参加したことで、スンニ派が反発を強め各地でデモが起きており、一歩間違えると、かっての内戦状況に逆戻りする可能性が出てきている。
トルコやレバノン以上に心配なのがエジプトである。現代のファラオ(法王)とまで呼ばれていたムバラク大統領が放逐され、初めての民主的選挙によって当選したムスリム同胞団
が支持するムルシ大統領政権も軍による事実上のクーデターでたった1年余で崩壊。その後
、ムルシ派、反ムルシ派の激しい争いが起きており、エジプトもまたシリア同様内戦状況に陥る可能性が出てきている。
読者はお気づきになっているかどうかわからないが、今回取り上げたトルコ、レバノン、シリア、エジプト、それらは皆イスラエルに隣接する国々である。北にレバノン、東にヨルダン、南西にエジプト、北東にシリア、そのシリアに隣接しているのがトルコである。
どうやらこれらの国々の政治情勢が混乱を極め内戦状態化しようとしているのには、何か裏がありそうである。
今、イスラエルが先制攻撃を仕掛ける可能性が一番高い国はイランであるが、その際、隣接する国々が内戦状態や混乱状態に陥っていれば、安心して対イラン戦を戦える。
中東諸国が一致団結してイスラエルに立ち向かうことが出来ないからである。
そう考えると、シリアやエジプトが混乱状態にあることは、イスラエルにとっては好都合である。また、近隣諸国が向かっている方向が、トルコもエジプトもイスラム色が弱いスンニ派政権の誕生だけに、シーア派筆頭のイラン叩きにはもってこいの情勢である。
エジプト軍によるモルシ大統領の解任はワシントンの意向に沿ったものとも言われている。だから米国は今回の政変劇を軍事クーデターと呼ばないようにしているわけで、
そのワシントンの後ろにイスラエルがいることは言うまでもない。いずれにしろ、中東諸国のこれからの動きについては、新たな中東戦争の可能性も頭に入れて見て
いくことが必要のようだ。